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知らなかった時は何も感じていなかったのに、いざその「事実」が目の前に現れた途端に忙しなくなるのはなぜだろうか。
あっという間に出発の日になってしまった。昨晩、一緒に食事をしてしばしの別れを告げた。飛行船のトラブルでもない限り、ヒューイはぴったり二週間後に戻ってくる。
「ミルカ、お見送りに行かないの?」
もちろん私は今日も仕事だ。本日は寮の洗濯係である。
「昨日会って話はしたから……」
エラは私に見送りに行けとせっつくが、先日の「忘れ去られていた」件について、私はまだ若干のわだかまりを感じていた。どうやら、私はものすごく心の狭い人間だったらしい。
私のことなんて、優先度がとても低いのではないか。とふとした拍子に考えてしまう。冷静な私は「馬鹿だな」と嗤い、後ろ向きな私は「そうかもね」と心に寄り添ってくる。
つまり、私はまだ少し、不貞腐れているのだ。
『男なんてそんなもんよ』と親友は言う。男性に細やかな心配りを求めるだけ無駄だと豪語するのだ。
「とにかく、今日はもういいの」
仕事に集中する。力任せにざぶざぶと洗っていると、目の前にふわふわとシャボン玉が飛んできた。
「……おーい、ミルカちゃーん? 難しい顔して何考えてるのかなっと」
エラが石鹸でシャボン玉を作っていたのだった。
「何も」
「へーそうですかー」
そっぽを向いた私にわざわざ寄ってきてくれる彼女は、とても面倒見がいい人だ。
「結局さあ、あたしが聞きたいのは見送りに行きたいのか? 行きたくないのか? って事なんだけど」
「……行きたいでーす……」
返事を聞いたエラはにっこり笑って、私の背中をぱあん、と勢いよく叩いた。
「はい、先に休憩どうぞ。お礼はデザート一回分でよし」
ちらっと時計を見る。休憩時間を目一杯使えばなんとかなるかもしれない。行こう。
「あいつはいい奴だなー」
走り出した私の肩の上で、キュピは呑気にそのような事を口走る。
「じゃあ、エラにも姿を見せてあげたら?」
そう提案したものの、面倒を見なくてよい人はやりがいがない、と言うのである。つまり私はものすごく手間がかかる──キュピはそう言いたいわけだ。
私は走る。城内に飛行船の乗り場があるのでそこまで行くつもりだ。
そこから出発するのはわかっている。ちょうどよく、城内をぐるぐると周回している乗合馬車がやって来たのでそれに飛び乗る。車内はすでに、見送りの人や単純に飛行船の見物に向かう人で混雑していた。
飛行場はさらにものすごい人出だった。ロビーは見学者と式典の関係者で溢れている。
「み、見えない」
「仕方ねーな」
キュピがふわりと飛び去っていった。視線でそれを辿っていくと、甲冑姿のエレナ様を見つけることが出来た。
「すみません、すみません……」
人混みをかき分けて進んでいくと、エレナ様が私に気が付いてくれた。
「おや、ミルカじゃないか。私のお見送り……ではないんだろうな」
「ははは……」
多少の公私混同は役得。エレナ様はそう言って、ヒューイを呼んでくれた。
「……ミルカ!?」
「えへへ……来ちゃった」
「仕事があると聞いていたのに……ありがとう」
ヒューイはギリギリまで語学の勉強をしているらしく、手に角がボロボロになった参考書を持っていた。
「頑張ってね」
「……うん。向こうに着いたら手紙を書くよ」
お土産をたくさん買え、と騒ぎ立てるキュピを掴んでエプロンのポケットに入れる。
休憩時間はすぐ終わってしまうので、出発まで見送っている時間はない。でも、行ってよかったと思えた。
洗濯物を干していると、飛行船が飛んでいくのが見えた。
外国に手紙を書いた事も無ければ、届いた事も無い。後で海外への郵便の出し方を調べないといけないな、と考える。
翌日、私書箱を覗いてみるが当然の如く何も入っていない。意味も無く蓋を開閉する。
ヒューイがいないとつまらない。
……と言うと彼がものすごく面白い人の様に聞こえるが、そういう訳ではない。ただ、一緒にいるとなんとなく楽しさを感じている。
「そうだ、実家の方も確認しなきゃ」
家族用の私書箱を覗きこむ。中に私宛ての手紙が一通入っていた。両親からだ。その場で中を確認する。
次の休みには戻ってこい、と書かれていた。
次回の更新は1月4日の予定です。年末年始は他の作品を投稿予定なので、よろしければそちらもお願いいたします。




