24.勇者とお姫様1
アスランのその後の話です。暫く続きます。
「…帰ってきた。」
ようやく見えてきた故郷の村に、アスランは嬉しさも悲しさも感じられない声を出した。今、アスランの周りには誰もいない。アリーを連れ戻す事は出来なかったし、仲間達はアスランから離れて行ってしまった…。
アリーに仲直りの条件を突き付けられた後、アスランはすぐに宿に戻って身支度を整えた。
ダン、ブルーノ、リリアンはアスランの後を追ってこなかった。アスランはリリアン達の様子が気になりつつも、顔を合わせ辛くてそのまま逃げるように街を出て行った。
「っ…。」
未だにアリーや仲間達に言われた言葉が頭から離れず、アスランは苦しんでいた。信頼していた者達からの軽蔑と侮辱の言葉。けれど、違うと断言出来ないものばかりでアスラン自身もどうしたら良いのか分からなかった。
アスランがアリーやリリアン達に甘え、心を許していた事は否定出来ない。そのせいで皆を傷付けてしまった事を知って後悔している。けれどその一方で、そんな事でここまで自分が悪者にされなければならないのかと、理不尽な想いにも駆られていた。
誰一人アスランを庇わずに責め立ててきた異様な状況に、魔王との闘いですら感じられなかった孤独感と圧力に精神が擦り減らされ、自分でも何をするのか分からなくなるくらい頭が真っ白になった。
それでもアスランが正気を保てていたのは、リリアン達がアスランの為にアリーに仲直りの機会を与えて欲しいと言ってくれた事と、アリーが全てはアスランのせいではないと告白し、仲直りの機会を与えてくれた事でアスランへの気遣いが残っている事が分かってしまったからだ。
「…。」
アリー、リリアン、ダン、ブルーノ…アスランが好意を持つ人達からの拒絶だけではなく、アスランが嫌っている最低な男、バロウの事もアスランの頭から離れずにアスランを苦しめている。
バロウはアリーと仲睦まじい様子を見せてきて、さらにアリーの願いを優先してアスランの1つ目の条件の達成を素直に認めた。その姿に、アリーに対しては本当に優しいのではないか…という想像が頭に何度も過っては、アスランはその想像を否定する事を繰り返していた。
「っ…、いや、そんな筈はない!」
バロウはただ、アスランへの当てつけのような気持ちで幼馴染のアリーに構っているだけだ。アリー達に拒絶されるアスランが見たくて、アリーに合わせていただけだ…と。
「…バロウは嫌なヤツのままだ。現に俺に嫌味を言ってきたじゃないか。それに、リリアンとダンはバロウの方がマシだと言わなかったじゃないか…っ! 俺はただ、アリーの為にアリーを村に連れ戻そうとしただけだ。バロウみたいな奴が、アリーに相応しい訳ないんだから!」
アスランが散々バロウを悪者のように言っていた事を棚に上げて、アスランは嫌な気持ちから逃げるように自分に言い聞かせていく。バロウが悪者であって欲しいと願っているかのように。
「俺は悪意なんてなかった。皆を傷付けてしまったみたいだけど、態とじゃないんだ…。バロウなんかとは違う。俺は、碌でなしなんかじゃない。俺は世界を救った勇者なんだから…!」
アスランは歪な笑顔を作りながら一歩一歩、村に近付いていく。
「皆、最後は俺の為にアリーに頭を下げてくれた。リリアンはまだ俺の事が好きな筈だし、ダンとブルーノも俺の事をずっと仲間だと思っている筈だ。俺達の絆が、こんな些細な事で壊れる筈がない。少し経てば、皆は俺に会いに来る筈だ…。」
何時か皆がアスランに笑いかけ、謝りながらこの村にやってくる筈だと、アスランは何の根拠もなく頷いた。
「まずは、アリーに俺が反省している事を分かって貰う為にこの村に5年間居続けよう。婆ちゃんにも、謝らないと…。そして皆が来たら、赦してやらないとな…。」
独り言をぶつぶつと呟いているうちに、アスランは村に到着していたのであった…。
◆◇◆
村に到着したアスランは、すぐにレコの元へ行った。レコは喜んでアスランを抱きしめたが、アスランの表情を見てアリーだけでなく、リリアン達とも何かあったのだと察したように悲しそうな笑みを浮かべた。
アリーの両親にも会いに行き、アリーを連れ戻せなかった事と謝罪の言葉を伝えた。アリーの母親はアリーが元気なら良いと言って作り笑いを浮かべた。アリーの父親も何処か暗い顔をしながらも、アスランにお礼を言ってくれた。
2人の仲はアスランがいない間に変化があったのか、2人の間に会話があまりなく静かな…嫌な感じが広がっていた。アリーが居れば何とかなるかも知れないのに、という思いがアスランの頭に過ぎりながらも、アリーの家を後にした。
村人達はアスランの帰還を喜んでくれたが、メノア達に文句を言った事もあってか、一部の人とは気不味い雰囲気になってしまった。
「おいアスラン、お前の仲間の人達はどうしたんだ?」
そう聞いてくる村人も居た。アスランは仲間との間にあった出来事を知られたくなくて、仲間達はそれぞれの故郷に帰ったと言って、笑顔を貼り付けて答えた。
こうして、アスランは今度こそ村に帰って来たのであった。
◇◆◇
「それじゃあ婆ちゃん、買い物に行ってくるから!」
「気をつけてね、アスラン。」
アスランが村に帰ってから3ヶ月程経過した。メノア達との気不味さが薄れて行き、何も思わずに挨拶を交わせる程度の関係になった。他には、アスランと殆ど同い年の人が何人か結婚したり、子供を産んだ人も出てきた。
「そうか、おめでとう!!」
「ははっ、これも全部アスランが世界を救ってくれたお陰だよ!」
アスランにお礼を言う知人を心の底から祝福するアスランだが、その一方でリリアンと別れなければ、自分もこんな風に笑っていたのかと思い、苦い気持ちになった。
「リリアン…。」
アスランがこの村から出られない以上、リリアンを探す事なんて出来ない。リリアンから会いに来てくれなければ、アスランは再会出来ない。もう3ヶ月も経ったのだから、そろそろ会いに来てくれても良いだろうにと思いながら、ふと話し合いでの出来事を思い出してしまった。
「…っ、そうだ、ブルーノ。」
ブルーノはリリアンが好きだった。もしかしたら、今はリリアンとブルーノが付き合っているのかもしれないと不安になった。そうなると、もうリリアンはアスランに会いに来てくれないかもしれない。
「っ…で、でも、もしそうなったら、2人が報告に来る筈だよな?」
リリアンがブルーノと付き合ってしまっていたらとてもショックだ。けれどアスランのせいでリリアンが傷付いていた事も分かっている。だから、リリアンとブルーノを責めるなんて出来ない…。
でも、リリアンとブルーノとは仲間として育んできた絆もある。だから2人が付き合う事になったのなら、アスランに義理として伝えに来てくれる筈だ。
「…だ、大丈夫だ。何にせよリリアンとブルーノ、それにダンだって近いうちに会いに来てくれる筈だ。」
嫌な思いがぐるぐると渦巻きながらも、アスランは仲間に会いたいという気持ちの方が強かった。もしかしたら、家に帰った時にレコと一緒にアスランを待っててくれているかもしれない。
「流石にそれはないか。」
流石にそんな急に願いが叶うわけ無いと苦笑しながらも、アスランは歩みを進めて行く。
「…?」
家が見えてきた。しかし、家の外でレコと数人の誰かが話をしているように見えた。アスランは少し警戒しながらもレコを心配して走り寄って行く。
「あ、アスラン!」
レコが走り寄って来るアスランの姿を見つけて声をかけてきた。
レコの声と視線に、一般人と同じような格好をした男が3人と女が1人。そして、同じように目立たない格好をした少女がアスランの方を見てきた。
「あ…貴女はっ!?」
アスランは少女の顔を見た瞬間、驚きのあまり固まった。
「やっと会えましたね、アスラン様っ!!」
アスランを見てとても嬉しそうに微笑む少女に、アスランは固まりながらも声を振り絞った。
「…アンジェリカ王女様?」
アンジェリカ・クロノス王女。彼女はこの世界で一番の力を持つ大国の王、バーランド・クロノスの娘だ。
全く予想していなかったアンジェリカの訪問に、アスランは戸惑う事しか出来なかった。
勇者の話といえばお姫様が登場しますよね。という事でこの世界のお姫様、アンジェリカが登場しました。何となく展開が分かった方もいらっしゃると思います 笑
最後まで読んで下さり有難うございました!




