第五十七話 意味深長
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耐え難い吐き気と共に目を覚ます。
胃酸を飲み込んでもさらにせりあがってくる。胃がやられていると十中八九こんな状態だ。
乱暴に吐瀉物を受ける壺を掴み、とめどなく吐き出す。
昨日よりはマシだが、それでも気持ち悪い……。とにかく水が欲しい……。
「……? ディマ、起きた?」
「あぁ……最悪だ……」
返事をする気力もない。単語で喋るのが限界だ。
辛そうな僕を見て察したのか、ジャーダがアンティークな茶器に紅茶を入れて差し出してきた。
なぜ紅茶なんだ……とは思ったが、そんなことを言ってられない。水分であれば何でもいい。
出された紅茶を味わいもせず一気飲みする。
だが、なんとなく鼻に抜ける感じが甘草と似ていた。嫌いなものならすぐ分かる。
「美味しいでしょ?」
「僕が嫌いって知ってて飲ませただろ……」
「嫌いだったっけ? ごめんにゃあ」
「ただただ気持ち悪い……」
「でも、治りは早くなるから……ね? 万能のハーブだから」
ジャーダめ……僕が元気であれば滅多刺しにしていたところだった。
しかし、毒ってそんなに抜けないものなのか。相当棘を刺されていたんだろうな……。
出血していたと思われる頭の部分を触る。
……特に何か巻かれているわけではなさそうだ。軟膏も塗られていない。
「どうしたの?」
「いや……頭から血が大量に流れていたはずなんだが……」
「頭は怪我してなかったけどなぁ。幻覚じゃない?」
「じゃあ、あの叫び声も――」
全く誰だか思い出せないが、聞こえのある声であったのは確かだ。
ヒイラギモドキがそんな幻覚を見せてどうするんだ……。逃がそうとしたら自分が吸い取れる養分が少なくなるだろうに。
「ん……? どんな叫び声さ」
急に顔をしかめてジャーダが聞いてきた。
そんなに大事なことなのか?
別に知られてまずいことじゃないけど、あんな顔をされるとちょっと怖いな。
「『ディマ、逃げろ』って」
「……へぇ。完全に消してなかったんだ――」
消してなかった……? どうしてその言葉が出てきたのか見当が付かない。
ジャーダは何を知っているのか?
「……極悪人だよ。なんでそんなことするのかなぁ」
「……何の話をしているんだ?」
「んー? ひとりごとだよ。あれは、今の統率者様が洗礼を受けた時の忌まわしい事件だったねぇ」
「全然意味が分からないぞ」
「意味が分からなくて当然でしょ。ディマが4歳の時に起こったことだからね」
「なんでその話を今したんだ?」
「えー、内緒! 聞きたいなら僕以外に話を振ってごらん? ぜーったい誰も言わないだろうけどね」
空笑いをしながらジャーダが一通り話すと、最後に一つだけ強調して付けくわえた。
「そうそう、メルクリオだけには言っちゃダメだよ? ある意味当事者だし、全ての歯車を回したのは彼だからね」
……余計にこんがらがってきた。病人が聞くような内容ではない。
一体何やらかしたんだ? アイツのことだからいろいろやってるだろうけど……。




