怒の牢
それから四ヶ月が経っていた。
石牢の空気は相変わらず湿っている。
勇者と魔王の口論だけが、いつものように響いていた。
魔王が鉄格子を見つめたまま言う。
「いろいろ試したが、鉄格子は物理的には開かないという事だ」
勇者が鼻で笑う。
「いや、もう結構な日数閉じ込められてるからな?
ちゃっちゃとしろよ。使えねーな」
魔王の視線が鋭くなる。
「ならば貴様も何か考えろ」
勇者は即答した。
「考え尽くした結果、何も浮かばねーんだよ」
一瞬の沈黙。
そして――
「てめぇが考えろ!」
「貴様こそ働け!」
いつもの喧嘩だった。
四ヶ月、ほぼ毎日これである。
ルクスリアは静かにため息を吐いた。
そのときだった。
「てめぇら、いつも喧嘩してんのか? 懲りねーな」
軽い声。
三人が同時に振り向く。
鉄格子の外に、祭が立っていた。
勇者が目を見開く。
「……なんでここにいんだよ?」
祭は肩をすくめた。
「食さんがお前ら帰ってこねぇって騒ぐから、探しに来たんだよ。――って、かわいこちゃん発見!」
祭はルクスリアに向かって手を振る。
ルクスリアは露骨に顔をしかめたが、祭はまるで気にしていない。
「へぇ。思ったよりめんどくせーことになってんな」
どこか楽しそうだった。
魔王が言う。
「早く助けろ」
祭は間髪入れず答えた。
「無理無理」
勇者が声を荒げる。
「はぁ!? ふざけんなよ!」
祭はひらひらと手を振った。
「いや、だって無理だし」
鉄格子を軽く指で叩く。
カン、と乾いた音。
「この牢の名前、知ってるか?」
勇者が眉をひそめる。
「知らねぇよ」
祭はあっさり言った。
「怒の牢」
少し間を置いて続ける。
「怒りの気持ちがある奴は開かない仕組みだ」
祭は牢の中の勇者と魔王を順番に指差す。
「お前らには怒りがある」
肩をすくめる。
「それを無くせ。そしたらここの扉が開く」
説明はそれだけだった。
祭はくるりと背を向ける。
勇者が叫ぶ。
「おい待て!」
魔王も低く言う。
「説明が足りん」
祭は振り返りもせず、手をひらひらさせた。
「んじゃ俺帰るわ」
気の抜けた声。
「ここ空気わりーもん」
そのまま歩き去る。
足音が遠ざかり、静寂が戻った。
三人は顔を見合わせる。
勇者がぽつりと呟く。
「……怒りなくせって、どうやんだよ」
魔王が即座に言う。
「まず貴様が黙れ」
「てめぇからだろ!」
再び石牢に怒鳴り声が響いた。
ルクスリアは目を閉じた。
――やはり、この二人は変わらない。
怒りは、まだ消えそうになかった。




