20.孤立する勇者5
アスラン孤立回の続きです。今回はアリーとバロウは目立ちません。
「…何を、言っているんだ?」
アスランは呆然としながら仲間達を見つめるが、リリアン、ダン、ブルーノの3人は、アリーと同じような冷たい目でアスランを見返した。
「何って、自己紹介だよ。俺達の名前と、勇者アスランの下僕だって紹介しただけだぜ?」
「…それとも、僕達は勇者アスランの仲間…という名の使いっ走りです。そう言えば良かったですか?」
「っ!!」
“下僕”、“使いっ走り”…アスランも理解した様子で恐る恐るアリーを見た。
「ま、まさか…。」
「そうだよ。私達はアスランと会う前に色々と話をしたの。私とアスランだけじゃなくて、私達とアスランが話し合う為に、ね。」
「なっ、…どうして!?」
アスランは衝撃を受けたかのように驚いている。アスランに内緒でアリーと仲間達が何を話していたのか。
…そして何より、なぜ仲間達がアリーと同じようにアスランの下僕だと言うのかと、アスランはショックを受けている筈だとアリーは思った。
「“どうして”? そんなの、お前が俺達を粗末に扱ったからだろうが!」
ダンがアスランを睨みつけながら怒声を上げた。
「な、何を言うんだよダン! 俺がいつ皆を粗末に扱ったと言うんだ!?」
「…やっぱり自覚はないんだな。」
分かっていない様子のアスランに、呆れたようにダンは溜息を吐くと、今までの事を話し始めた。
アリーを探す旅に出てから、アスランはダン達に対する態度が冷たくなった事。アリーの手掛かりを見つけられない事に文句ばかり言ってきた事。労いの言葉も無ければ感謝すらされなかった事等、アスランに感じた不満を全て話した。
アスランは話を聞いて本当に自覚はなかったのか驚いた顔をしたが、身に覚えはあった様子で気不味そうな顔をした。
「そ、それは…。」
「お前がアリーの事で余裕がないのは分かってたさ。けどよ、だからって何で俺達が下僕扱いされなきゃならねぇんだと、ずっと思ってたんだよ…もう俺はアスランの味方は出来ない。お前がバロウよりマシだなんて、言えねぇよ。」
「っ、わ、悪かったよダン!」
ダンの怒りに、アスランは戸惑いながらも謝罪をした。だがダンの目つきは冷たさを増した。
「…俺だけに謝ってんじゃねぇよ。それに俺やブルーノよりも、お前が謝るべき存在がいるだろ?」
苛立ったようなダンの言葉に、アスランはハッとしたように、恋人を見た。
「っ、…リリアン。」
「アスラン。」
リリアンはアスランを真っ直ぐに見返した。
「私もダンと同じ意見よ。アスランの方がバロウよりもマシだとは思えないわ。」
「なっ…!」
リリアンの言葉にショックを受けた後、表情を強張らせたアスランが何かを言おうと口を開いた。
「私ね、アスランの事が本当に好きだった。」
「っ!」
だがリリアンの言葉に、アスランは口を閉ざしてしまった。アスランを責める言葉でなかった事の驚きと、“好きだった”という過去形としての告白に、アスランは嫌な予感を覚えた。
「…魔王を倒して、このままアスランと一緒に過ごして結婚する。愛する貴方と一緒に幸せになるんだって、ずっとそう思っていたわ。アスランが私と同じ気持ちだったのかは知らないけどね。」
「そ、それは俺だって同じだ! 俺も魔王を倒したらすぐに君と過ごし、結婚するつもりだったさ! …でも、アリーの事があったから仕方がないだろう!?」
アスランの目は真剣で、嘘を言っているようには誰にも見えなかった。アリーの事がなければ、本当に2人はすぐに結婚していたかもしれない。
「…そうね、それどころではなくなってしまったわね。でもね、アスランに粗末な扱いをされた時、本当に私はアスランの恋人なのかしら。アスランにとって一番大切なのはアリーさんで、私の事は本当はどうでもいい存在だと思われているんじゃないのか、って何度も思ってしまったのよ。」
「そんな訳ないだろうっ!? アリーと君を比べてなんかいないよ! リリアンは俺の恋人だ! 俺はリリアンが好きなんだよっ!!」
アスランはリリアンに訴えるように話した後、ダンとブルーノを見た。
「それにダンとブルーノ、君達も俺の大切な仲間だっ! 頼むよ、俺達の絆をこんな…この程度の事なんかで壊そうとしないでくれよっ!!」
アスランは必死に謝罪と懇願をするが、ダンとブルーノは“この程度”と、自分のした事を表現したアスランに対して何とも言えない顔をした。
リリアンは少し悲しそうな顔をして口を開いた。
「…私さ、村でアリーさんがアスランを悪く言った時、アスランのアリーさんへの態度は幼馴染として甘えているだけだから赦して上げて欲しい。そんな風に言ったのをアスランは覚えているかしら? その後もアリーさんが村の人達から嫌な目に遭っていた事を知っても、アスランに悪気はなかったのだから仕方がない。アリーさんがアスランを早く赦してあげれば解決するのにって、皆はどうだったかは知らないけど、私はそう思っていたの…。」
そう言ってリリアンがアリーを申し訳無さそうに見ると、アリーは気にしなくて良いと言うように首を振って、少し微笑み返した。
リリアンはそんなアリーに安心したように、けれど何処か気不味そうに目を伏せた後、再びアスランを見た。
「今回のアスランの態度も、アリーさんにしたのと同じように恋人の私と、仲間のダンとブルーノに気を許していたからこその甘えなんだと、私達はそう思っているわ。」
「リリアン…!」
リリアンの言葉に、アスランは気不味そうにしながらも自分の気持ちを理解してくれたリリアンの様子に、何処か安堵したような様子を見せた。
「でもね、アスランに悪意はなくても耐えられないと思ったわ。甘えているという理由で私達にだけ冷たく当たって、他の人達には優しく出来る。私達の事は利用して、他の人達には親切にする貴方の態度に、アリーさんがアスランと離れたくなった理由が、自分を下僕だと言いたくなってしまった理由が分かってしまったの。」
そう言ってリリアンがアスランを睨みつけると、アスランは固まってしまった。
人は誰だって余裕がなくなれば他人に優しくは出来ないかもしれない。だがアスランが優しく出来なくなったのはリリアン達3人に対してだけだった…。それがリリアンにはとても辛くて、そして赦せない事だった。
「私はバロウの事は好きではないわ。アスランが赦せないからと言って、バロウの味方をする訳ではないの。でもバロウはアリーさんの事を大切にしている事は分かったの。だからアリーさんの事を考えるのなら、2人を引き離すべきではないと私は思うわ。」
「なっ! …だ、だが今は良くても、将来を考えればバロウなんかとは…。」
「アスランはっ、!」
これから先の未来が良いとは限らない。そんな事を言おうとしたアスランを、リリアンは強く遮った。
「アスランは今も昔も、アリーさんをずっと不幸にしているのよ?! アリーさんを不幸にしか出来なかった貴方が未来の話をした所で、説得力がないとは思わないの!?」
「っ、そ、それは…。」
リリアンの指摘に、アスランは何も言い返せずに黙った。アリーは心の中でリリアンの言葉に大いに同意した。
「…兎に角、私もアスランの味方は出来ない。それと今この場で、言わせて欲しい事があるの。」
「…っ。」
アスランは警戒したように、けれど何処か不安そうな様子でリリアンの次に発する言葉を待っている。
リリアンは少し深呼吸をして、意を決したように再びアスランと向き合った。
「…私はもう、アスランの傍にずっと居たいと思えなくなったわ。だからアスラン、私と別れて頂戴。」
リリアンからの別れの言葉に、アスランは愕然としながらも口を開いた。
「な、なに言っているんだ、リリアン…わ、別れるだなんて、そんな…い、嫌だよっ!」
「…アスラン。」
アスランがリリアンの両肩を掴んできた。リリアンは肩を掴まれながらも、アスランの悲しそうな顔に釣られるように少し表情を歪めた。
「そ、それによりによって…俺が今こんなに傷付いている時に、何で今、そんな事を言うんだよっ!? アリーの事が解決もしてないんだぞ?!」
「っ…。」
必死にリリアンに縋りながらも、責めるようなアスランの言葉に、リリアンは何とも言えない顔になった…。
「リリアンから離れてください、アスラン。」
「っ、! …ブルーノ。」
その時、ブルーノがアスランを強く睨みつけながらアスランの腕を強く握り、リリアンから引き離すように強く振りほどいた。
ブルーノはアスランからリリアンを庇うように立った。
「まずアスラン、僕も2人と同じで君の方がバロウよりもマシだとは思いません。」
「っ…。」
流石にアスランも、もうブルーノが自分の味方をするとは思っていなかったのか表情を歪めなかった。
「何なら僕は、バロウよりも君の方が碌でもないと思っていますよ。」
「っ!?」
だが、ダンとリリアンはあくまでも“バロウよりもマシだとは思えない”というどっちもどっち、な感じの返答であったのだが、ブルーノは明確にアスランの方が碌でもないと言葉にした。
その事にアスランだけではなく、ダンとリリアンも、そしてアリーとバロウも驚いたようにブルーノを見た。
「…僕は。」
ブルーノは少し躊躇った様子を見せつつも、決心したようにアスランを見た。
「リリアンの事が好きなんです。」
「…え?」
ブルーノの告白に、アスランは目を丸くした。ブルーノの視界には入っていないがリリアンも驚いて固まっていた…。
何時になったらアスラン孤立回が終わるのか、作者にも分かりません 笑 それでもお付き合い下さる皆様に感謝です…!
ブルーノの想いは予想出来た方が何人いますかね? そもそも興味ないという人の方が多そうですが…笑
ここまで読んで頂き有難うございました! もし宜しければ評価して頂けると嬉しいです!




