25.勇者とお姫様2
アスランのその後の話の続きです。今回は王女との出会いの過去の話です。
「よくぞ戻られた、勇者アスランとその仲間達よ!」
魔王を討伐したアスラン達は大国の王、バーランド・クロノスに呼び出され、その功績を称えられた。
王城の間にて、玉座に座るバーランドと王妃、ルビア・クロノス。その2人に跪く体勢でアスラン、リリアン、ダン、ブルーノの4人は頭を下げていた。
「そなた達は見事、魔王を倒し世界に平和を取り戻した。心の底から礼を言わせて貰おう。」
「いえ、勇者として当然の事をしただけです。」
バーランドからの感謝の言葉に、頭を下げたままアスランは返事をする。
「アスラン殿だけでなく、ダン殿、ブルーノ殿、リリアン殿、そなた達のお陰でもある。」
「…いえ、私達もアスランと同じです。当然の事をしただけでございます。」
3人を代表するように、リリアンがアスランと同じ言葉で返答した。
勇者一行の態度に、バーランドは満足したように微笑むと、隣に座る王妃ルビアと目線を合わせて頷いた。
「皆さん、顔を上げて姿勢を楽にして下さい。」
ルビアの言葉に、アスラン達は跪いていた体勢から立ち上がり、顔を上げた。
「命を懸けて魔王と闘って下さった貴方達には、ささやかなお礼にしかならないかも知れません。ですが、どうぞ受け取って下さい。」
ルビアが言い終わると、従者4人が大きな宝箱を抱えてアスラン達の前に置いた。従者の1人が鍵を開けて宝箱を開けると金貨の山が入っていた。
バーランドからの報酬にアスラン達は目を丸くして驚いたが、アスランは首を振った。
「…いえ、バーランド王。そのお気持ちは有難いのですが、俺は勇者として当然の事をしただけです。このような贈り物は受け取れません。」
「…何だと?」
アスランの言葉に、バーランドだけでなくルビアと従者達も驚いた顔をした。
「俺は、この金を受け取れません。ですが、そうですね…。」
アスランは少し考える素振りを見せた後、思い付いたように口を開いた。
「俺への報酬の金は、魔王からの被害を受けて困っている人に使っていただけないでしょうか?」
「っ…、アスラン殿よ。そなたは本当に、素晴らしい勇者だな。」
アスランの心遣いに感銘を受けたかのようにバーランドは微笑んだ。
「…俺も、金はいらない。困っている人に使って下さい王様。」
「僕も、アスランとダンと同じ意見です。」
「私も同じです。」
ダン、ブルーノ、リリアンも迷う事なくアスランと同じように金を受け取らない姿勢を見せた。バーランドとルビアは困ったような顔をしつつも、何処か嬉しそうに頷いた。
「…なんと欲のない者達だろうか。だが、承知した。この金は困っている民の為に責任を持って使わせて貰おう。」
「有難うございます、バーランド王。」
「…実は、そなた達への報酬はもう一つあるのだ。アンジェリカ、此方へ。」
「はい、お父様。」
バーランドがそう言うと、バーランドの隣に華奢で可憐な少女がやって来た。アスランよりも年下に見える少女は、服装やバーランドを“お父様”と呼んだ事から王女なのだろうと推測出来た。
「ダン殿、ブルーノ殿、リリアン殿にはそれ相応の地位を授けたいと思っておる。」
「!?」
3人は金貨の時以上に驚いた顔をした。地位というのは恐らく、この城で何らかの役職が与えられるという事なのだろう。もしくは、大国の貴族との縁談が持ち掛けられるのかもしれない。
「そして勇者アスラン、そなたには我が娘であるアンジェリカの婿になって貰いたい。」
「なっ!?」
「へ…?」
アスランへの言葉に、アスランだけでなくリリアン達も驚愕した。アンジェリカの婿になる…それは即ちアスランが王族の一員になるという事だ。
「王族の一員になる事に懸念があるかもしれないが安心して欲しい。私の後を継いで次の王になるのは我が息子、ジェラルドだ。ジェラルドは別件で挨拶に来れなくてな、申し訳ない。」
「い…いえ。」
「アスラン殿はアンジェリカの夫として、義兄となるジェラルドを支えてくれるだけで良い。アスラン殿の事はこのアンジェリカが支えよう。そうだな、アンジェリカ?」
「はい、勿論ですわ。」
アンジェリカがとても嬉しそうに頬を染めてアスランを見つめてきた。
「…。」
リリアンはアンジェリカを何とも言えない顔で見た後、アスランを不安そうに見た。ダンとブルーノもアスランが何と答えるのか気になりながらアスランを見ている。
「申し訳ございませんが、それもお断りさせて貰います。」
アスランは真っ直ぐにバーランドを見返しながら、迷いなく答えた。
「…何故だ。」
バーランドは心の底から断られた理由が分からないといった様子でアスランを見返した。アンジェリカよ目を丸くしてアスランを見ている。
「俺は、故郷の村に帰りたいのです。俺にはたった1人の家族である祖母がおります。それに、幼馴染や友人達、村人全員に会いたいのです。」
「…それなら、一度挨拶をしに帰っても良い。アスラン殿の祖母への待遇も考えよう。」
「…それに、俺には恋人がおります。」
「…恋人?」
恋人がいると知ると、アンジェリカの表情が険しいものへと変わったようにアスラン達は感じた。一瞬アスランは気不味さを感じたが、リリアンの肩を引き寄せた。
「彼女…リリアンが俺の恋人です。リリアンとは将来の事も考えております。」
「アスラン…。」
何処か緊張した雰囲気はあるものの、迷う事なくリリアンを恋人だと紹介してくれたアスランに、リリアンは安心したように微笑んだ。そんな2人を見たダンとブルーノも、お互いの顔を見合わせて頷いた。
「バーランド王、大変光栄な話ではありますが僕も故郷に帰って、今までと同じ暮らしをしたいと考えております。」
「俺も、城とか貴族の事はよく分からねぇし、元の暮らしに戻りたいです。」
ブルーノとダンの言葉に続くように、リリアンもバーランドを見返した。
「私も、アスランと一緒に平穏な暮らしに戻りたいと思っております。それ以外の事は望みません。折角の御心遣いを断ってしまって、本当に申し訳ありません。」
「…。」
シーン…、と場が静まり返る。バーランド達とアスラン達は無言でお互いを見つめ返して数秒が経過した。
「…そうか、それならば仕方がないな。」
「お父様…。」
バーランドが残念そうに諦めると、アンジェリカは悲しそうな顔をした。
「恩人であるそなた達が望んでいない地位を、押し付ける訳にはいかないからな。」
「ふふっ、謙虚な方達ですよね、勇者アスラン御一行は。」
ルビアも、バーランドと同じように残念そうな顔をしながらも微笑んだ。
バーランド達の様子に、アスラン達は緊張が溶けてほっとし、和やかな空気と変わっていった。
「では、このままそなた達は大国を去るのだな?」
「はい、そのつもりです。」
最後に挨拶をして、バーランドとルビアに見送られながらアスラン達は王城を後にしようとした。
「アスラン様!!」
だが、アンジェリカがアスランを引き止めようとするように声を出し、アスラン達は歩みを止めて振り返った。
「アンジェリカ王女…。」
小走りにアスラン達の元へとやって来たアンジェリカは、瞳を潤ませながらアスランを見た。
「…本当に、本当に残念ですアスラン様。私…貴方様をこんなにもお慕いしておりますのに…。」
「っ…!」
その言葉にアスランだけでなく、リリアンも、そしてブルーノとダンも表情を強張らせた。
「でも…。」
アンジェリカはそう言ってリリアンを見た。リリアンは警戒したようにアンジェリカを見た。
「リリアン様がお相手なら、仕方がないですものね。…本当に、残念ですけれど。」
「っ!?」
悲しそうに微笑むその姿は、見る者の庇護欲を誘いそうな表情である筈なのに、リリアンは冷たい何かを感じて恐怖した。
「ア、アンジェリカ王女…。」
アスランも同じ何かを感じたのか、恐る恐るといった様子でアンジェリカの名を呼んだ。アスランの声に、アンジェリカはにこやかな笑みを浮かべた。
「本当に残念ですけれど、リリアン様が恋人ならば諦めますわ。アスラン様、皆様、お元気で!」
そう言って丁寧な、王女らしいお辞儀するアンジェリカに、アスラン達も頭を下げて今度こそ王城を後にするのだった。
もうこれでアンジェリカと会う機会はない。そう思っていたアスランだったが、まさか故郷の村で再会する事になるだなんて、この時は想像出来なかった…。
アスラン達とアンジェリカの出会いの話でした。魔王を倒した報酬を1つも受け取らずに笑顔で立ち去ったアスラン達。まだ輝いていた頃のお話でした 笑 次は現在に戻っての続きとなります。
何時も誤字脱字の報告をして下さり有難うございます。そして、ここまで読んで頂き有難うございました!




