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 ここ数日、蕾は一向に開く様子もないし、キュピは出てこない。


 私から隠れているのか、それともいなくなってしまったのか。


 いつもキュピがいることを言い訳にしていたので、こうなってしまうとどうしたらいいかわからない。花祭りの日までは一緒にいられるとばかり思っていたのに。


 私が、相手を信じないで逃げてしまったせいだ……。私の気持ちと同じく、空は曇っている。


 ため息をついていても、仕事は終わらない。


 今日は月に何回かしかない、早朝勤務。朝日が昇る頃に動き出し、昼過ぎには勤務が終了する。


 終業後に食堂に出向く気力もないので、購買でパンか何かを買って済ませよう。


 そこまで考えてため息をついた時、呼び出しが入った。騎士団の駐在所へ行け──と言われた。


「ミルカ、わざわざすまないな」


 私を呼び出したのはエレナ様である。権力のある方なのだから、執務室で待っていても誰も文句は言わないと思うのだが、門のあたりで出迎えてくれた。


「仕事中に悪いな」

「いいえ」


 正直、呼び出しを口実に仕事を抜け出すことができたので、私にとっては願ったり叶ったりなのである。


「お前に相談したい話があってな……」

「私にですか」

「ああ。実は……その。このような状況で相談するのはさすがによろしくないと思うのだが、ほかに話すのも気が引けるし……」


 エレナ様は珍しく、歯切れが悪い物言いだった。何を言い出すのかとじっと見つめていると、ためらいがちに口を開こうとした──しかしその言葉はエラのつんざくような叫びにかき消された。


「ミルカーーー大変よーーーーピンクの、ピンクのヒヨコがっ」


  ピンクのヒヨコ。それは今一番聞きたかった単語だ。

 

 エラがこちらに向かって全速力で走ってきている。


「ピンクのヒヨコが……何!?」


 私は期待を込めた目でエラを見つめた。しかし、彼女の表情はあまり芳しいものではなかった。


「なんか、養鶏場のヒヨコが全部ピンクになった上に、数が10倍ぐらいになっちゃったんだって。しかも、それが逃げ出して大変な騒ぎなのよ」


「……え?」


 大量のヒヨコを捕まえるために、手隙の使用人達が総動員されているのだと言う。


「それは大事だ。私も手伝うとしよう」

 

 エレナ様とはろくに話すこともできず、解散となってしまった。


 養鶏場に向かうまでの間、何匹もヒヨコが現れた。それをすべて回収し、カゴにいれていく。


「キュピ?」


 もちろん返事はない。ヒヨコはどれも似たり寄ったりだが、少なくとも全て普通の雛に見える。

 

「これ、どういう事?ミルカ、ピンクの鳥がどうとか、前に言っていなかった?」

 

「わ、わた、私は何もしてないよっ」

 

「いや、あんたがヒヨコを増やしたとは思ってないよ?」

 

「ただ、あんたの彼氏が……名前なんだっけ?精霊に詳しいって話だったじゃん。なんとかならないのこれ?」

「ヒューイは……」


 私が口籠もったので、エラは「察した」ようだった。


 養鶏場はとんでもない騒ぎであった。見渡す限りのヒヨコで溢れている。


 元々の数から増えているのだから、何者かの悪戯に違いないのはわかってはいるものの、とにかく回収するぐらいしかできることはない。


「とりあえず、全部こっちの網の中に入れてくださーい!」

 

 誰かの叫び声がする。


  私じゃない、私じゃない、私じゃない……自分がこの騒ぎの元凶ではない。ひたすらにそう信じたい。


「大変だー、ヒヨコが豚小屋を破壊した!」

「どうやって!?」


「う、うわあああああ……」


 もしかして、キュピは私がうまく出来なかった腹いせに、このような騒ぎを起こしたのかもしれない。


「大変だ、禁足地の森に何匹か入ってしまったぞ!」


 禁足地。広大な城内に広がる、精霊樹が生えている森。そこには立ち入ってはいけないと言われている。


「そこの人! 回収をお願いします!」


 農場の人が私にカゴとロープを押し付けてきた。


「立ち入り禁止ですよね!?」

「昔、そうやって脱走した生き物を野放しにしていたら、森の中の生態系が崩れたとかで大変なお叱りを受けたことがあるんですよ!!」


 緊急事態なのだから、こっそり侵入してもバレるはずもない……もとい、すでに研究所の人が立ち入っているから、いざとなればそちらに責任を被せて……という無神経な励ましを背に、私は捕獲道具を抱え、渋々と森へ歩みを進めた。


 これはどう考えてもキュピの悪ふざけである、と言う罪悪感からくる責任感もあった。


「禁足地って割に、誰でも簡単に入れるこの国の管理はおかしいでしょ……」


 森に入ってはいけない、と言われているが禁を破った結果、具体的にどうなってしまうのかはイマイチ不透明だ。


 野外活動の経験など皆無だが、森はすっぽり城壁の中に入ってしまっているので遭難にも限度がある、と聞いたことがあったのでとりあえず真っ直ぐ進む事にする。


「あ、ま、待って」


 木の根元でぴょこぴょこと跳ねるヒヨコに手を伸ばすと、ふっと消えてしまった。


「偽物か……」


 一気に脱力してしまい、その場にへたり込む。森の中は意外と騒がしく、風のざわめきや何かの鳴き声が耳に入る。


 しばらくそうやって休憩していたが、特に何も起きることはなかったので、のろのろと立ち上がり、再び捜索に乗り出した。

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