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お礼のお菓子を作り終わったはいいものの、直接渡すつもりはない。
私たちの行動範囲のちょうど真ん中にある郵便局。そこまで向かう。
お城で働くことのできる人──つまり家柄ないしは能力が認められた人となると、古い知り合いや親戚同士になりがちだ。とは言っても城内は広いので家族間でのやりとりのために契約している人が多い。
顔を合わせるのは恥ずかしいのでここにクッキーを入れてしまおうと言う訳だ。
とは言っても、実際に使うのは今日が初めてなので緊張する。真新しい札がつけられた私書箱に手を伸ばすと、後ろから声をかけられた。
「ん? お前、こんなところでどうした」
ぎくり。この声は……振り向くと、まさしくそこには兄のシリルが立っていた。
「お、お兄ちゃん……」
「そこはうちの私書箱じゃないだろ」
「え、えーと……」
「てか、マジどうした? 振り向いたら一瞬人違いかと思ったぞ」
彼は私の外見の変化に戸惑っているようだった。あまり知らない人からすると別人だと思うかもしれない。
「お兄ちゃん、これ見える?」
私は肩にとまっているキュピを指さした。
「何が?」
「ここに精霊がいるんだけど」
「マジ? すごいじゃん」
「私、今ピンクのヒヨコに取り憑かれていて……それで研究所の人とやりとりをしているの」
「なるほど。でもそれと見た目が変わったのは関係なくね」
「関係は」
ないけどある。あるけど……ないね、うん。
私が黙っている間に、シリルは真実に辿り着いた様子だった。
「なるほど。なるほど。なるほど。わかった。お兄ちゃんはすべて理解してしまったぞ」
私の周りをぐるっと一周したのちに、肩を掴まれる。
「ちゃんと紹介しなさい。そいつはどんな奴だ? ちゃんと親には報告してあるんだろうな」
「あ、ま、まだお父さんとお母さんには言わないで」
「なんでだよ! 真剣交際なら親に紹介するのはおかしくないだろう」
「その、いきなり重い女と思われても困るし」
とにかく報告は絶対にしないでと口封じをしていると、ヒューイがやってくるのが見えた。
「……ミルカ、こちらの方は?」
ヒューイは早足でやって来て、私とシリルの間に立った。
「あ、この人は……」
「うっふふふふふふ」
私の説明を遮るように、シリルは気持ち悪い笑い声を出した。
「いや、すいません。私はミルカの兄です。妹がお世話になっているそうで」
「お兄さん……!」
ヒューイは一瞬で笑顔になった。
「国立精霊研究所に勤めておりますヒューイと申します。妹さんと交際させていただいております。ご家族とは知らずに失礼しました」
「いえいえいえこちらこそ」
二人は「いえいえ」とか「いやいや」を連発しながら固い握手を交わしている。
「ずいぶん明るくなってびっくりして問い詰めてしまったんですよ、いやいやお邪魔しました」
シリルはそのまま去ってしまった。仕事の用事で来たんだと思うけれど、手ぶらで戻って大丈夫なのだろうか……。
「ごめん。知らない男に絡まれているのかと思って……」
「私に話しかけてくる男の人なんていないよ」
「そんな訳はない」
ヒューイは今日も断言した。意外と思い込みが激しいのかもしれない。
「ところで、ここにいるって事は何か……」
「これ、この前のお礼!! それじゃ、私出勤するから!」
お菓子を押しつけて逃げるようにその場を立ち去る。午後の勤務はエラと一緒だったので、今日の出来事を話す。
「それ絶対ナンパされていると思って割り込んで入ってきたんでしょ〜」
キュピはふんふんと頷きながらエラの話を聞いている。毛がふんわりしているのでご機嫌のようだ。
「そうかな……うん、そうだよね?」
他人のお墨付きをもらうと、なんだかちょっと自信がついてくる。
「実は、最初っからその鳥? が手先だったりして」
「俺はニンゲンの小間使いなんてしない。第一選んだのはミルカだぞ」
エラにはキュピが見えていないのだが、うまいこと話が噛み合っていて少し面白かった。
次回の更新は月曜です




