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  掃除用具を借りて研究室に戻る。


 なんとなく予想した通り、ヒューイは床に座り込んで本を読んでいた。


「ヒューイ」


「あ、これは、その。この本い、いるのかな、って思い始めて、それで……」

「とりあえず、しまって。精査するのは後日で」


「……ごめん」


 真面目でしっかりした人の印象だったけれど、意外と抜けている所もあるのだと今更気がつく。しかし、それはそれで逆に気後れしなくなったとも言える。


 ホウキで床を掃き、埃を集める。 固く絞った濡れモップで、床を磨く。あっと言う間にバケツの水が黒くなる。


 水を捨て、モップを濯ぎ、その作業を何回も繰り返す。 だんだん終わりが見えてきた。



「空気が綺麗になった……」


 ヒューイはすでに達成感に満ち溢れている。


 しかし、まだまだ手付かずの部分は沢山ある。次からはもっと細かい掃除をしていく。あまり成果が感じられない場所なので中だるみしてしまいがちだ。


 ヒューイのデスクの上は相変わらずごちゃごちゃとしているが、もうそこは管轄外だ。


 机の隅っこにガラスのケースがあり、その中に私が送ったクッキーの箱が飾られていた。


「ここだけ微妙に片付いているんだね……」


 冷静に考えると大事にされていて嬉しいような気がする……とは言っても、これは既に食用には適さなくなっているだろう。


「これ、もう捨ててもいいんじゃないかな」

「だめだよ」


 せっかく飾っていたのに。捨てるくらいなら今食べる。ヒューイはそう言って、おもむろにクッキーをかじり始めた。湿気っているのではないかと思うけれど、本人曰く胃腸は丈夫なので問題ないとの事……。


「うお、すげえな。さすがは本職。テキパキしていていいことだ」


  リオが食事が届いたと呼びにきた。あっと言う間に時間が経ってしまった様で、作業は途中だが仕方がない。


 ヒューイが不必要に溜め込んでいた文房具を共有の場所に戻すため、両手に抱えて廊下を歩く。


「そういえば、さっき副所長さんに会ったの」

「ああ、裏庭にウサギの精霊が出るからね。あの精霊、ムスタートさんがウサギみたいな配色だから自分の配下か何かだと思っているみたいで、よく様子を見にくるんだ」


 精霊と言うものは、なかなかお節介焼きの存在もいるみたいだった。


 テーブルにはぎっしりと食べ物が並べられており、皿の隙間でキュピが自分の宝物を見せつけるかのようにふんぞり返っている。


  食事中に、色々な話を聞くことができた。


 私のように精霊が視えない体質の人にも、精霊の方からあえて姿を現す場合もある。


 キュピは蹴られたから呪ったのではなく、そもそも私に認識されるためにいちゃもんをわざとつけてきたのだ、と言う。


 本人に尋ねてみたが、都合が悪いのかテーブルの反対側に逃げて行ってしまった。


「これ、俺の首にカメレオンが乗ってるの。わかる?」

 

 リオは自分の首元を指さした。


 私は首を振った。どうやら、先ほどからこの周辺には様々な精霊がいるらしい。でも、私にはキュピの存在しか確認出来ない。


 説明を聞いてみると、ド派手な髪の毛は染めたのではなく、精霊の影響で昔は黒だった髪の毛の色が勝手に変わってしまうのだと言う。しかし実害はないのでずっとこのままだ──とリオはケラケラと笑う。


 その話を聞いて、ふと思ったことがある。


「私の瞳の色も、実は何か精霊と関係あったりして……」


「……それは、ないかな」


 ヒューイは大変申し訳なさそうに私の思いつきを否定した。


  顔から火が出そうになるとは、この事である。調子に乗って恥ずかしい発言をしてしまった。


「わかりますよ。私も自分の色素異常と精霊視は関係あるのかと思い研究テーマにしていましたから」


「ワタシの髪の毛も『紫は高位の精霊に好かれやすい』と言われていますが、根拠はないんですよネ」


「俺みたいに後天的に影響を受けてしまう事象はあれど、外見との関連性は今日まで実証されていない」


「……」

「大丈夫。この通り、ミルカの疑問は大抵の人は一回は考えるから」


 ヒューイは私を慰めてくれた。


「なんだ、ミルカ。お前目の色を気にしているのか? 俺様が成長した暁には、お前を全身ピンクにしてやってもいいぞ!!」


 キュピの提案を、私は丁重にお断りした。これ以上わかりやすい外見にされてしまってはたまらない……。

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