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 この辺りなのは聞いていたけれど、まさか見つかるとは思っていなかった。


 家にお邪魔することにする。他の家族は留守のようだった。


「どうしてこんな所まで?」

「用事が終わったから……散歩に」


 ちょっと無理やりな言い訳だったかなと思うけれど、ヒューイはそれ以上追求はしてこなかった。


 家の中は研究室よりはずっと片付いている。むしろ綺麗な方だ。キュピはいつも通り、我が物顔をしてテーブルの上でふんぞり返っている。


「お茶を出せ。家の主はどこに行った?」


「急に田舎の方の畑がこの前の大雨でダメになってしまって、両親は手伝いに出かけているよ」


 治安が悪いわけではないけれど、やっぱり数週間家を空けておくのは心配だからと、少しの間ヒューイは実家に戻ったのだそうだ。


 紅茶を淹れてもらう。キュピは小皿に入った色の薄いお茶を飲んでいる。精霊が好むと言われている葉っぱを煎じたものらしい。


「母親が、視えないけれど居るならば、と頻繁にお供えをしているんだ」


 まだ見ぬヒューイのお母さんは、きちんとした人らしい……。


「すっごい可愛い家。お花が好きなんだね」


 家の中は、リースやドライフラワー、小さな鉢植えでいっぱいである。


「嵐の時は、全部中に入れないといけないから僕の部屋の床が全部鉢植えで埋まってしまって……」


 二階を案内される。ヒューイの部屋だった所は、物置になっていた。私の部屋も物置と化しているのでよく理解できる。


 当時から本は沢山買ってもらえたので、嵐の日は本と鉢植えの隙間で読書をするのが常だったと言う。当時はそれが不満だったが、いざ思い返すとなかなか楽しかったかもしれない──とヒューイは過去を振り返る。


 三階を抜けると、屋上に出る事ができる。これがこの家の自慢なのだそうだ。


 何年もかけて作り上げたのだろう屋上は畑があり、小さなテーブルとパラソルがあり、手すりから身を乗り出すと花祭りの会場の広場がよく見えた。


 ちょっとしたピクニックにはうってつけの、かわいい空間だと思う。


「ここはなかなかいい。ヒューイの母親は精霊の住み処を作る才能がある」


  キュピはそう言って、自分の領土かの様に屋上を探検し始めた。


 ヒューイの説明によると、精霊が見えていなくても彼らが心地よい場所を作る事が出来る人も存在するらしい。そのため、このあたりは本当に小さな精霊がよく遊びにくるのだと言う。


「ミルカにもまあまあ才能があるぞ」

「え、本当?」

 

 キュピのためにやったことといえば、はぎれと綿でクッションを作り、窓辺に置いてやったぐらいだ。キュピの要求する水準はずいぶん低いのではないか……と思う。


 今日は天気がよいので屋上で昼食にする。近所の定食屋さんに鍋を持って行くと、おかずを購入できるらしい。実家周辺にはそのような店がないので新鮮だった。



 非常にまったりした空気が流れている。さっきまで、ツェツィーリアさんにせっつかれ「素人質問で申し訳ないのですが……」を連発していた時とは大違いだ。


 二人で特に会話をするでもなく、キュピがうろちょろしている所を眺めている。こうしていると、たんぽぽの綿毛みたいでかわいく思えてくるから不思議である。


「これ」


 キュピが指し示したのは、一つの植木鉢だった。葉が茂ってはいるが、蕾は無い。


「これがどうしたの?」

「これの花がいい。花祭りの花はこれがいい」


 キュピはちょこん、と植木鉢に飛び乗った。


「それは花が咲かない」


 ヒューイが言うには、そもそも何の植物かも不明で、花が咲いている所を見たことがないらしい。


「そんなことはない。多分咲くからこれにしろ」


「無茶苦茶な……」


 キュピがあんまりわがままを言うので、私はヒューイからその鉢を譲り受けることにした。


 もし花が咲くのなら、当日はそれを使う。咲かなければ……まあ、お祭り会場にはそれこそ売るほどあるのでどうにでもなるだろう、との目算だ。


 帰寮し、窓辺に鉢を置く。


「それで、これどうやって育てるの?」

「知らん」


 キュピは草の育て方なんて俺様が知るわけないだろ──と言ってクッションに飛び乗った。


「え、何かないの、助言とか……」

「ミルカなら、やればできる」


 そんな無責任な……とぼやきながら、ひとまず水を与えてみることにしたのだった。

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