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「よしっ」


 準備は万端だ。今日は研究所に遊び……いや、報告に行く日だ。


「職場を紹介します」と言われた時にはどうしようかと思ったけれど……断るのも変だし、実際に興味はある。


 毎週のように休みに顔を合わせているけれど、花祭りが終わってしまったら、私たちはどうなってしまうのだろう。


 はいさよなら、なのか、友達なのかそれとも……いや、後ろ向きな事を考えるのはよそう。


 そっと「罠」の所に近づく。狙い通り、キュピはそこにいた。ケーキのかけらと一緒に、すやすや眠っている。


「本当にお酒に弱いんだ」


 研究所に行くからには、キュピが一緒にいなくてはいけない。しかし、精霊は気まぐれだ。頼んでも同行してくれるとは限らない。


 そこで、私とヒューイは作戦を立てた。キュピは私の作った物や持っている物を食べたがる。


 なので、夜のうちにお酒の入ったパウンドケーキを焼いておき、テーブルの上にこれ見よがしに置いておいた。それをかじって酔っ払って寝てしまったと言うわけだ。


 起こさないように、そっと籠の中にハンカチと一緒にしまいこみ、借り物のナプキンを上にかける。


 新しいバレッタをとめる。仕事には派手なので、休日は優先的にこれを使うようにしている。


 そっと寮を出る。朝の爽やかな空気が肺にしみこんでいく。


 眼鏡をかけていた時は、どうしても指の油などで視界が曇る。裸眼だとそのような事がないのでとても視界が開けて見える。


 まだ少し、知らない人とすれ違うときは緊張するけれど、自分でもずいぶん明るくなったと思う。


 待ち合わせの庭園には、先にヒューイが到着していた。


「おはよう」


 ヒューイは特に眠そうな様子を見せなかったので、朝型なのかもしれない。


「お待たせ」

「今着いたばかりだよ」


  お待たせ、って少し偉そうな感じだったかな? ごめんなさいの方がよかった……いや、そんな事は、ないかな。


「見て、これ」


 カゴにかけてある布をそっとめくる。キュピはまだ眠っている。ぷぅ、と鼻息がした。


「よしよし……」


 朝の庭園を散歩する。待ち合わせには余裕を持って……余裕がありすぎたから。


「そういえば、クッキーの件だけど」


 ヒューイがつぶやいた言葉にどきりとする。どうだった、と尋ねると彼は口籠った。


「いや、その……まだ食べていなくて」


 そうなんだ……とがっかりする。やはり甘いものは好きではなかったのかもしれない。


「もったいなくてまだ机に飾っているんだ」


 食べない方が勿体無いと思うのだが、果たして次のクッキーがきた場合、彼は一体どうするのだろうか……。


 研究所へ向かう。


 建物の前を通りがかった事は何度もあるけれど、実際に中に入るのは初めてだ。


「緊張してきた……」

「みんないい人たちばかりだよ」

「でも、国中の天才が集まっているんでしょう」

「僕みたいなのでもやっていけているから。他の人は……天才と言えば天才だけど、まあとにかく大丈夫」


 ヒューイがドアを開けようとしたその瞬間。中から同年代ぐらいの男性が飛び出してきた。


「何してんの? 早く入りなよ!!」


「ああ、リオ……せっかくこっちが心の準備をしていたところだったのに……」

「マジ? ごめんなー。ミルカちゃん、許してくれよな」


 リオと呼ばれたその男性は、黄緑と水色のグラデーションの、世にも奇妙な髪の毛をしていた。


今後は月水金更新となります。よろしくお願いします。

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