26.勇者とお姫様3
アスランのその後の続きです。
「アンジェリカ王女…どうしてこの村に…?」
「勿論、アスラン様を迎えに来たのです!」
アスランとアンジェリカはアスランの家の庭で2人になった。レコとアンジェリカが連れて来た人達はレコの家の中に居る。レコ達は窓越しにアスラン達の様子を伺っているが話し声は聞こえないだろう。
「む…迎え?」
当然の事だと言わんばかりに話すアンジェリカに、アスランは言葉の意味が分からずに呆けてしまった。
「リリアン様と別れたのですよね、アスラン様?」
アンジェリカの声は質問ではなく、確認をするような響きがあった。
「っ、ど、どうしてその事を!?」
「ふふっ!」
驚愕するアスランに、アンジェリカは無邪気な笑みを浮かべるだけで何も答えない。
「…ま、まさか、俺達の様子を常に見ていたのですか?」
アスランが間違えであって欲しいと言わんばかりに恐る恐る質問すると、アンジェリカは困ったように微笑んだ。
「私、アスラン様達の事が…いいえ、アスラン様の事がどうしても気になってしまいまして、各地にいる私の知人からアスラン様の話を聞いていたのです。3ヶ月程前にリリアン様達と別れてから、ずっとこの村で過ごされていますよね。リリアン様とは破局されたという事で、間違いありませんよね?」
「っ…。」
ずっとアンジェリカに監視されていたという事実に表情を引き攣らせたアスランであったが、リリアンの話が出ると表情を曇らせた。
そんなアスランを気の毒そうに、けれど何処か嬉しそうにアンジェリカは見た。
「お可哀想なアスラン様。でも、これから先は私が傍に居ますから。」
「は…?」
アンジェリカはアスランの両手と自身の両手を絡ませるようにキュッと握った。
「ふふっ、“アスラン様を迎えに来た”と言ったでしょう? アスラン様は私と結婚して、城で一緒に暮らすのです。アスラン様は我がクロノス王家の一員として、大勢の人々から祝福されるのです。」
満面の笑みを浮かべるアンジェリカにアスランは一瞬ポカンッと呆けたが、すぐに我に返りアンジェリカの手をぎこちなく振り解いた。
「い、いや待って下さい! そんな事を急に言われましても…お、俺はその、アンジェリカ王女の事をその…。」
アスランはアンジェリカに対して恋愛感情を抱いていないと、アスランはハッキリと最後まで言葉には出来ないものの、アンジェリカに伝えて断ろうとした。
「大丈夫ですよ、アスラン様。私の想いが何時かはアスラン様に届くと信じておりますから。」
だがアンジェリカは一切怯む事なくの笑みを浮かべるだけだった。
「…っ、お、お気持ちは大変光栄です。でも、俺はこの村を出るつもりはありませんよ。アンジェリカ王女はこの村に居続ける事は出来ないでしょう?」
アリーとの条件の為もあるが、そもそもアスランは城で一生を過ごすつもりも、アンジェリカと結婚しても王族の一員になるつもりも無い。
アスランに会う為にバーランドをどう説得したのかは分からない。だが、アンジェリカは本来大国から離れた場所に外出出来るような立場の存在ではなく、長く城から離れる事は許されていない筈だ。
「ええ、ですからアスラン様がこの村を出て私と一緒に大国に来て下さい。私、アスラン様を直接お迎えしたくて危険を承知でここまで来たのですよ。」
アスランの指摘をアンジェリカは素直に認めるが、アスランが城に来れば済むと言って諦めようとしない。
そんなアンジェリカの態度に、アスランは何とも言えない気持ちになりながらも口を開いた。
「っ、いやだから、俺にそのつもりは…。」
「アスラン様のお祖母様も一緒に城で暮らせますよ。だから荷物を纏めて下さい。私の従者もお手伝いしますから。」
アンジェリカの中ではもう、アスランが城に行き、アンジェリカと結婚する事が決まっているかのように話を進めていく。そんなアンジェリカにアスランは、次第に苛立ちを募らせていった。
「…アンジェリカ王女! 俺はこの村を離れる事も、城で過ごす事も、貴女との結婚も出来ません!」
アスランなりに王女への態度を崩さないように気を付けていたが、ハッキリと断る為に声を上げた。
「…何故ですか? まだ私を愛していない事は理解しておりますよ。でも、それでも構わないと言っているではありませんか。」
アンジェリカは悲しそうな顔をしながらアスランに質問してきた。
「…俺は、自分が好きになった人と結婚したいです。それに、俺は王族としての地位や権力なんて欲しくありません。今まで通り、平民として過ごしていきたいのです。」
好きな人と結ばれたい、今までの生活で充分だと思うのは普通の事だとアスランは思っている。アンジェリカの価値観がどんなものかは分からないが伝わって欲しいと思いながらアスランは話す。
「それに、俺はまだ…。」
アスランはまだリリアンへの気持ちが捨てきれていないと言おうしたが、最後まで言う事が出来ずに途切れてしまった。
「と、とにかく…俺にはこの村に大切な人達が沢山居ます。この村に居ない人達とも繋がりがあるのです。大国の、しかも王族になってしまったらその人達とも中々会えなくなってしまう…それは、受け入れられません。」
それに、アリーとの条件を達成する為にはこの村から離れる訳にはいかない。アンジェリカと結婚してしまったらリリアンと復縁する事も出来ない。アスランはアンジェリカの誘いに乗る訳にはいかなかった。
「…つまりアスラン様は、この村で一生を過ごされると言うのですか?」
「…一生、なのかは分かりませんが。」
アスラン自身もその点は分からない。アリーとの条件で5年間は村から出ないつもりだが、その後も村に居続けるのか、それともアリーのように村を出て何処かで暮らすのかはその時の自分次第だろう。
「ふふっ、うふふふふっ!」
アンジェリカはおかしいと言わんばかりに口に手を当てながらも笑い出した。
「流石ですねアスラン様! お父様の褒美を断っただけの事はありますわ。なんて謙虚な方なのでしょうか…。」
アンジェリカは笑った後、感動したかのようにうっとりとアスランを見た。
「べ、別に俺は謙虚なんかでは…。」
アスランは笑われた事に驚きつつも、アンジェリカに自分の思いを理解して貰えたのかと思いホッとしたように微笑んだ。
「私、ますますアスラン様の事を好きになってしまいました! やはりアスラン様と私は結ばれる運命なのですね…。」
だが、頬を赤く染めながら笑みを浮かべるアンジェリカの言葉に、アスランは固まってしまった。
「さぁアスラン様、早速城に向かう準備を始めましょう!」
「な、何を言っているのですかっ!?」
アスランが焦りながらアンジェリカを止めようとした。
「だって、アスラン様が素敵すぎるのですもの。こんなに素敵なアスラン様を、世の女性達が放っておく筈がありません!」
アンジェリカはアスランを心配するかのような表情をした。
「アスラン様がこの先、結婚せずにそのまま1人で過ごされるとは思えないのです。アスラン様だって、結婚したいとは思っているのですよね?」
「それは…。」
アンジェリカの質問にアスランは口籠った。今のアスランはリリアン以外の人と結婚どころか付き合うつもりもない。けれどリリアンと復縁出来ないならば、独身で一生を終えるよりも他の誰かと付き合い、結婚する道を選ぶだろうなとは思っていた。
「認めませんから。」
まるでアスランの思考を理解しているかのように、アンジェリカは笑みを浮かべたまま冷たい声を出した。
「世界を救った勇者アスラン様に相応しいのはこの私、アンジェリカ・クロノス王女しかあり得ませんもの!」
アンジェリカは至極当然といった様子で、呆然とするアスランを見ながら言い切った。
アンジェリカが思った以上に変な女になってしまいました。予定よりも話が続いてしまいそうですが、後1、2話で終わるといいなと思っております 笑
誤字脱字報告をして下さった方、そしていつも読んで下さる皆様、本当に有難うございました! もし宜しければ評価して頂けると嬉しいです(TT)




