23.アリーの提案と話し合い
時系列は「14.勇者の元下僕と勇者の恋人2」と「15.勇者の元下僕と勇者の恋人3」の間になります。
アリー達がどんな作戦を立てていたのかというお話です。
「そこで、私から提案が…協力して欲しい事があります。」
「えっ…?」
アリーは目を丸くするリリアンを見た後、バロウを見た。
「バロウにも手伝って貰いたいの。」
「…何か思いついたのか?」
バロウの質問に、アリーは少し面白そうな顔をして頷いた。
「まだ時間は大丈夫ですか?」
「え、えぇ…。」
リリアンは戸惑いつつも、微笑むアリーに頷いた。
◇◆◇
「私、アスランと直接話をして、決着をつけようと思います。」
「「!?」」
驚く2人の顔を視界に収めながらアリーは話を続けた。
「アスランが私を見つければ、リリアンさん達がアスランとの旅に付き合わされる事はなくなりますよね? リリアンさん達が何時までアスランの旅に付き合うのか、という問題は終わります。」
「そ、それはそうだけど…アリーさんは良いんですか?」
リリアンが心配そうにアリーを見た。
「…村でお前がアスランを拒否したのに態々探しに来てるんだぞ。お前がどんな事を言うつもりか知らねぇけど、アスランの奴が納得すると思うか?」
バロウも賛成出来ないと言わんばかりに不信そうな顔をした。
「リリアンさん達が私に協力してくれるなら、きっと上手くいくと思うんです。むしろ、正々堂々とアスランを追い返せるかもしれない。」
だがアリーは少し自信があるらしく、リリアンとバロウにそう言って微笑んだ。
「私は、村でアスランと話した時のように遠慮なく言いたい事を言わせて貰います。そこで大事なのは、アスランが孤立無援の状態になっている事です。つまり、リリアンさん達がアスランの味方にならない事なんですよ。」
アリーがアスランの人助けに付き合わされていた時、アスランに反抗出来なかったのは村の人達が皆アスランの味方だったからだ。反対にアリーの味方は誰もいなくて孤立していた。
もし、アスランにも味方がいなくて一対一だったならば、アリーはとっくの昔にアスランに反抗していたのかもしれない。
「でも、私はアスランと二人きりになるのは嫌です。万が一、力尽くで私を連れ戻そうとしてきたら私は負けてしまうでしょう…。なので、絶対に私の味方と言える存在であるバロウには傍に居て欲しいの。」
「…。」
アリーがそう言ってバロウを見ると、バロウは照れ臭そうに頭をかいた。
「でも話を聞く限りでは、アスランはバロウを嫌っている。だから私と一緒にバロウがアスランを追い返せそうとしてもアスランは絶対に諦めてくれません。なので、リリアンさん達にもアスランが諦めてくれるように説得して欲しいのです。」
「成る程…でも、私や仲間はどんな風にアスランを説得したら良いのかしら?」
「…詳しい内容の前に、場所の話からしても良いですか?」
アリーは自分の考えも纏める為にリリアンの質問を後回しにした。リリアンも気を悪くする事なく頷き、アリーの話に耳を傾けた。
「アスランの味方がいない環境にするには、私達以外の人が…部外者が来ない環境が望ましいです。万が一、アスランの事を知っている人が通りかかってきたら、勇者アスランの味方をしてくるかも知れませんので。」
「確かにな、だとすると何処かの室内が良いよな…。」
「勿論、このお店を貸してあげる!!」
今まで何も言わずに遠巻きに様子を見ていたサヨがアリー達に声をかけた。
「サヨ…いいの?」
アリーも実はこの喫茶店を話し合いの場にしたいと思っていた為、サヨとマスターにお願いしようと思っていた。
サヨは笑顔で頷いてくれた。
「アリーの為なら喜んで! お父さんもオッケーだってさ! ね?」
サヨがそう言ってマスターの方を見た。
「あぁ、その代わり仕事を辞めないでくれよアリー。」
マスターはそう言って冗談っぽく笑った。
「…っ、本当に有難うございます! サヨも有難う。」
アリーは席を立ち上がってマスターに頭を下げた。2人には今度改めてお礼をしなければならないと、アリーは強く思った。
「ふふっ、今度お礼をしてね! バロウ君からのお礼も期待していいのよね?」
サヨはそう言ってバロウを見た。
「はぁっ? 俺にもかよ。 …まぁ、飯ぐらいなら奢ってやるよ。」
「やった!」
バロウはぶっきらぼうな言い方だが、アリーの友人であるサヨとはそこそこ仲が良いのか文句を言わなかった。
「…じゃあ、この喫茶店が話し合いの場になるのね。」
バロウが誰かに対して優しさを見せた事に戸惑いつつも、リリアンはアリーに確認した。
「はい、そうですね。時間帯やアスランをどうやって店まで連れてくるのかは、リリアンさんの仲間の人とも相談しなくてはなりませんね。でも、そんなに難しい話ではないと思いますのでまたにしましょう。では、リリアンさん達にして欲しい説得についてです。」
「ええ…。」
リリアンが真剣な顔で頷くと、アリーも頷き返した。
「リリアンさんはアスランに言いたい事…何か文句はありますか?」
「えっ…?」
リリアンは目を丸くした。
「もしあるのなら、リリアンさん達も話し合いの場で話した方が良いと思います。勿論、アスランに文句を言えば今までの関係に亀裂は入って変わるかもしれません。でも、誰か1人でもアスランに文句を言い、誰もアスランを庇わなければ私としては有利になるのです。リリアンさん達も文句を言えば楽になるかもしれませんし…。」
「…。」
「文句を言いたくなければ言わなくても構いません。ただ、絶対にアスランを庇わずに傍観して欲しいです。そして私とアスランの話し合いの最後の方で、私を無理やり連れ戻しても碌な事にはならないのでは? という感じで当たり障りなくアスランを説得して欲しいのです。」
「…分かりました。少なくとも、私達はアスランの味方にはならないので安心して下さい。仲間の誰かが反対しても、私が止めると約束します。」
「有難うございます。」
アリーはリリアンにお礼を言った。
「…こちらこそごめんなさい。まだアスランとの今後をハッキリと決められなくて。」
リリアンは申し訳なさそうな顔をした。アリーはそんなリリアンを見て少し考え込む素振りを見せた。
「…あぁ、そうだ。アスランとの話し合いを始める時に、リリアンさん達がどうしたいのか、各々の心境の確認をしたいんです。だからそれは、飲み物の注文内容で教えてくれませんか? アスランにバレないようにする為に。」
「え…?」
驚くリリアンに、アリーは右手の人差し指を立てながら提案した。
「例えば、アスランに何も言わずに穏便で済ませたいなら紅茶。文句を言うならカフェオレ…みたいな感じで教えて欲しいです。皆さんには絶対に飲めない苦手な飲み物はありますか? どの飲み物にするかはお任せしますが…。」
「…いえ、アリーさんの提案通りの飲み物で大丈夫です。」
リリアンには飲めない飲み物はないし、ダンとブルーノも好みの差はあるだろうが苦手なモノはなかった筈だと思い、アリーが提案したままで良いと頷いた。
「…では、飲み物の確認で皆さんのおおよその心境を確認した後、カフェオレを選んだ場合は私が何処かのタイミングで皆さんに話しかけますね。その時に私は皆さんに自己紹介をお願いします。」
「自己紹介?」
リリアンとバロウが不思議そうな顔をした。
「はい、文句を言うにしてもアスランとの今後を考えて穏便に済ませるか、アスランと離れるつもりで徹底的に言うのかを確認したいのです。私は皆さんの想いに合わせて便乗させて貰います。普通の自己紹介なら穏便に済ませる。でも、もし離れるつもりなら…私の時と同じように、勇者の下僕だと言って貰えませんか?」
「ぶっ!!」
「なっ…!」
バロウはおかしいとばかりに吹き出し、リリアンは驚いて固まった。
「あはははっ! そりゃあ、アスランはすっげぇショックを受けるだろうなぁ〜。」
「ふふっ…それにきっと、私とリリアンさん達がアスランと会う前に話し合った事もばれるでしょうね!」
リリアンは楽しそうに、意地悪そうに笑い合う2人を見ながら、アスランがとてもショックを受けるであろう提案を思い付くアリーに若干引いてしまった。
「本当に、お似合いのカップルですよね!」
「…えぇ、そうね。」
サヨが笑顔でリリアンに話しかけてきたが、リリアンはぎこちなく頷く事しか出来なかった。
その後、サヨはマスターに呼ばれてリリアン達からの離れて行った。
「さて、取り敢えずここまでの計画は問題なしとしましょう。問題は最後、話し合いが終わる時です。」
「最後…。」
リリアンが呟くと、アリーが難しそうな顔をした。
「おそらくアスランは生まれて初めて、味方がいない状況に追い込まれます。そして私が思い通りにならない事で何を言い出すのか、彼がどんな行動を起こすのか分かりません。流石に暴力を奮ってこないとは思いますが…。でも今まで以上にアスランが面倒臭くなる可能性はあり得ますよね。」
アリーの言葉に、バロウとリリアンは同意した。ただでさえアスランは、自分を拒絶した幼馴染をわざわざ追いかけて来るような面倒臭い男なのだ。
リリアン達がアスランの傍から離れない選択をしたとしても、アリーが拒絶し続けたらアスランは…想像するのも疲れてしまう。
「ですので私達の安全の為にリリアンさん、最後に私に“アスランを赦すチャンスを与えて欲しい”と言って頂きたいのです。リリアンさん達がアスランに文句を言っても、言わなくてもです。」
「え?」
「それで、アスランの野郎がおかしくなる可能性が低くなるのか?」
2人の疑問にアリーは頷いた。
「リリアンさん達がアスランの傍に居る選択をしても、アスランの味方をしなかったという理由でアスランの態度がより冷たくなる可能性もありますよね。でも、これを言えばアスランの機嫌が悪くならずに済むかもしれません。同じように、リリアンさん達がアスランに不満をぶち撒けたとしても、仲間として最後に力になるという姿勢を見せればアスランは暴走しないのではないかと思います。」
「…成る程、確かにそうね。」
リリアンは納得したように頷いた。
「それで、アリーはその願いを断って終わるのか?」
バロウが質問すると、アリーは首を振った。
「ううん、私はそれを受け入れるよ。反対したらリリアンさん達の発言は意味がなかったって、アスランに文句を言われるかもしれないでしょう? それじゃあ意味がないもの。それに、私とバロウに何かしてくる可能性もあると考えると、断らない方が良いかなって…。」
「はぁっ〜、マジで面倒臭いヤツだよなぁ!」
バロウが片手で頭皮をガシガシと掻きむしり、心底嫌そうな顔をした。
「兎に角、アリーさんがアスランと仲直りするつもりもある、と思わせておくのは賛成だわ。」
アリー達とリリアン達、お互いの為にこの最後のやり取りは非常に重要であると3人は同意した。
「…つまり一番の悩みどころは、どんな条件をアスランに言うか、だよな?」
「…うん。」
バロウの言葉にアリーは頷いた。
アリーは何があってもアスランと仲直りするつもりはない。だからアスランが実現出来ない事を提示するのが理想だ。だが非人道的な事や、明らかに不可能な難題を提示すれば、そもそもアリーが仲直りするつもりが無いとアスランにバレて厄介な事になるかもしれない。
つまり、アスランにアリーの気持ちがバレない程度に実現不可能な条件を考えなくてはならないのだ。
「…私達に害がないようにするには、アスランを村から出られないようにするのが良いとは思うんだけど…。」
リリアン達がアスランの傍を離れる選択をした時の事を考えると、アリーやリリアン達に、アスランが付き纏って来ないようにしておきたい。そうなると、アスランを故郷の村に閉じ込めるのが良いとアリーは思い付いた。レコや村人の事を話せばそれらしい理由は思い付く。
「成る程な。でも一生出てくるなとは流石に言えねぇよな。」
バロウの言う通り、あくまでも仲直りする可能性を残すのならば期限付きでなければおかしいと思われてしまうだろう。
アリーが何時かはアスランに会いに行くと言葉にしても、アスランが信じる保証はない。それにもし、アスランが村から出ない事を受け入れても、アリーが何時まで経っても会いに来ない事で結局アスランがやってくるかもしれない。
そして再び不毛な話し合いとなれば結局意味はない。残念ながら期限をつけるしかないとアリー達は思った。
「少しでも長くアスランを村に閉じ込めるには…アスランが魔王退治に掛かった時間、5年というのが最もらしい理由として通るかしら?」
5年という時間は人が変わるには充分な時間のように思える。しかし相手がアスランである以上、5年経っても全く考えが変わらない可能性も否定しきれなかった。
「…まぁ、5年間は村から出るなという案が限界かもな。」
しかしアリーとバロウにはこれ以上良い案は思い付かなかった。もう、5年も経てばアスランが諦めてくれる可能性に掛けるしかない。
万が一の為に、アリーはアスランに“条件を呑めば赦す”のではなく、“条件を呑めば赦せるように努力する”という保険をかける。アスランが5年後にやって来たら、努力はしたけど無理だと言ってあしらってしまえばいい。当然文句を言われるだろうが…。
「…はぁ。」
問題を先送りにするのは嫌だが、5年後の事はその時の自分に任せる事にしようと、アリーは苦い顔で溜息を吐いた。
「あの…もしかしたらその条件で、アスランと2度と会わずに済むかもしれません。」
「え…?」
だがリリアンの言葉に、アリーは目を丸くした。
「その、私がアスランの傍に居なければもしかしたら? という確実性のない話ではあるんですけど…。」
リリアンが傍に居ないまま村に戻れば、アスランとは2度と会わずに済むかもしれない…リリアンの言葉の意味が分からず、アリーは困惑した。
「何だよそれ、一体どういう事だよ?」
バロウも訳が分からないといった様子で、眉を顰めてリリアンに問う。
「実は…――。」
リリアンの話した内容に、アリーとバロウは目を丸くした。
リリアンが話した最後の内容は、今後書く予定のアスランのその後の話で明らかにする予定です。リリアン達がカフェオレを頼んだ理由や、アリーに仲直りの機会を与えるようにリリアンが言った理由などを説明出来ました。アリー達なりに、安全かつ穏便にアスランと距離を取るために考えた結果だったという訳です。没案として“アスランがアリーの両親に、アリーとバロウの結婚を心から祝福出来るように説得しろ”というのがありましたがアスランが闇落ちする可能性もあったのでやめました 笑
アスランのその後を書いた後はアリーとバロウ、リリアン達3人の後日談を書く予定です。バロウの過去は箇条書きで纏めて書こうかなと思っております。
ここまで読んで頂き本当に有難うございました! もし宜しければ完結までお付き合い下さると嬉しいです!




