第五十六話 雑談
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……気付いたら一眠りしていた。
夜は深まり、蝋がパチパチと燃え解ける音しか聞こえなくなっていた。
ジャーダは調合台の上で藁にくるまって寝ている。なんだか申し訳ない気持ちになるな。
「……起きたか」
メルクリオは相変わらず机の上に寄っかかっている。
ずっと煙管吸っているけど飽きないものなのか……?
「……寝ないのか?」
「さっきまで寝ていた。確かめたいことがあるから待っていたが、案外早く起きたな」
「夢のことでも聞きたいんだろうけど、大して面白くないぞ」
「ふーん、興味深い」
灰を窓から落とし、煙管をローブの中にしまうとベットの側へと寄ってきた。
「どこをどうやったら興味深いって言えるんだよ……。話聞いてた?」
「被検体がこんなにも近くにいたら、そりゃ興味深いと言いたくもなるだろう」
「はぁ……笑うなよ?」
「メルクリオに殺された」なんて当人に言ったら、さぞかし笑われることだろう。
僕だって笑っちゃうよ。殺意があったら別だろうけどな。
「メルクリオがな、僕を滅茶苦茶に殺していたんだよ」
「ほう? 俺がディマを殺すって? いいねぇ、一度は殺してみたいよ」
夢の時ほどではないが、ぎらついた目付きではあった。
この際殺されたってかまわないんだけど、あれはちょっと嫌だな……。
「はぁ……じゃあなんで僕を育てたんだよ……」
「敵を殺すにはまず味方に成り済ますことだ。当たり前だろう」
「外道かよ。そこまでするくらいだったら母体にいる時に殺してくれ」
「……洒落にならない冗談だな」
メルクリオはため息をつくと、不服そうな表情を浮かべながらベットへと近づいてきた。
「……夢の俺はどうだった? かっこよく振舞っていたか?」
「なんか液体飲んでラリってたぞ。混血の血啜りながら心臓食らってたな」
「それ以外は?」
「いや……特には」
「……あぁ、ならまだ良かったかもな」
髪を指でクルクル巻きながら、視線を逸らして小さく呟いた。
ほぼ同時に雲に覆われていた月が顔を見せ、優しい光がメルクリオの透き通るような碧色の瞳が煌めかせる。
それこそ、宝石のように。
美しいものほどトゲがあるのがこの世の摂理――。どんな秘密があるんだか。
「多少薬をキメなきゃお前を育てることなんて不可能さ。可愛いもんだ」
「えぇ……そんなに悪さしたつもりはなかったけど」
「まぁ、俺の怖さが分かってもらえればそれでいい。そんなこともあるってことさ」
「あったら困るんだけどな……」
メルクリオは軽く笑うと、不意にしなやかな指で髪を撫でてきた。
反射的にぞくっと身震いする。ランポみたいに撫でられるといろんな意味で怖いんだよ。
……だが、悪くはない。子供の時は良く撫でられていたからな。
「……何で触るんだよ」
「なんとなく、だな。他意はない」
「……別にいいんだけどさ、ちょっとまるくなった? ジャーダとも話してたし」
「あれは必要経費だ。俺はいつもと変わらないぞ」
わざとらしく最後の言葉を言った時だけ視線が不自然に動いた。
暗に伝えたいのか、はたまた嘘が下手なのか……。メルクリオは流暢すぎる時もあるから全然分からないんだよな。
「どうせすぐに分かるだろうがな……」
そう言い残して、メルクリオは部屋から去っていった。
あの豪奢な宝飾の付いた髪留めを机に残したまま――




