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アーク・ノヴァ――天球の音楽――  作者: 道詠
鹿砦の罠
18/19

The little Harmonia villagers ζ´ 【選択肢1】

【アレックス犯人説に矛盾はある】

【アレックス犯人説に矛盾はある】


「アレックスが犯人なら、田中君もグル、茶雀君とアレックスと田中君3人の犯行になるね」

『――――っ!?』

「僕は村人だ」

「知ってる。だから、アレックスは嘘を吐いてる。それは、自分が真犯人だから? それとも、茶雀君と同じ理由から?」

「ッ……はは、参ったな。そこまで見透かされていたんだ」

 アレックスは焦りながらも微笑を浮かべて、次の瞬間、背を向けて走り出す。トリボロスが突き飛ばされ、たたらを踏むも囲いは突破された。

「アレックスを追うぞッ!!」


 囲いを抜け出したアレックスを追いかけ、田中の号令で全員は音楽室に辿り着く。ドアノブを回すが、ガチャガチャと音が響くばかりで扉は開く兆しを見せない。

 他のドアとは違い、音楽室のドアだけは防音仕様の室内に合わせて頑丈な物になっている。

「咄嗟の判断にしてはよくやるものだ。これで、真犯人への手っ取り早い手掛かりは潰えたと言う事か……!!」

 田中が不敵に笑いながら、手が白く染まるまで拳を握り締める。表情と震えた拳、一体正しいのはどちらの顔か。

「これでアレックスから話を聴く手段は、彼の窒息死を待つ以外になくなったね」

 菜種が皮肉めいた笑みを零すが、田中に見られると急いで視線を逸らす。田中はドアを開ける手段を考えようと提案するも、誰1人田中に目を合わす者は居ない。

 そこへ、鳩羽が1歩前に出る。心臓はドキドキと何時になく高鳴っていて、今なら吊り橋効果も期待できそうだと胸中ではふざけてみせた。

「アレックスは犯人ではないけど、犯人の仲間なんだと思うよ。でなければ逃げたりしないし、自分の嘘を認めるような真似もしない。だから、まさかの可能性じゃなくて良かったよ」

「オッサン、展開に追いつけないんでお解説お頂戴」

「いい? アレックスが娯楽室に戻って凶器を隠すには、菜種や海松さんが居ない時間に行けたとしても、田中君が居る。

だから、田中君の証言次第でアレックスの犯人の真偽は決まっていたんだ。だけど、田中君は誰も見ていなかった。

田中君が何も言わないから私が言ったんだけど、どうして黙っていたの?」

「……思わぬ犯人に動揺していて、頭に無かった」

「……え?」

「そんな目で見るな! 馬鹿で悪かったな! まさか自白されるとは思わなかったんだ! 僕の予測が正しければ犯人だろうと偽物だろうと告発は山鳩に行く筈で――」

「何で俺がそんなに疑われてんだよ!」

『………………』

「……取り敢えず、茶雀を締め上げるしか手立ては無さそうだな」

「――彼は何も知らないんじゃないかな?」

「は?」

「考えてもみなよ。どうして、茶雀君は狂信者ってカードを残したんだと思う? アレックスが言ってたよね、殺人者のカードは初日に処分してるって」

「……僕達を困らせる為に残しておいたんだろう」

「だったら、どうして隠しておいたんだろうね?」

「……君は、狂信者と言うカードを残す必要があると言いたい訳か」

「うん。説明書は処分してあったでしょ? それはさ、そうする事で私達を混乱させる目的があったんじゃないかと思った。

でも、そう考えるとどうしてカードを隠してたのかって言う謎が解明できない。それなら、パズルを組み立て直せばいい。

説明書を処分しなくちゃならない理由があったか、あるいはカードだけでも残さないといけなかった、私はこのどちらかだと考えてる。どうかな?」

「説明書を処分しなくちゃならない理由は、そうしないともし部屋を調べられたときに俺達を混乱させられないからで……それは、カードだけを残さないといけないって理由にもなる……」

「テグス君の言う通り。このふたつは繋がってるよね。だったら、カードを残す理由は何だろう? 

私達からは隠したかった、でもカードは残さないといけない――ここから判明するのは、どんなピースだか分かってくれるよね、田中君?」

「……狂信者は、殺人者達が誰だか知らず、また向こうも狂信者を知らない……そういう事か?」

「うん。最初は狂信者って名前に騙されてたけど、この狂信者は恐らく人狼で言うなら“狂人”なんだよ。

人狼だと狂人の強化版である狂信者は場所によって出来る事が違うらしいんだよね。

人狼が誰だか判る狂信者も居れば、人狼が誰かは判らないけど人狼の吠えは聞く事の出来る狂信者も居る。だから、自然と除外してしまっていたんだ」

「な、なんていうか、ごめん、人狼知らないぼくらが気付いたほうがいいことみたいだし……」

「ううん。そんな事ないよ。菜種は色んな意見を言ってくれてる。そのおかげで、私もこうやって考えられたの。だから、ありがとね」

 鳩羽がふんわり笑うと、若干目を逸らした菜種は左手の人差し指で髪の毛をくるくる弄った。

「茶雀君は狂信者。だから、仲間の為に動こうとしているんだと思う」

「犯人も茶雀さんがそうだって知らないのに、なんで茶雀さんの髪の毛が落ちたのかな……」

「こういう事は言いたくないんだけど、たまたまなんじゃないかな。目に付きやすい色だった訳だし、テグス君じゃ犯人役として無理だし、茶雀君はゲームに残ってたから」

「だが、血溜まりの中では僕達が見落とす可能性があっただろう」

「だけど、そこまでしないと犯人が見落としたって言う事に説得力が持てないんじゃないかな」

「んな話より、犯人見付けてどうするんだよ。ふん縛るのか? つーか、茶雀はどうすんだよ」

「本当に何も知らないとは思えないけど、田中みたいのはどうかと思うし、自白剤でもあればいいのになぁ」

「えーと、自白剤は十分物騒な手段だと思うよ。私も茶雀君を暴力で吐かせるのはどうかと思うし、それは最終手段って事にしようよ」

「…………わかった」

「それじゃ茶雀君、娯楽室に行こうか。あそこなら氷もあるし、手当てしないと……」

 茶雀はぎこちなく身体を起こすが、怯えた顔で近寄ってくる鳩羽を見るばかりだ。鳩羽が手を差し伸べると、手をついて後ろに下がろうとする。

「ごめん。私を疑う気持ちはわかるんだけど、キミのケガが心配だから。歩ける?」

 茶雀はこくんと頷き、ゆっくりと立ち上がる。だが、鳩羽が手を貸そうとすると拒んだ。

「連れて行く。先、準備してろ」

 トリボロスが強引に茶雀を引っ張り、茶雀は痛みに顔を顰めながらも従う。恐がっている茶雀を見ると迷いはあったが、鳩羽はこくんと頷いた。

「そうだ――菜種、携帯貸してくれる?」

「? はい、どうぞ。ヘンなトコ見ないでよね」

「分かってるよ。大丈夫、信じて」

 個室が配置されたフロアの廊下には、小さき塔を帽子のように被った女が松の木を背景に微笑んでいる。


「茶雀君、ここに座って」

「あの……大丈夫ですから……」

「従え」

 トリボロスの一言にびくっと肩を大きく震わせ、顔を上げた茶雀は泣きそうな顔で言う事を聞く。

「少し沁みるけど、我慢してね」

 鳩羽は子どもに話し掛けるように優しく語り掛け、氷嚢を当てて固定するよう包帯を巻き出す。

 すると、茶雀がくしゃりと顔をゆがめる。まるで大きな子供のようで、鳩羽は苦笑した。

「あんなに派手に見えたけど、怪我は大した事なさそうだよ。大丈夫、すぐ治るから」

「……ありがとうございます」

「ううん、こっちこそごめんね」

「……さんが、かばってくれたから……ごめんなさい、ごめんなさい……」

「恐かったよね。でも、大丈夫。今は何も気にしないで」

 彼女は茶雀の頭を穏やかに撫でて、柔和に微笑む。バタンと扉の閉まる音がした。


 茶雀の気が済むまで、鳩羽は隣に座り地蔵のように黙している。彼は暫く口を開こうとしなかったが、根負けしたか落ち着いたか――遂に、言うべき言葉を滑らせた。

「……おれ、本当になにもわからないんです」

「それはどうして?」

「……狂信者だから、です。ぜんぶ、ハトさんのすべて言った通りなんです。どう動いたらいいのか分からなくて、まだ2日目だから判断を先延ばしにしていたけど……来てしまったから」

「……。オシロサマを殺そうとしたのは、どうしてなのかな」

「ちがいます、あれはふりでっ! 後からついてきてるのは、わかってたから……」

「ば、バレてたんだ……」

「はい。田中さんは予想外でしたけど、ドアに張り付いていたんだし、逃げるものだと思っていました」

「……もし、迂闊に傍へ近寄っていたら?」

「それは――さあ、どうでしょうね……?」

 茶雀がニコリと笑い、鳩羽の肌にぞわっと鳥肌が立つ。心情が表に出ていたのだろう、茶雀は不可思議そうに小首を傾げながら何時もの垂れ目で彼女をじっと見つめた。

 鳩羽は浅く息を吸い、茶雀の黒子に視線を落としつつも、にっこりと笑いかける。それは精一杯の見栄だったが、茶雀は無邪気に笑い返した。ぞっ、と背筋に怖気が走った。

「会話、聞こえてたんです。視線を感じたから、なんだろうって耳を澄ましてたら山鳩さんの声が聞こえて」

「そ、そっか。あんな狭い部屋じゃ聞こえるよねそりゃ、アハハ。……ここまで話してくれてありがたいんだけど、どうして話してくれたの?

狂信者って役割は、犯人の味方をしなくちゃいけないんだよね……?」

「やだなぁ。おれだって、好きな人の為なら頑張れるし、そうじゃない人の為だったらやれって言われたって力出ませんよぉ……」

「えっ……あっ、そ、そうだよね。嫌いな上司より尊敬された上司に言われた方が仕事も捗るし!」

 鳩羽は極めて冷静に努め、何でもないように笑おうとした。引き攣りかけた頬を強引に持ち上げたお蔭か、茶雀は「はいっ」と従順に首肯する。

(もっと事情を聞かないとならない。情報を収集しないといけない。わかってるのに、聞きたい事が浮かばない、早く此処を離れなければならないような、本当に私は此処に居ても大丈夫なのか? 離れないと……)

 僅かに出入り口方向へ振り向くが、トリボロスの姿は見当たらない。途端に恐怖が喉元から込み上げて、またあの喋りたがりが天真爛漫に外へ駆けだそうとする。

「また、くるね。トリボロスさんも居なくなった事だし、早く戻らないと」

 鳩羽は立ちあがり、医務室の扉へ背を向ける。小走りで駆けだそうとしたその瞬間――ガッと右肩に衝撃がくる。

 鳩羽は必死で声を呑み込んで、何でもないと言い聞かせながら、少しずつ振り向き出す。そして、その後ろには――笑っている、茶雀が立っていた。

 いびつに歪んだ微笑を浮かべた彼は、彼女の右肩を掴んで呼び止めただけだ。それだけの筈なのに、彼女の心臓は今にも時が止まってしまいそうだった。

「おれは、カルマさんの事、とてもきらいです」

 ブラックホール、ダークマター、光を連想させない極大の闇の塊が、眸の中に住んでいる。彼の眼は白と黒だけにくっきりと別れていて、茶色や灰色などの色は何もない。

「だってあのひとは――アレックスさんを殺したから」

 曇りなき黒が紫を見つめ、赦さないとばかりに収縮した眸は鋭く尖っている。それは殺意のように研ぎ澄まされた刃物ではなかったけれど、ヘドロを固形化させて鈍器にしたような凶器には違いなかった。

「っ……キミは、アレックスさんのこと、好き、なんだね……」

「ハトさんも好きですよ?」

 それからニッコリと向日葵のような笑顔で言われた言葉に、鳩羽は絶望した。


『おれだって、好きな人の為なら頑張れるし、そうじゃない人の為だったらやれって言われたって力出ませんよぉ……』

 鳩羽は厨房に寄っていた。一通り確認して携帯を使うと、2階へ向かう。階段を上がっていくと微かに音色のようなものが聞こえてくるが、鳩羽の耳はそれどころではなかった。

『あのひとは――アレックスさんを殺したから』

「わからない……何だアレ? どういうつもりだ? 何の思惑があっての言動なんだ?

いや、そうだ、山鳩から話を聴いて、きっと私の事を味方だと誤解したんだ。そうに決まってる」

(そうなると、なにもわからないってコトバはウソになるよ。アヤメちゃんは、ウソだとおもうの?)

「……解らない」

 力が抜けた鳩羽は血の気が引いた顔で背中を折り曲げるように歩き続け、廊下まで辿り着いた。だが、廊下に居たのはテグスだけだ。

 テグスは顔を伏せて壁に凭れ掛かっていたが、鳩羽の足音に気が付くと顔を上げ、ぱっと華やいだ顔でとたとたと駆け寄ってくる。鳩羽は首輪のついた子犬を連想した。

「ハトさんっ!」

「さんはいらないよ、テグス君」

「あっ、えっと、は、はとちゃん……」

「うん。なあに?」

「俺のことも呼びすてで……そうじゃなくて! ついてきて!」

「あれれ、テグスって呼んじゃダメなんだ?」

「ちっ、ちちちがっ!?」

「ふふ。わかってるよ」

 彼女がテグスの頭に手を伸ばしさらさらと撫でまわすと、すっかり顔を伏せたテグスはふまんげに唇をとがらせ、鳩羽の顔を上目づかいで見上げてくる。

「……あ。カオ、青いよ。ここ、さむい? っじゃなくて、そうだよね、いっぱいがんばったあとだもんね……ごめんなさい、俺、なにもできなくて」

 しゅぼんと萎んだ花のようにすっかり縮こまってしまった小動物を見ていると、鳩羽の口許も自然と和らぐ。

(もっと頑張らないといけないと思ってたのに、なんだか、休まるなあ。信じようと思った田中君は脅迫するし、助けようと思った茶雀君は得体が知れないし、まさかテグスまで……ああ、疑心暗鬼に陥りそうな自分の弱さが嫌いだ)

「……あのさ。きっと、田中君なりに色々考えてると思うんだ」

「うん」

「でも……なんで、あんなことしたんだろうって疑念が拭えなかった」

「それは、焦ってたからなんじゃないかな。オシロサマさん、このままだと……だから、力技で訴えたんだと思う」

「……。だったら、手伝わないとね。よーし、頼りないなんて言われないよう、張り切っちゃおう! そうしたら、田中君だってあんな強硬手段に出なくて済むよね!」

「うん、俺もがんばるよ! いっしょに田中くんを手伝って、みんなでお家に帰ろうよ!」

(田中君みたいに法医学に少しは明るくて度胸があったら、彼にそこまで負担を強いらずに済んだのだろう。私の不甲斐なさが彼に強行策をとらせたのだと言うのだったら、私は――)

 固められつつある決意を邪魔するように、ピアノの明るい音色が鳴り響く。何処かで聞き覚えのある懐かしい音楽に、鳩羽はつい足を止めた。

『どうしたの、あやめったら泣いちゃって』

『そんなにケーキが好きだったか?』

『父さん、そんなわけないだろ。今時、幼稚園児だって誕生日に大好物が出たところで泣いたりなんかしない』

『ふふ、泣くか食べるかどっちかにしなさい。ヤケ食いなんかしたら、ケーキがもったいないでしょ』

 ――ごめんなさい、ごめんなさい、わるいこで、ごめんなさい。

「……ハッピーバースデー……」

「あの……さっきからずっと、流れてるんだ。もう何回目なのか、わからなくて……」

 仮にも殺人事件が起こった屋敷で、ハッピーバースデーの曲が幾度も繰り返されている。あの軽快で明るく楽しい曲が、歌声も無く死の静寂に潰された重苦しい世界の中、奏でられる。

 終わる気配のない、人の誕生を祝うための祝福の音色が恐怖を掻き立てる。曲の正体に気が付いてしまった鳩羽は、すがるようにテグスの手にふれた。

「ごめん……その、すこしのあいだでいいから……」

「――だいじょうぶだよ」

 遠慮がちに願い出た鳩羽に対し、テグスは力強く答える。それから、彼女の手を握って静穏に微笑みかけた。

「俺は田中くんだけじゃない、きみのことも手伝いたい。

俺に出来ることは少ないけど――いつだって、きみのそばにいるから」

「……ごめんね」

「そこは、ありがとうって言って。ハトちゃんみたいな可愛い女の子には、笑っててほしいな」

 にっこーと向日葵のように笑うテグスがふと頼もしく見えて、鳩羽はおずおずと手を握り返した。


「ここ、って……」

 そこはまるでコンサートホールのようだった。円を描くような空間には、秩序を象徴するような白で塗り尽くされている。

「審判の間、って言うみたい」

 4階へ続く階段には全てシャッターが下りていたが、エレベーターだけは4階へ行く事が出来た。

 しかし、4階は通路の両脇にシャッターが下りているせいで、審判の間、書庫の2部屋以外に移動は出来ないようだ。

 鳩羽は目の前の広大な空間に息を呑んだが、同時に圧倒的なまでの白に自分がいやにちっぽけな存在に思え、孤独を感じた。

 部屋中央には14人分の席が設けられ、13人分の席が円になるように置かれ、円中央にぽつんと1人分の席が用意されている。

 異様な事にその席だけは幾重にも連なった鎖に縛り付けられ、拘束具のような印象を与えた。更に鳩羽が入ってきた入口の真上の壁には真っ赤に輝く太陽の絵が描かれている。

「誰も見ていなくたっておてんとさまは見ていますってか」

 海松が煙草を口に銜えると、横から素早く菜種が煙草を抜き取って海松のジーパンの尻ポケットに突っ込んだ。

「なんだか、卒業式の会場みたいだね……」

 だだっ広い空間には14人分の席も物寂しく映る。だが、その手前には小さな石碑と見世物のように簡素な観客席が両脇に用意されていた。

「あれ、十字架が彫ってあるよ。どうしてだろう?」

「礼拝堂の椅子を流用したのだろう」

 テグスが後列のに目をかけると、田中が答える。背もたれに十字架が彫られ、背中には冊子を入れられるポケットがついている木製の椅子がずらりと並んでいた。

 部屋の奥には玉座のようなものが敷かれ、その左右には4人の席が置かれている。

 14人分の席には椅子は無く机だけが用意されている事に対し、玉座と3人分の席は段差も出来ていて14人を見下ろすような高さになっている。1番上の孤高の段に君臨しているのは、空席の玉座だ。


【ようこそ、審判の間へ。此処は仮初の楽園、罪を暴き裁き立てる神域。

汝ら容疑者は真なる殺人者を見付け出すか、哀れなる罪人を引き出し、審判官に差し出せ。

自死であれ事故死であれ病死であれ殺人者以外の者であれ――その罪からは逃れられない。

その罪を赦されたくば、浄化されたくば、他者の血によって贖え】


「供物でも差し出せって? まるで儀式だよ」

 鳩羽が呆れたように言うが、テグスの顔は真剣そのものだ。既に田中達はそれぞれの席についている。

「だれしもが通る道だよ、通過儀礼イニシエーションは……」

(……言われてみれば、卒業式も入学式も成人式も、ある種の儀式には違いないけども……)

「この文書を見るようじゃ、厭な予感プンプン丸なんだけどハトはどう思った?」

「無実の人間に罪を被っ被せて騙し切ったら人殺しの勝利で私ら全滅、正しい人殺しを指定出来たら私ら生存。違う?」

「審判官ってのは、もしやオッサンらの中に潜ってるワケ?」

「監視カメラも見当たらないし、そうかもね。居たとしても、見付ける方法がもうわかんないけど」

「つーか、アレックスや茶雀はどうするんだよ。あいつら確定人外みたいなモンだろ? 連れてくるのか?」

「そうみたいだね。何にせよ、彼らの協力は必要だ。何らかの理由で投票できない場合、どうするのか気になるけど」

 机には全員分の顔写真が載ったパネルが用意されている。パネルをタッチすれば、投票が完了する仕組みのようだ。画面には殺人者を選べと字幕が載っている。

「それで、この部屋はどうやって見付けたの?」

「田中が言い出したんだよ。この殺人が誘拐犯たちにとっての予定調和なら、屋敷の何処かが変わってるかもって。それで各自で変化がないかどうか探っていたら、ホントに田中が見つけたってわけだ」

「怪しいよなァ、田中のにーちゃんは。オジサン、つくづく主導権握られるとこは気にしちゃうんだよなァ」

「好きに疑え。己が身を滅ぼす自信がなければな」

「犯行がゲーム中に起こったのだとすれば、脱落者たちが犯人の可能性は薄いよ」

「ハト、それって自分を追い詰めてない?」

「もちろん、私は犯人じゃない。山鳩、テグス君、トリボロスさん、オシロサマ、茶雀君、アレックスさん、この6人の中の誰かにカルマ君を殺した犯人が居る筈だ。そして、オシロサマを殺そうとした犯人も」

「俺でもテグスでもねーよ!! いや、茶雀かアレックスかはわかんねえし、やっぱ田中達だって怪しいだろ、田中はさっき茶雀ボコってたしな……」

「今はまだ、単独犯か複数犯かも分かってないんだよね。でも、夜時間は5分なんだし、犯行時間を考えたら単独犯と考えて良いよね。てか、たった5分で2人も人を殺せる犯人って何者……?」

「あっ、あああああのっ! カカカカルマくんって具合悪そうだったし、体調崩したのかも、そのせいですぐに殺されたんじゃ……」

「それで無抵抗のように見えたと言う訳か。考えられるな」

「カルマ坊ちゃんが犯人サイドだったら、犯人は計画的に犯行を及べたんだろ? 案外、カルマ坊ちゃんと手を組んだ犯人チームがオシロサマ殺そうとして、仲間割れになったんじゃないのかね」

「えぇ……? それだったら、カルマ―オシロサマ―実行犯の3人トリオじゃないと。

オシロサマがゲームを提案して、カルマが殺人に計画性が出ないようGMに立候補して、犯人が役持ちになれるよう操作したって筋書きならまだわかるよ」

「仲間割れで自滅したなら、オシロサマもカルマ君も殺人者の仲間で、茶雀君やアレックスさんもそうだって分かってるから……もしかして、今、犯人は孤立無援?」

「……! そっ、それならぼくたちでもナントカなるかも!」

「つーか、どんだけ犯人グループ仲間いんだよ、異常だろ……」

「とんだバランスブレイカーも居たもんだ。誘拐犯共オッサンらに勝たす気ないのよ。ケッ、酒が飲みたい気分だ」

「でも、ハトは信用してるかな。さっきの発言もそうだけど、今回の事件はか弱い女の子には不向きだから」

「信用出来るからと言って、真実を導けているとは限らない。自己判断で頼むよ」

 鳩羽はクールに切り返す。テグスが頬を紅潮させて「かっこいい……」とぽつり、とこぼす。山鳩が後ろからそれをド突くと、すぐにむーっと唇を尖らせて山鳩を見上げ返したが。

「5分間で人を2人も殺すとなれば、必然的に計画的犯行性が見えてくる。しかし、直結して犯人の仲間割れ説に結び付く訳ではない。

人数が11人で役無しの村人は1回目が4人、2回目が3人だ、役が回ってくる可能性は十分あるだろう。犯人が初めから単独犯だった可能性も低くない。

オシロサマがあの性格のせいで疑いたくなる気持ちは分かるが、まだ凶器の動向についての洞察は済んでいないだろう、一度落ち着く事だ」

「田中君、それはどうかな? 役持ちで最終日までの生存率が高いのは狼だけだよ」

「最終日まで待つ必要性は皆無だ。寧ろ、容疑者候補が減ってしまうだけに3日目辺りに仕掛けてくるのは妥当と言えよう」

「ていうかよ、役持ちだけが疑われるのはヘンだろ。役無しだってフツーに犯行チャンスはある。

つか、役無しの方が殺しに行きやすいシチュエーションだったろ。初日さえ生き残れりゃあいいんだから、人狼の方に思考を割く時間もいらねーし」

「霊能は人狼1だから、お弁当以外の意味がないですけど……」

(人外が騙れる役職には違いないから、COせずに素村で落ちてくれたほうがありがたいような……)

「だってGMと交流とれるの役持ちの方が多いじゃん」

「変わんねえって。GMの方からこっちにやってくるんだから、自分の部屋で殺したら持ち運んで血だとか隠蔽しなくちゃならねーんだぞ?」

「グダグダうるせえな。役の話は今関係ねぇだろ。本題に集中しろ」

「うん、今やってるのはゲームじゃない、事件の推理だよ」

 トリボロスとテグスの注意に2人はふてくされた顔でむっすりと黙り込む。

「ねえ、ちょっと話を聞いてもらってもいいかな?」

「ああ。聞かせてもらおうか」

「私が厨房を調べた結果、厨房では有る筈のない包丁が見つかったんだ。持ってくるのは危ないから写真に撮って来ただけだけど、これが証拠の写メだよ」

 刀身が三日月型のような装飾細工用のピーリングナイフ、果物の皮むきが主な用途のペティナイフ、ブッチャーナイフ、ミンチナイフ、クレーバーナイフ、中華包丁、菜切包丁、麺切り包丁、柳葉包丁、刺身包丁が1本ずつ揃えられている。

「えーと? これってなにかヘンなところあるの? だいたいみんな同じに見えるけど……」

「スゲー色々あんな……って、なんで刺身包丁が2本あるんだよ。1本でいいだろ」

「さすがにステーキナイフは除外したけど、其れ以外は全部撮ったと思う。写真には撮ってないけど、娯楽室の包丁は家庭用の三徳包丁に出刃包丁、貝剥きナイフにマグロ切り包丁、万能包丁ぐらいだったかな」

「そいつはおかしいぜ。娯楽室には刺身包丁もあったんだ。オッチャンは昨日の夜、酒のおつまみ作る時に包丁を拝借したんで、憶えてるのさ。フフン」

「私が娯楽室の包丁を確認したのは、水場を調べに行ってた時だよ。これが何を意味するのか――もちろん、海松さんには分かるよね?」

「刺身包丁だけが抜き取られてた……ってワケかい。ナルホド、柄も娯楽室と厨房じゃ違ってら」

「でも、家庭用の刺身包丁じゃ骨にぶつかったら欠けて武器にならないんじゃないかと思うんだけど」

「一応、夫婦喧嘩で夫の背中を追い掛けながら包丁を投げたら、夫の背中に刺さって死亡した事件がある。凶器は居酒屋で使う業務用の包丁だったが」

「……なにそれ?」

「信じられないだろうが、実際にあった事件だ。喧嘩は笑って済ませるものにしておきたいな」

「正面からは筋肉が邪魔するだろうけど、背中からだったらどうだろう。

それに腎臓の主な役割は血液の濾過や尿の生成、老廃物の排出辺りだった気がするよ。腎臓は骨に邪魔されていないし、殺傷性の低い刺身包丁でも致命傷にはなるんじゃないかな。その事から考えても腎臓をやられたらあれくらいの出血も頷ける」

「……刺身包丁が凶器だったら犯人は全くの素人だと思ったのに、やれやれ。

考えてみりゃあ、厨房の調理器具は殆どが業務用、娯楽室の家庭用を使ったとしても冷静な判断で確実に殺してやがるとはァ……困ったモンだ」

 海松が煙草を取り出そうとすると、山鳩がすかさず「おい」と声を低くして注意にかかる。恐い恐いと言いながら海松は肩を窄め、仕舞った。

「テグスのヤツが喘息持ちだってのに、あいつ何考えてんだよ、もう忘れてんじゃねーだろうな……」

「こういう状況だから、精神安定剤みたいな物かもしれないし……」

「テグスオメーが庇ってどうすんだよ! 辛いのはテグスなんだから、自分で言えっての。あーあーあ、もっとシャキッとしろよな」

「山鳩が居ないところでは、がんばるね」

「オイ!!」

 にっこり笑ったテグスは山鳩に突っ込まれ、にへら~っと茶化すように笑って呆れられた。

「厨房で確かめてみたら、包丁を仕舞う鞘みたいなあれのサイズが合ってなかったんだ。

結論を述べれば、それは娯楽室にある包丁と入れ替えられたって事だ。それが出来た人物は現場を離れて散歩に行っていたあの人しか居ない。

……アレックスさんを犯人じゃないと除外するのは、まだ早いかもしれないよ」

「と――トリボロスはどうなんだよ。あいつだって捜査に協力してないだろ!」

「あの人はずっと自分の部屋の中に居たでしょう。廊下にずっといた海松さんなら、見逃さないんじゃないかな」

「おー! そうそう! オッサンはあのコワーイコワモテさんを見張ってたのよ!」

「お酒に強いったって、さすがに死体を見たら吐くだろうしね。海松は悪くないよ」

「おおっ!!」

「見かけ倒しのヘタレ鼠男ってだけ」

「ガガーンッ……!! くうっ、上げて下げられた……!」

「キモチワルイなぁ、ほんと……はぁ」

 菜種がげんなりした顔をしているが、山鳩は眼前のやりとりに気分が減退している。


「ゲーム中はGMが個室を訪ねてくるから、凶器を調達する時間はなかった。反対に個室から娯楽室へ移動する際中もGMや他の人の目があったから不可能だ。

となると、ゲーム以前に調達しなくちゃいけないんだけど、それは菜種や田中君たちが言ってくれたようにオシロサマの突発的な行動のお蔭で誰にもそんな時間はなかった。

それこそ、凶器を手に取れたのはお茶請けや飲み物を用意してた時ぐらいだったんだよ」

「事前に用意して、部屋に置いてたってんじゃダメなのかいお嬢さんよ」

「考えられなくもないよ。でも、故意的にって考えるとある疑問点が生じる。昨日の事を思い出してほしいんだ。

危うく全員の個室の家探しとボディチェックが迫られそうになったでしょ? あのときは多数決で流れたけど、あんな事があった後で自分の部屋に凶器を隠すと思う?」

「殺人者だったら有ると思うが。自分以外の人間が殺人を犯すような状況は想定していないだろう。

発想を転換させてみたまえ。個室の捜索が行われる時はそのような緊急事態以外に考えられなかった。一度個室の捜索を発案したからこそ、そういう事項が決定されたのだ」

「順序が逆だと? うん、そうかもしれないね……だけど、私は私の考えを変えるつもりはないよ。だとしても、犯人がそうした行動をとれるかはまた別問題の筈」

「君お得意の犯人心理の話か」

「犯人だって普通の人間だよ。殺人犯を未知の化物と考えているようでは、捕まえられるものも捕まえられない筈だ。私はこの持論に間違いは無いと確信している」

 鳩羽は自らの胸に握り拳を当てて、朗々と語る。だが、彼は溜息を吐きながら何時もの腕を組んだ姿勢で鳩羽を見下ろす。その双眸は研ぎ澄まされた黒曜石のように澄んでいる。

「そこまで言うのなら、君の持論とやらを聞かせてもらおうか」

「分かった、受けて立とう。私は犯人が単独犯だと思っている」

「ほう。何故だ?」

「むしろ、私は聞きたいね。カードを配られこの人たちは味方ですよと教えてもらったところで、会ったばかりの赤の他人を信用出来ると思うか?」

「…………」

「下手にチームを組めば、裏切りもしくはミスが必ず出る。それは私たちが殺しのプロフェッショナルではなく、普通の人間である証とも言えるだろう。

誰かが裏切る事を前提に動けば構わないが、そうまでして他人と手を組む意義はあるか? そうだとしたら、わざわざ他人のミスを考慮して動かなくてはならない複数犯よりも単独犯を選ぶのが妥当だろう。

複数犯と言うのは、相応の必要性が出てからの話だ。私が犯人なら、自分のせいでのミスは自業自得で命を落とすのもまだ納得がいく。だけれども他人のミスでの露呈は絶対に納得がいかないだろう」

「他人を信用してバカを見るか、自分だけを信用して愚を見るかは、個人の性格次第だ」

「だから、家族だとか親友だとか恋人だとか――そういう特殊な人間関係を除いてだ、他人を殺すなどと言う特殊な事情に誰かを巻き込んだり、誰かと協力したり、そういった事が出来ると思うのか?

交換殺人だって実行するのは単独で、協力者は殺人を実行すると言う一点のみでの特殊な信用があってこそだ」

「……ハト、べつじんみたい」

 菜種はぽかーんと口を開いて2人の口論を聞いている。山鳩は頭を掻き毟り、海松は家猫の事で頭が一杯だった。

「水掛け論になる前に続きを話そうか。私は犯人が単独犯で、ゲーム中のドサクサに紛れて娯楽室のバーカウンターにある刺身包丁を手にしたのだと推理している。

それから、犯人はジャケットの内側やシャツの中、咄嗟に隠せるような場所に凶器を隠したんだ。

ゲーム中はイスに座ってるから殆ど動かないし、気を付ければいいのはGMと2人で移動する時だけ。その移動時間も短いし、凶器の移動は思ったよりも簡単だよ。

犯人は個室に戻った後、機会を窺ってオシロサマを訪ねる。オシロサマを狙ったのは共有者だったからじゃないかな。

共有者の片割れが怪しいと言う風にミスリードが可能だし、オシロサマ当人の性格的に色んなミスリードの輪を膨らませられる。

そこで隙を見てオシロサマを殺害、シーツを盾にして包丁を抜き取り、血塗れの包丁の血はシーツで拭い取る。

次にカルマ君を呼び出して強引に部屋へ押し入り、絞殺。現場は放置して一旦、音楽室か男子トイレかどこかに凶器を隠して個室に帰る。

それから、誰かが遺体を見付けるまで待機した後、隙を見て凶器を回収後、娯楽室に戻そうとした。だけど、ここで予想外のアクシデントが起きたんだ。それは、海松さんが廊下に居た事」

「え、あたしが何かしたの?」

「個室のフロアはL字型を右に傾けて反転させた形だけど、娯楽室付近は1本道の廊下になっていて繋がってる。

娯楽室を出入りするときは、個室フロアの廊下から見通せる位置にあるんだから、海松さんの目が常にあって娯楽室に入ったらあとあとに響いてくるかもしれない。

そう思った犯人は1階の食堂に移動して、厨房の包丁棚にしまったんだ。だから、犯人はアレックスさん」

「えっ……なんか今のはなし、すっごいおかしくなかった?」

「そう? 今はまだこんなところかな。これから細かいところを詰めていくつもり」

「オシロサマを殺すところがガバガバじゃねーかオイ」

「私もよくわからないんだよね。なんでだろうって今も五里霧中。テグス君、トリボロスさん、田中君、何か意見はないかな?」

「手前の推論通りだろうさ」

「僕は他に気になる事があるんだ。今は意見を保留させてもらう」

「俺は……この事件の犯人は、人狼だと思う……」

「テグス、今はゲームやってるんじゃないんだぜ。まさかマジで人狼が実在してるなんて思ってないよな?」

「山鳩邪魔」

「はぁ!? テメーケンカ売ってんのかああ゛!?」

(山鳩の言い分ひとつひとつがノイズにならないよう気を付けてるけど、やっぱり敵だと判ってるせいで裏がないか探りたくなる。山鳩はノイズになってるんだって気付いてないんだろうけど……やっぱむかつく)


 ――なんで、キミは私の敵なんだ。私の仲間じゃないんだ。どうして、守らせてくれないんだ。私はキミを守りたいのに!


「――指だ」

「ユビ?」

「ああ。オシロサマの手は綺麗だった。不自然な事だと思わないか。普通、被害者は犯人に抵抗なり、生き残ろうとするなり、最後の反撃に出る筈だ。

犯人はシーツで返り血を防いでいようと、盾のようにして持っている訳だから、オシロサマが反撃すればオシロサマの両手や衣服にはもっと血が付着していたっておかしくないんだ。

少なくともオシロサマは一撃で絶命した訳ではない。一泡吹かせようと言う訳でもなく彼は無抵抗にああなったんじゃないか。だから、手が汚れなかった」

「そういや、あいつ……やけにキレイな手してたな。そうだ、俺もそこが引っ掛かってたんだよ。あいつが俺の顔にさわってきたとき、ヘンだなって」

「やっぱりオシロサマは怪しいよ! 身体は動けた筈なのに死に物狂いで部屋の外に出て助けを求めなかった。それどころか、同じところに居続けたんだよ!? 仲間割れで自滅したんだって!」

「おいおい、映画やドラマの見すぎじゃない? アドレナリンが分泌して痛覚麻痺ってたかどうかなんて、本人以外与り知らぬトコロだろうよ。痛くて動けなくったってしょうがないと思うけどねぇ」

「彼はどうして山鳩の顔にふれたんだろう?」

「なんつーか、よくわからん。なんか、手動かしてたけど」

「死ぬ前の被害者がする事と言えば、ダイイニングメッセージだよね」

「ダイニングとダイイングが混じってるぞ」

「えっ? あっ……」

 鳩羽は顔を赤くしてはにかむ。気恥ずかしげに謝ると、彼女は両腕をぶんぶん振って気を鎮めだす。

「ふう……それで、山鳩のほっぺたに書こうとしたんじゃないかな。もともと目が悪そうだし、出血多量で見えないくらいまでに視力が落ちたのかも」

「あの眼帯はファッションじゃねーの。フツー、ものもらいなら白い医療用のやつつけてんだろ」

「でもさ、外国では義足でお洒落する人もいるよ」

「ここは日本だっつの」

「……本当にそうなのかな」

「は、はぁ? オメーなぁ、アレックスやカルマ見てカンチガイしてんだろーけどよ、あんな日本語ペラペラなんだぜ? ありえねーだろ」

「でも、これで解った。すべての謎は氷解したよ。どうして、犯人は2人もの人間を殺したのか」

「この裁判を起こすなら、殺害するのは1人で済む。殺せば殺すほど、アシがつきやすくなるはずだ」

「犯人が共有者の片方に罪を着せるため……? だけど、あんな小さい子を殺さないとならなかった理由なんて……」

「もっと素直に考えるべきだったんだ。犯人は共有者の生き残った片割れに濡れ衣を着せる為じゃない、犯人が共有者だからオシロサマは殺されたんだ。そして――その意図を隠す為にカルマ君は殺された」

「なっ、なななななっ!? おっ、オメーなにいってんだ!?」

「そっ、それって……!?」

「お、おいおい、それ何言ってるか、お嬢さん分かってる!?」


「だから――犯人はトリボロスさん、キミしか考えられないんだよ」



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