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「お土産は本当にこれでいいのか……」


 リオは難しい顔をして、先ほど商店街で買ったもの──いわゆる普通の人が食べるような商品──がつまった紙袋をのぞき込んだ。肩には本人が元々持ってきていた鞄をかけているので結構な大荷物である。


「エレナ様はそう言った食物がお好きなので大丈夫です」


 ちなみにヒューイはもっと大量の荷物を持たされていて、紙袋で顔が隠れているので前が見えているのかどうかも怪しい。


 私たちは三人と一羽でエレナ様のお屋敷へ向かっている。リオの首には今日もカメレオンがいるらしいが、私には認識出来ないので数には入れない。


 二人がパリパリにアイロンをかけた服で行く、というので私までデートのために新しく買った服をおろす羽目になった。いや、購入時の目的は達成されているのだけれども。


 乗合馬車を降りて、貴族街へ足を踏み入れる。


 貴族街。通称「坂の上」と呼ばれている。土地を手放す人が少ないので、ほとんど住民が入れ替わることのない地域だ。


 別に誰が入ってもかまわないのだが、要所要所に憲兵や、それぞれのお屋敷の前に門番がいたりするのがいわゆる下町と違ったところだろう。


 坂を登っていく。勾配がきついので徒歩で移動するにはあまり適さないのだが、貴族は馬車を使うので大して苦ではない……と言うのが一般論である。


「それで……ミルカ君。エレナ様とはどこで知り合ったんだ」


 最初は平の研究員です、みたいな空気で接しておいて、正体が発覚したら急に威厳を出してくるのは止めてほしい……そう思って視線でヒューイに苦情を申し立てる。


 彼は紙袋の陰から若干申し訳なさそうな顔をのぞかせた。


「二人の遭遇事件」のあと、大急ぎで書いて大急ぎで戻ってきた手紙には、リオはああいう人で見た目より大人であること、毎回初対面の人間には正体を隠していること、エレナ様の熱狂的ファンなのだが、私とエレナ様の関係は知られると面倒臭いので黙っていたことなどがしたためられていた。


 それがバレてからは、今日まで一日三回、朝昼晩「どうして教えてくれなかったんだ」と苦情を言われ続けているらしい。


「それで、ミルカ君。エレナ様とはどこで……」

「やめてくださいよ、所長」


 ヒューイが間に入ってくる。


「ミルカの交友関係は所長には関係ないですし、自分だって隠していたのだからお互い様でしょう」

「むっ」


 庇ってくれたので、リオのことを黙っていたのは許す。


「事前に調べ物をしておくのは当然の事だろう」

「それは調べ物じゃなくて嗅ぎ回ると表現すべきでは?」


 二人がああでもないこうでもない、と言い合いを始めたので、仕方なしに少しエレナ様の話をしようかと思う。


「私とエレナ様は女学院の先輩後輩で……新入生の頃、姉妹制度でお世話になったんです」


「お嬢様だー!!」

「幼馴染みだー!!」


 男性陣は姉妹制度って何!? と急激な盛り上がりをみせた。


「女学院ってあれ、貴族が通うところだ!」

「なんだかんだでお嬢様じゃん!」


「う、うちは寄付金を出すので精一杯で……ほんとに、ギリギリで貴族と名乗るのも微妙で」


 私は気が弱くて、内向的な子供だったのでいじめられては大変と、両親はちょっと背伸びをして格式高い学校に入れたのだった。


 そして、監督生だったエレナ様が私の「お姉様」としてお世話係についてくれたのだ。


「なんであんたみたいなほとんど平民の子がエレナ様と……ってものすごくやっかまれて」


「あー」

「ああー」


 ヒューイとリオは上司と部下、先輩後輩の枠を超えて気が合うらしい……。


「でもエレナ様はとても立派な方なんですよ。私を庇ってくれて、ご自分が卒業した後もやっていけるように手助けしてくださいました」


「それで? それで? 他には?」


「当時から自分は嫁いで家に入ったりしない。もっと色々な世界を知りたいんだ、 とおっしゃってました。大体の子は、良い家柄の結婚相手を見つけることを目標にしているんですけどね」


「なるほどなるほど、エレナ様は知的好奇心が旺盛でいらっしゃるのか……」


 リオは感慨深そうに空を見上げた。ヒューイは紙袋からビスケットの箱が転がり落ちないよう必死にアゴで抑えている。


「み、ミルカ。ところでまだ着かないの」


「もうすぐだよ……」


 うめくヒューイをなだめる。実は今ちょうど私の実家の前を通ったのだが、それを言うと話が脱線しそうなので伏せておくことにした。


 坂を登りきると、とたんに道が緩やかになる。ここから、家の外観がさらに立派に変化していき、もう一段上の世界が広がっていく。


「あと少しなので、一気に進んじゃいましょう」


 私は荷物の重さと空気の違いにめげそうな男性陣を励まして、世界の区切りみたいに色が変えられている石畳に踏み込んだ。

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