28.勇者とお姫様5
アスランのその後お話の最後です!
「アスラン様っ…あぁ、やはり貴方は素敵なお方です!」
「但し、結婚はまだ待って下さい。」
アンジェリカは感激したように微笑みながらアスランに抱きつこうとしたが、アスランの言葉に笑顔のまま動きを止めてしまった。
「俺は、アンジェリカ王女の護衛として城に行きます。ジェラルド王子を説得して、和解できれば女王になる必要はないと言いましたよね。アンジェリカ王女の言う通り、俺は平和の象徴として、できる限り穏便に事を済ませたいと思っております。」
「…アスラン様。私は、事情とは関係なしに貴方を愛してもいるのですよ? 私以外に相応しい方もいないと言った筈です!」
結婚を拒否したアスランに、アンジェリカは瞳を潤ませながら訴えるように言った。
「…俺はまだ、リリアンの事が好きなんです。彼女への想いを捨てきれていません。」
そんなアンジェリカに気不味そうな顔をしつつも、アスランは正直に今の気持ちを話した。
「…、そう、なのですか。」
アンジェリカは一瞬真顔になったが、すぐにまた悲しそうな顔をした。
「それに、俺には仲直りしたい人達が居ます。仲直りする為にはこの村にいないと叶わないのです。アンジェリカ王女と結婚してしまったら、全て叶わなくなってしまいます。」
「…でも、私と一緒に城に行って下さるのですよね?」
理由は何であれ、アンジェリカと共に城に行くというのなら結局村を離れる事と変わらない。アンジェリカは不思議そうな顔をしてアスランを見た。
「はい、アンジェリカ王女を助けたいですから。」
アスランはアンジェリカに安心させるように微笑んだ。
「でも、ジェラルド王子を説得してアンジェリカ王女の不安を取り除く事が出来たら、俺はこの村に帰って来ます。仲直りしたい人達には事情を説明すれば分かって貰えると思いますので。」
アリーとの約束を破ってしまう事になるが、アスラン個人の都合ではなく、アンジェリカを助ける為だから仕方がない事だ。アンジェリカを助ける以外の目的で外出したり遊んだりしなければ、アリーだって分かってくれる筈だとアスランは自分に言い聞かせた。
それともう一つ、アスランが村にいない間にリリアン達がアスランに会いにこの村に来てすれ違ってしまった場合、村の誰かがアスランの事情を説明してくれれば、リリアン達は城まで来てくれるに違いないと思った。
アスランと同じく魔王退治に貢献したリリアン達なら、王家も城にいるアスランと会う事を許してくれる筈だと、アスランは考えたのだった。そうなればリリアン達も協力してくれるかもしれない…。
「…分かりました。」
アンジェリカは暫く無言のままだったが、納得したように笑みを浮かべた。
「アスラン様が私と一緒に城に来て頂けるだけで充分ですもの!」
アンジェリカの返答にアスランは安心したように微笑んだ。
その後アスランは、家の中から様子を見ていたレコに事情を説明した。レコもアスランと共に城に行く事を決めてくれた。
「婆ちゃん、本当にいいのか?」
「…えぇ、アスランの傍に居られればそれで良いわ。」
「…。」
本当は、レコは慣れ親しんだ村から離れたくないのだろうとアスランは感じた。けれどアスランが居なくなれば、レコはアリーの両親か、他の誰かに世話をして貰う事になる。誰かの迷惑になりたくないと思ったのだろう…。
アスランはアンジェリカとアンジェリカの連れてきていた従者に身支度を手伝って貰いながら、村人達に挨拶をしに行った。
「アスラン様、他の人達に王家の事情を絶対に漏らさないで欲しいのです。“私からの依頼で護衛の為に城に行く事になった”というようにお話して下さい。」
内部事情を漏らす訳にはいかないと言うアンジェリカのお願いにアスランは納得し、村人達に別れの挨拶回りをした。
「っ、流石アスランだな! でも居なくなっちまうのは寂しいなぁ。」
「アスランが王女様と…そっか、そうよね。」
「すげぇなアスラン! でも、納得だわ…。」
村人達はアスランの話を聞いて驚いたり、寂しがったりと色々な反応をしてきたが、全員が何故か納得したように頷いた。
「そう…アスラン、気をつけてね。レコさんもお身体を大切にしてね。」
「色々と有難うな、アスラン。レコさんも元気で…。」
相変わらず、何処か危うい関係になってしまったアリーの両親にも挨拶に行くと、2人はまるでアスランとレコに最後の別れをするかのような言葉をかけてきた。
「いやいや、俺はまた村に戻ってくるつもりですよ! アリーとの事も諦めていませんから!」
「ふふっ…。」
「…。」
アリーの母親はアスランの言葉に笑い、アリーの父親は何も言わずに目線を逸らした。そんな2人に、アスランはかける言葉が見つからず、気不味い沈黙が訪れた。
「お2人には、随分と迷惑をお掛けしました。本当に有難うございました。」
「いえ…そんな。」
レコがお世話をしてくれた事のお礼を改めて言うと、アリーの父親は謙遜するように首を振った。
「私達は短い間だけお手伝いしただけですから…。」
「……。」
アリーの母親が苦笑いしながら言った言葉に、その場は再び沈黙してしまった…。
◇◆◇
「それではアスラン様、参りましょう!」
何処か沈んだ様子のアスランとレコの様子に気がついていないのか、アンジェリカは晴れやかな笑顔でアスラン達を迎えた。
「あぁ、行きましょう。」
アリーの両親の事が気掛かりで仕方がなかったが、今はどうする事も出来なかった…。アンジェリカの問題を早急に解決し、少しでも早く村に帰らなければとアスランは改めて決意を固めた。
「近くに送迎用の馬車が止まっております。王族だとバレない為に、外見は目立たない造りとなっておりますが乗り心地はそこまで悪くないと思います。」
「そうですか…。」
レコにあまり負担をかけなくて済みそうだとアスランは安心したような笑みを浮かべた。
アスランはこの時、想像すらしていなかった。
アンジェリカの話が嘘である可能性がある事。王家の内部事情は、アスランの正義が通用するような世界ではない事。…そして、喫茶店での話し合いがアリーとリリアン達との最後の会話だった事。もう村に帰る事は出来ず、国の為、民の為、個人の欲の為に城で生涯を終える事になるだなんて、思いもしなかったのだ…。
「ふふっ…。」
ただ1人、アスランの未来を予想していたであろうアンジェリカだけが、嬉しそうに美しく微笑んでいた…。
『勇者とお姫様』はこれで完結です。感想を書いて下さった殆どの方が予想していた通りの結末になった思います 笑 アスランの性格は問題がありますし、アリーやリリアン達を傷付けました。しかし、世界を救ったという功績はありますし、あまりにも悲惨な目に合うのはどうかなと思ったので、世間的には王族の仲間入りをした英雄という好意的な印象を持たれるが、本人は幸せとはいない環境で過ごす事になるという結末にしてみました。 次はリリアン達の話を書こうかなと思います。
ここまで読んで頂き本当に有難うございました! もし宜しければ評価して頂けると嬉しいです!




