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ピンクのヒヨコは、夕暮れと共に消えてしまった。しかし精霊の行いを人間が咎めるなんて、出来やしない。
脱走した生き物の数は、めでたい事にぴったりと一致したらしい。
今回新たに見つかった植物は、過去に絶滅したと思われた大層薬効のある花だそうで、国としては不幸中の幸い、むしろ総合的には良い、と言うことで丸く収まった。
へろへろになりながら自室へ戻ると、ピンクのふわふわが窓辺に居た。どうやら、解放されたので先回りしていたらしい。
「キュピ!」
「俺様に感謝してるか?」
「相変わらず、調子がいいと言うかなんと言うか……」
指でつつこうとすると、ぴょんぴょんと飛び跳ね、植木鉢の中に潜りこんでしまった。
いつの間にか、蕾は膨らんでいた。
「あ、成長してる!」
よかったと胸を撫で下ろす。しかしこの葉っぱ、どこかで見たような……?と思いながら、隠れているキュピをむんずと掴む。
「もういたずらはやめてよね」
「精霊の言動をニンゲンごときが左右できると思わないことだ」
「またそんな事を……」
キュピは本物のひよこと見分けがつかないぐらい、ふわふわで暖かいので、握っていると猛烈な眠気が襲ってきたのでベッドに倒れ込む。
目が覚めると、早朝のようだった。どうやら、夕暮れから泥のように眠っていたらしい。夜にヒューイが訪ねてきたが、そのまま帰ったとエラが教えてくれた。
「あたしは一応声かけたけど、あんた爆睡してたから……」
もっと気合い入れて起こした方がよかった? と尋ねられ、首を振る。非常に疲れていたので、きっと起き上がる事はできなかっただろうと思う。
仕事前に急いで身支度をし、研究所まで走っていく。始業までギリギリ5分いられるか、いられないか。でも、私は行きたい。
「足が速くなる魔法、かけてやろうか」
「息が切れなくなるのも追加で!」
全力で走っていると、向こうからヒューイがやってきた。彼も走ってきたらしい。
「そろそろ……起きたかと……思って」
「へへへ……」
「昨日はごめんね、寝ちゃって」
謝ることなんて何もない──とヒューイは言ってくれたが私はきちんと謝罪することにした。自信がなくてフラフラしていたこと、例の話は断るつもりであること──。
ヒューイは黙って私の話を聞いて、その後静かに切り出した。
「その件なんだけど、ご両親に挨拶させてほしい」
「へっ」
ヒューイはうちの両親に、縁談を断ってくれるよう直談判すると告げた。
「いやー、この娘ったら! どうして早く言わなかったの!」
善は急げ。私たちは大急ぎで休みを合わせ、実家に向かった。今度は私が大目玉を喰らう番であった。
とにかく怒られ、兄には呆れられたし、ヒューイは以前エレナ様のおうちにお邪魔した際、実家の場所を教えなかった事まで覚えていた。
「本当に申し訳ありませんでした……」
両親は困惑しながらも、縁談を断ってくれると言った。というよりは、相手方もそこまで乗り気ではなく、間に入っているお見合いおばさんの暴走であるらしかった。
「なんだったんだろう、一体……」
家の事は気にしなくていいから自分のやりたいようにやりなさい、と背中を押され、私はスッキリした気持ちで帰路についた。
この数日間、いろんな事があってヘトヘトになってしまったが、丸く収まって良かったと思う。
「雨降って地固まる」
キュピは今日も偉そうであった。ここまでくると、もう反論する気も起きてこないので不思議だ。
歩きながら、ヒューイは隠し事を教えてくれた。前から私の事を知っていて、好きでいてくれたこと。でも、貴族だとわかっていたので声を掛けるつもりはなかった。
橋の上でへたり込んで居る私を見て、思わず話しかけた事。キュピに『これは自分の手助けをしてくれたのか?』と質問してみたが、明確な返事は返ってこなかったらしい。
ヒューイも、これが本当に偶然なのか、私がキュピの『呪い』に本気でビビっていて言うことを聞いているだけなのか、それとも、それなりに乗り気なのだろうか──ぐるぐると考えていたと言う。
「なんだ、結局似たもの同士って事なんだね」
「その通り」
まだ時間はあるので、城門に続く橋の上を並んで歩く。もはやお馴染みとなった門番のおじさんがお帰り、と笑いかけてきた。
ただいま戻りました、と返事をして、もうしばらく歩いて、次の約束を取り付ける。部屋に戻ると、蕾は半分ほど膨らんでいた。
最終回は本日12時に予約投稿しています。




