30.バロウの過去1
バロウの過去の話です。続きます。
※登場人物の死、火事の描写があります。
バロウには父親しか居なかった。バロウの母親はバロウを産んですぐに病気で亡くなった。
「人助けはとても気分が良いんだぞ、バロウ。」
バロウの父親はいつもそう言ってバロウに微笑んだ。バロウの父親は困っている人に積極的に声をかける変わり者だった。
時にはバロウとの約束よりも人助けを優先する事があり、まだ父親に甘えたいと思う気持ちが強かったバロウは不満が大きかった。
村中の人達は父親を素晴らしい人だと評価したが、中には面倒事を押し付けられる丁度良い存在として嘲笑ったり、馬鹿にする人も居た。
「バロウ、何故怒ったんだ?」
「だって…あの人達は父さんを馬鹿にしたんだ!」
バロウは父親を小馬鹿にして笑う大人達に突っかかった事があった。バロウは父親の為に怒り、間違った事はしていないと思っていた。
「いいかバロウ、人を傷付けるような行為や悪口を言ってはいけない。分かったな?」
だが父親はバロウを叱責し、小馬鹿にしてきた大人達に頭を下げた。バロウは理不尽な想いに駆られ、悔しくて顔を歪めた。
「…ほら、帰るぞバロウ。」
「っ…。」
父親はバロウの頭を撫でてきたが、バロウは父親の手を払い除けて歩き出した。
「おい、バロウ!」
父親の声を無視してバロウは歩き続ける。父親には不満があるし、嫌いだと思う事も多々あるバロウだが、それと同時にたった1人の家族でもある父親は大切な存在だった。
ゴォォォオォッ…。
「きゃあああ!!」
「早く水を持って来いっ!!」
「くそっ、どんどん勢いを増してるぞっ!」
バロウと父親が買い物の為に外出していると、人々の悲鳴が聞こえていた。悲鳴が聞こえてきた方角に目を向けると、赤い光が…火の粉が見えた。
そのまま進んでいくと、誰かの家が勢いよく燃えて火事になっていた。
「待って!! まだ家の娘がいるんですっ!!!」
「っ!!」
「父さんっ!?」
燃えている家の持ち主らしき女性の声を聞いた父親は、一目散に燃えている家の玄関に飛び込んで行った。
「やめて、やめてよ、行かないで父さんっ!! 父さぁんっ!!」
「おい、危ないだろうっ!?」
バロウの悲鳴に振り返る事なく燃える家へと消えて行った父親。バロウが父親の後を追うと思ったらしい男がバロウを後ろから取り押さえるように動きを封じてきた。
「っ!? イリヤっ!!」
「お、お母さぁぁんっ!!」
暫くすると全身灰だらけで汚れている、バロウと同い年くらいの女の子がまだ完全に燃えていない玄関から現れた。
「っ、あぁ…、イリヤ!!」
母親らしき女性が女の子の名前を呼びながら抱きしめた。
「お、おじさんが助けてくれたの! 私の為に通り道を作ってくれて…は、早くおじさんを助けて上げないと!!」
ゴオオウッ!!
次の瞬間、炎はとてつもなく勢いを増して玄関を覆い尽くすように燃えてしまった。もう、人が通れるとはとても思えなかった…。
「あ…あぁ……。」
バロウは動きを封じられていて身動きが出来なかったが、封じられていなければ地面にへたり込んでいただろう。
周りの人の悲鳴や火を消そうと水をかける人達の声が聞こえてくる中、バロウはただ燃え続ける家を愕然としながら眺め続けた…。
数時間後、家を燃やし尽くした炎は鎮火した。バロウの父親は脱出する事が出来ず、イリヤを助けて灰となってしまった…。
「ごめんなさい…本当に、ごめんなさい!!」
「う、うわぁぁんっ!! ごめんなさい!」
「…。」
イリヤの母親とイリヤは、俯いて座り込むバロウに必死に謝罪した。
周りの人達は燃え盛る家と、家を無くしたイリヤ達、そして父親を失ったバロウを気の毒そうに遠巻きに見てきた。
バロウはイリヤ達の言葉に反応する事も、泣き喚く事もなく、ただ俯いて静かに涙を流している。バロウは父親を、たった1人の家族を失った…。
「…父さんは実の息子の俺よりも、他人を助ける事の方が大事だったんだ。」
だがバロウの胸の中を渦巻いていたのは、父親を失った悲しみでは無かった。取り残されるバロウの事を考えず、他人を…人助けを優先した父親に対する怒りと失望だった…。
◇◆◇
孤児となったバロウは村に一つだけある孤児院で暮らす事になった。
「なぁバロウ、僕も両親を亡くしたんだ。僕を庇って…だから…。」
「うるせぇよ、だから仲良くしようって事か? お前みたいな暗いやつなんかお断りだね!」
孤児院にいる子供達の事情は様々だ。虐待にあって保護されていたり、赤ん坊の頃に捨てられていたり、バロウのように家族が亡くなってしまったり…少なくとも、バロウを含め此処に居る子供達は幸福と呼べる環境に居ない事だけは間違いなかった。
そんな中で親を亡くした、バロウと同じ理由だと思った子達はバロウと傷の舐め合いをしたかったのか、仲良くなれると思ったのか、話しかけてくる子が何人も居た。
だが、バロウは冷たくあしらった。子供である自分を庇って死んでしまった、出かけた先で事故に遭った等人によって理由は違った。しかし、バロウの父親のように自分の子供より他人を優先した話なんてない。
その事に対して嫉妬心もあったバロウは、話しかけてくる子達を全員遠ざけた。
「バロウ君、辛いのはみんな一緒なのよ。だから冷たい態度なんか取らないで頂戴。バロウ君のお父さんを見習って、周りの人達に親切に…。」
ある日、バロウの態度を見兼ねた孤児院の院長はバロウにそう言ってきた。父親のように親切な人間になれと言うような言葉に、バロウは考えるよりも先に怒りに支配されて口を開いていた。
「うるせぇよ、クソババア!」
「なっ…!」
院長はバロウからの罵倒を想像していなかったのか驚いた顔をした後、表情を歪めた。
「うわ~、すげぇ皺が寄ってるぞ。ブッサイクだな院長?」
「バ、バロウ君、何て事を…!」
「もう行っていい? じゃあな、院長。」
真っ赤になった院長を小気味良さそうに鼻で笑ったバロウは、そのまま背を向けた。
その日からバロウは少しでも気に入らない事があれば相手に嫌味や悪口を言うようになり、そんなバロウを周りは敬遠するようになった。バロウは孤立したかった訳では無かったが、少なくとも父親の事を言われて近付かれるよりは断然マシだった。
「こんにちは、バロウ君。」
孤児院の中で敬遠されて1人で過ごすようになったバロウに会いに来たのは、イリヤとイリヤの母親だった。
「…。」
バロウはイリヤ達を恨んではいないが、何とも思っていない訳では無かった。何とも言えない顔で、無言のままでいるバロウに気不味そうにしながらも、イリヤの母親が口を開いた。
「あのねバロウ君、お願いがあるの。イリヤのお友達になって貰えないかしら?」
「は?」
バロウは目を丸くして、イリヤの母親を見た。
「その、イリヤは昔から友達が居なくてね…ねぇイリヤ?」
「う…うん。」
イリヤは気不味そうに俯きながら頷いた。
「…。」
バロウはイリヤが、バロウと友達になりたいと思っているとは思えなかった。それに、イリヤ達からしてみればバロウは、自分達の為に死んでしまった人の子供だ。気不味い存在の筈なのに、何故なのか分からない…。
「お前、俺と仲良くしたい訳?」
「えっ…う、うん。」
だが、自分で周りの人を遠ざけているのに誰かと一緒に居たいという思いがあったのかもしれない。
「…分かった、友達になってやるよ。」
「…!」
「嬉しいわ、有難うバロウ君!」
バロウが了承するとイリヤは驚いて目を丸くし、イリヤの母親は安心したように微笑んだ
イリヤがどんな性格かはまだ分からないが、父親の件もあるのだからバロウに強くは出られないだろう。そんな打算的な考えも持ちながら、バロウはイリヤの友達になった…。
バロウの過去編です。箇条書きでまとめようと思いましたが書く事にしました。バロウの父親はアスランと同じではありませんが似たような存在でした。バロウの過去編が終わったらアリーとバロウの後日談を書いて終わりになると思います。
ここまで読んで頂き本当に有難うございました!




