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「どうしよう……」
帰り道。私は頭を抱えていた。両親は泊まっていけと言ったけれど、一旦冷静になりたくて寮に戻ることにした。
どうしようと言っても、どうにもならないものはどうにもできない。自分の行動が招いた結果なのだが……。
「キュピ……」
こんな時に限ってキュピはいない。
何故はっきり断る事が出来なかったのか。それは自信がないからで、傷つきたくないからだ。
「付き合ってください」「はい」のやりとりがあっても、それが本当の本当に有効なのか、彼との距離感がまだ掴めずにいる。
机に向かって、両親に手紙を書こうとする。とにかく、双方に不誠実な事は避けなくてはいけない。しかし全く筆は進まなかった。
数日間、悶々としているとヒューイから絵葉書が届いた。
この葉書を書いている次の日は自分の発表なので緊張する。そのあとは所長の手伝いがあるけれど、気楽なものだからゆっくりお土産を探そうと思う──としたためられていた。
返事を書く。
私に縁談の話が来ていて、両親は乗り気らしいこと。植木鉢のこと。仕事のこと。
ずいぶん長くなったけれど、どこか他人行儀のように読めてしまう手紙で、しかしこの週末を挟んでしまうと、どんどん届くのが遅れてしまうために私は急ぎ手紙を投函した。
勢いに任せて事が済んでしまってから、あれを読んだヒューイがどう感じるだろう、と不安が襲ってくる。
友人としてあっけらかんと「よかったね」と言ってくるのか、それとも私の事を不誠実な二股女だと腹立たしく思い、軽蔑するのだろうか。
もう、何もわからない……袋小路だ。仕事終わりにベッドに突っ伏している私の肩を、エラがつつく。
「ミルカ、あんたに研究所の人が会いにきてるよ!」
「えっ、誰!?」
ヒューイはいないはず。となると……。
「ワタシでーす」
「ツェツィーリアさん。どうしたんですか」
私を訪ねて来たのは、予想どおりツェツィーリアさんであった。
「自分磨き、まだやりマス?」
自分磨き……というか、自己啓発と表現すべきか……ツェツィーリアさんに頼まれたのは語学教室の手伝いであった。
もちろん日当は出ると言うのでやぶさかではないし、じっとしていると後悔が押し寄せてくるので、罪悪感を振り払うのにちょうどよかった。
翌日の仕事終わり、夕方から開かれる外国語講座に手伝いとして参加する。意外と世の中向学心に溢れた人は多くいるものだ……と感じ、自分の小ささにげんなりし始める。
「お手伝い、ありがとうございマス」
ツェツィーリアさんは、学会が行われている国の出身ではないか、とふと思う。私が視線を向けると、彼女は含みのありそうな笑顔を返してきた。
「ワタシが通訳として学会にいかないのが不思議デス?」
それはつまり、何か楽しくない事件があったのだろうな、とは思う。
質問する事はためらわれたが、彼女はあっけらかんと語り始めた。なんと、親の決めた婚約相手が嫌で飛び出してしまったのだそうだ。単純に初恋の人を追いかけてきただけではなかったらしい。
「半分脱走みたいな感じで国を出たので、もう祖国には帰れません。戻ったらきっと、監禁されてしまいマス」
「す、すみません」
「ワタシが勝手に喋っただけなのデ」
私は思いきって、彼女に事のあらましを話してみる事にした。返ってきた返事は「あちゃー」の一言だった。
「それ手紙で送っちゃったんデス?」
「……はい」
「駄目ですヨ~。今頃ショックで死んでしまったかもしれません」
ツェツィーリアさんは「哀れ……」と流暢に呟き、見慣れない祈りの仕草をした。
「わ、私、自信がなくて……第三者から見て、どう思いますか」
「愚かですネ〜」
「そうだな、ミルカは馬鹿だな」
最近だんまりだったキュピが突然現れて、会話に参加してきた。二対一で非難されてしまうと、何も言えなくなる。
「ワタシなんて、ここまでついてきて撃沈、撃沈、墜落デス! むしろこっちがキュピちゃんに何とかして欲しいぐらいデス」
「お前はよその国の匂いが強すぎる」
キュピはツェツィーリアさんが伸ばした手を器用に避け、他のテーブルへ飛び移った。
「む〜。逃げられてしまいましタ。とにかく、人生で一番大事なのは、精神力だと故郷の精霊も言っていました! はちゃめちゃにこじれる前に、何でも正直に言うべきデスよ!」
自分に比べたら、すでに交際しているのだから悩むことはない。腹を割って話し合うべきだ、と彼女は言う。
「で……ですよね」
励まされ、やる気が湧いてくる。今すぐ手紙を書いても到着する頃には行き違いになってしまうと言うので、ヒューイが戻ってきたらきちんと謝罪して、自分の気持ちを伝えようと決意した。




