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アーク・ノヴァ――天球の音楽――  作者: 道詠
鹿砦の罠
17/19

The little Harmonia villagers Ϛ´

『…………』

 顔を上げた者達は皆、すぐに顔を伏せ込んだ。声を上げる事すらなかったのは、戻ってきた3人を見て判ってしまったからだろう。

「……どうだった」

 疑問形すら付かない、踏ん切りと言う確認の意を込めての問いかけに、田中は首を横に振る。

 菜種が鳩羽の背中に手を遣っているが、彼女の意識はまだ目覚めない。ぼうっとした表情が何処かを彷徨っているのだと、事情を知らない3人にも理解させた。


「……あれ。どうして、あれ、ここ、どこ?」

 それから10分後。茫然としていた鳩羽が現実に戻って来るなり、発言は疑問と化した。

「医務室だよ。その……きみはショックで、心ここにあらずって感じだったんだ」

「……どうして?」

「まさか、記憶が無いのか?」

「……ごめん。なにが、あったのか……話してくれる?」

「僕達はゲームをしていたんだ。ゲームが始まったのは、確か午前10時半だ。

昼時間が5分、夜時間が10分。初日の夜時間を計算に入れれば、75分。移動時間や諸々の誤差を考慮すると、5分程か。

それから感想会をして、休憩もなくすぐに2回戦を行った。ルール変更の手間を考慮すると誤差は5分~10分に広がるので、10分~15分ほどだな。

2回戦は4日目を迎えるところだった。夜時間を含めなければ30分。現在の時刻は1時18分だから、犯行時刻は12時15~20分頃と見てもいいだろう。誰か時計を見ていた者は?」

「ごめん。お腹空いたっておじさんが言ったときに見たと思うけど、内訳の推理に夢中で……」

「あたしもそれぐらいだと思うぜ。もう12時過ぎてるな、って話してたから」

「……それだけの時間で2人も人を……なんて、恐ろしいんだ……」

「……人ってのは、強要されただけで殺せるモンかね……」

「違うよ……みんなだって、もし人を殺さなくちゃいけなくなったら、きっとそうするでしょ……?」

「何言ってるのさ、ハト! そんなことするわけないでしょ!?」

「本当に?」

「ったりめーだろ! ふざけた事抜かしてんじゃねーよ! ショックで頭までイっちまったか!?」

「俺は殺せないよ……ぜったい、殺されてしまうもん」

「誰だって人殺しには抵抗がある。それでも誰かを殺さないといけないんだったら、自分と対等な人を襲う? 反撃を喰らって死んでしまうかもしれないのに? だって死にたくないもんね? うん、わかるよ、だれだって生きてる物に過ぎないんだもの、動物なら本能的に生物的に無意識的に死は恐れる。

犯人の心理なら、きっとそれを不安に思う筈。だから、殺人者にならなきゃいけない人は、自分より弱い人を狙うの。力が弱く体格の小さい女や子供、病人、怪我人、身体障がい者……レディファーストの由来って知ってる?

侵入者対策の肉盾、毒味役、糞尿避け、弾避け、地雷避け……ほーらね? 候補だけでもこんなにいっぱいあるの。良い意味なんて一個もない。

だから、きっと弱者が死ぬのに理由なんてないんだよ。弱いから死ぬんだ。私は運が良かっただけ。カルマ君は子どもだから、弱かったから犯人に狙われたんだよ」

 立ち上がった彼女は両腕を突きだし、両掌を広げ、肩を窄めて口端を吊り上げて笑う。絶望に呑まれた者の笑みに、誰もが目を伏せた。それは、痛ましい物だったから。

「オシロサマはどうなる?」

「GMのフリしてノックをすれば、誰だってドアを開ける」

「だが、彼は背後から殺された。背中に傷口があったんだ」

「5分や10分の為に鍵の開け閉めをする事を厭う人は居た。オシロサマもそうした1人だったかもしれないね?」

 血の気の失せた顔で虚ろに語る鳩羽は、未だショック状態から立ち直れずにいるようだ。呼吸は浅く早くなっており、声もか細い。それでいて理路整然とした語り口が、殊更彼らの恐怖を煽った。

 無垢な硝子玉がじっと見つめている。こてり、と愛らしくかしげた首はお人形さんのように人間味が無い。

「女が計画的に人を殺すのは何故? 力が無いからでしょう? 男がカッとなって人を殺してしまうのは何故? 人を殺せるだけの力があるからでしょう?

オシロサマだってそれと同じかもしれない。彼の煽りが、人殺しの琴線にふれたんだよ」

 ゆらゆらと両肩が揺れ、両脚が揺れる。蜃気楼のように、幽霊のように、彼女は揺らめき、虚ろに語る。

「たった1日。たった1日経っただけで、人が死んだんだよ? 私達まだ閉じ込められて2日目だよ?

笑えてこない? こんなの、こんなの、こんなの……茶番劇だよ。私は誰も信じたくない。信じられない」

「鳩羽。深呼吸だ」

 彼女は人の言う事を聞かずに話し続けている。田中は彼女の傍に近寄り、もう一度声をかけた。だが、彼女はこちらを見ながらも尚喋り続ける。

「茶番って言ったら他人の不幸は蜜の味って言うしブラックユーモアなんてものもあるくらいだから、私達の悲劇も外の人たちから見たら喜劇? 出来過ぎた悲劇は時に滑稽さを生み出すって言うものね、大理石のテーブルに頭をぶつけて死ねば人は何故か滑稽さを覚えるし、石に躓いて死んだと聞けば笑う人が居る。人って不思議だよね。悲劇を笑える頭を持ってるんだから。自分がバカげた悲劇に遭遇した時でも笑って後ろ向きな感情を減らして前向きに乗り越えられるようにって出来たシステムなのかな? そう考えると素敵だよね、ひどい皮肉で笑えてくるけど」

 彼女はつらつらと淀みなく話し出す。口を挟む隙が無い。誰も彼もが困惑するこの状況、田中は気が付いた。

「鳩羽。息を吸って、吐こう。意識してみて? 君になら出来る筈だ」

 彼は彼女の両肩に両手を置き、ゆっくりと強く指示すると顔を近付け、優しく蜜のように甘い声で語り掛ける。

「……すう……はぁー……すぅー……」

「よし、いいぞ」

「ど、どういうこと?」

「人はじっとしていられない生き物だ。その時は通常、無意識に癖が出る。貧乏ゆすり、爪を弄る、手を擦り合わせる、脚を組む、仕草と言うのは様々あるが、それでは抑えられない時、多動や多弁、不適切な笑いや泣き声、怒りなどが表に出る」

「自律神経の影響で情報を上手く処理出来なくて脳が不具合を起こしてるってコトかな?」

「その捉え方で問題ない。理性が処理しきれていないからこそ、感情が噴出すると言う事だ。

簡単に言えば、何かしていないと落ち着かない、という心理が極端に出ただけの話だからな」

「それが彼女にはおしゃべりだったんだ。ハト、おちついた?」

「……ごめん」

「思い出してくれたなら良かった。心配したぞ」

「田中君……ありがとう」

 鳩羽は胸に右手を当て、安堵したように微笑む。田中はササッと彼女から離れ、こほんと咳払いをしてから話を戻した。

「……! はは~ん、さてはきみ、ほんとは女子が――」

「何か言ったか?」

「――なんでもありませーん」

 菜種はあらぬ方向へ黒い眸を逸らす。田中が前へ向き直ると、鳩羽へ向けてにっと笑いかけた。

「犯行時刻のアリバイに関して言えば、奇しくも僕達には無い。丁度、その時間帯は鶸柚は花を摘みに、海松は彼女に頼まれて1階へ降りていた」

「食堂の冷蔵庫にフルーツがあったような気がしてさ、海松おじさんにお願いしたんだよ」

「パシリなんですねぇ、海松さんも大変ですう……」

 茶雀は同情に満ち溢れた慈海の眼差しを送る。海松は茶雀に噛み付いた。

「だまらっしゃいな。女子高生の頼みならオジサン何でも聞くし、俄然お得だから!」

「……気持ち悪い」

 鳩羽は菜種の手を握り、海松から引き離す。両腕を組む田中はうむうむとしきりに頷いていた。

「まさかの賛同者……!?」

「うわあ、ムッツリなんだ……」

「何を言う、僕はオープンだ」

「テメーみてえなキャラのドコがオープンだ! クソ! こっちはマジメに考えてんのに、オメーらがふざけるからッ……!」

「それは海松のせいだよ」

「アレックス! おまえさんは王子様キャラでいいよな、イケメンだし若いし金持ってそうだし! オジサンにはなんにもないのよ、分かる!? わかんないだろうなぁ、このコンチキショーめ!」

「……空気読めずにコンプレックス拗らせてるおっさんはほっといて、話進めようぜ」

「愛くるしいハンサム空気清浄器として参上したまでよ!」

「サプライズで香水と加齢臭を混同しちゃったニオイが放たれるんだね」

 冷ややかな菜種の辛辣な言葉攻めに海松は「女子高生なら許せる……!!」と拳を握り締めている。鳩羽は脱力した。

「小腹が空いてたから頼んだのであって、他意はないよ。トイレから帰って来た時間は覚えてないけど、誰も見てないよ」

「僕も覚えに無いな。僕は独りで居る時、娯楽室を離れなかった。誰も見かけなかったな」

「私が娯楽室に入ったとき、36分ぐらいだったと思うよ。私は32分ぐらいに個室を出たんだ。

それからカルマ君の部屋を訪ねてみたんだけど、そのときはもうノックをしても出てくれなかったから……」

「どうして個室を出たんだ? 規則違反だろう」

「緊張でお腹の具合がよろしくなくて、トイレに行く為にカルマ君に言っておこうと思って」

「となると、カルマは32分過ぎにはもう意識不明だった可能性が高いな。やはり犯行時刻は夜時間中と見ていいだろう」

「一体、何があったんだろう……ボクはオシロサマが怪しいと思うけど、この遊戯を機会と捉えた人が居たってコトなのかな……」

「誰かを殺そうとして、返り討ちに遭ったかもしれない?」

「はッ!? だとしたら、俺が切れたの、バカみてじゃねーか……! あのヤロォオオオッ!!」

「意識を失った肉体と言うのは意識を保っている時よりずっしりと重たいものだ。

人によっては運べるだろうが、計画的犯行であればむざむざとそのような手段は取らない。少なくとも台車か何か持ち運ぶ為の道具は持って行くだろう。扉の横に置いておけば、死角で見えないだろうから……」

「この中の誰かが計画的に犯行を行ったってよりも、オシロサマ加害者のほうが納得いくよね」

「そうすると、カルマ君はオシロサマに殺された事にならない? どうして、オシロサマは2人目を?」

「どうにも情報が足りない。この犯行時間の短さから衝動的な犯行と言うより、殺人者の犯行と言う方がしっくりくるが、そうなると殺人者は我々より多くのカードを持っていた事になる。

我々はその差を埋めるべく動く必要があるだろう。でなければ、真相は突き止められない」

「屋敷の中を歩き回ってみない? 向こうからのコンタクトがないって事は、こっちがアクティブに動けって指示だと思うんだ」

「僕はハトの意見に賛成だ。他の者達はどうだ?」

「その前に現場を調べておくべきなんじゃないかな。ボクは法医学についての知識がないけれど、死後硬直くらいは知ってる。ボクたちは素人だ、だからこそ時間が経たない内に遺体を検めさせて頂こうよ」

「改める……? 直すってドコをだよ?」

「調べるって意味。山鳩、アレックスさんから日本語教えてもらったら?」

「うーるーせーえー。調べんなら、とっとと行くぞ」

 鳩羽の顔色はまだ青白かったが、彼女はニヤリと何時もの不敵な微笑を浮かべる。


「君達は来るべきでないと言った筈なのだが……」

「ぼくは自分の目で見た物しか信じないよ」

「この事件の真相を知るには、視るしかないよね」

 田中は梃子でも動かない菜種と鳩羽に「自己責任だ」とだけ告げ、調査に必要な道具を投げ渡す。

「わわっ」

 受け取れなかった鳩羽に代わって、菜種がいっぺんに鳩羽の分も受け止めて手渡す。鳩羽ははにかんで「ありがとう」とお礼を言った。

 2人は手袋を嵌め、隙間なく顔半分を覆う立体マスクを身に着ける。部屋の中には淀んだ血臭が彷徨い、入って早々、菜種は吐き気を催す。換気もしていないのだから、当然、臭いは充満する。

「ちょっ、タンマ、きもいっ、気持ち悪っ……!!」

「出たければ出ろ。此処では吐くな。現場が乱れる」

 田中は冷たく言い放ち、遺体の傍にしゃがみ込む。鳩羽も倣う。アレックスは血の臭いに堪え切れず、謝罪を繰り返して外に出た。

 海松はそもそも部屋の外で待機しており、テグスは入ろうとしたのだが山鳩に止められ、山鳩は根性で堪えている。

「あ、あのときは必死だったから気になんなかったけどよ……キツイな、こいつは……」

「それは全員同じだ」

 田中も顔色は悪く口許に手を当てているが、辛抱して調べている。鳩羽は血塗れのシーツに立ち眩みを起こしたが、十数秒で持ち直した。

「イヤなニオイですね……アレックスさん、大丈夫でしょうかぁ……?」

 茶雀は遺体のあった場所に近寄る事が恐ろしいのか、遺体から離れた家具や床、壁などを調べている。

 部屋の中は物が散乱した様子はないが、元々部屋自体に物が少ない。初期の部屋から手を加えていない事は傍目にも判る。

 セイロンエボニー製のベッドを調べてみるが、マットレスの裏や枕の中などに隠された物はない。

 手当ての際に使ったシーツは千切れており、田中は元の現場を再現しようと山鳩と2人で確認を取り合いながら置いている。

「あん時は気が付かなかったけどよ、このシーツ、穴開いてんだな」

 千切れたシーツを繋ぎ合わせてみると、シーツには穴が開いていた。何だこれ、と山鳩はしきりに首を傾げている。

 シーツは血塗れだが、床に落ちている布団に血痕は見当たらない。布団はベッドの隣に置かれており、縦幅の長い面近くにオシロサマが、横幅の短い面近くに布団があった。

 布団は放り捨てたかのように乱雑に置かれていて、邪魔だから剥ぎ取ったように見える。そう見えたのは、犯行現場と思われるベッド周りにも荒れた形跡がないからだろう。

 壁際に接したベッドの右横にはサイドテーブルがあり、机の上にはライトスタンドと1冊の本が置かれている。

 引き出しを開けてみるが、やはり荒らされた形跡はなく気になる物もない。本の題名は【そしてだれもいなくなった】アガサ・クリスティ著の作品だ。

 鳩羽は本を手に取り、何か手がかりはないかと頁をめくる。冒頭には【その水を飲んだ者は、忘却を喪う】と赤いインクで書かれてあった。ラストの誰も居なくなったシーンには【その水を飲んだ者は、記憶を喪う】と黒いインクで書かれてある。

(これってなにを指してるんだろう? ラクガキなんかして、これ人のものだよね?)

(書庫の物か本人の所有物かは判らないが、書庫の物だとしたら有名な作品なだけに元々書かれてあった可能性もあるな。……私の部屋にあった人形の類かもしれないし、本人の持ち物かどうかは断言出来そうにない)

「それは……!?」

 トリボロスが遺体付近の床からピンセットで摘まみ上げたのは、血濡れた髪の毛だ。

 血だまりの中に落ちていて気が付かなかったが、田中がハンドタオルで血を拭い取ると、根元が黒い赤茶色の髪の毛が露となる。

『…………』

 全員が押し黙り、鳩羽は反射的にちらりと茶雀へ目が行く。彼は赤茶色の長髪を結んで右肩に下ろしている。今はその髪が血錆の色に見えた。

「私、茶雀君と一緒に調べるね。山鳩、廊下に落ちてる髪の毛回収してきて。廊下の何処に落ちているかも絵に描いて報告よろしく」

「はっ!? オメー何言ってんだよ、危ねえだろっ!!」

 鳩羽は口許に人差し指を当てる。山鳩はハッとなって慌てて口許を手で塞いだ。

「ぼくが行くよ。ここに居ても役に立てなさそうだし、人多いと逆に動き辛そうだって分かったから」

 菜種が部屋の外に出て行く。血臭を籠もらせないようにか、菜種がドアを開いておいたようで外の会話が聞こえてきた。

「あれ? 海松おじいさんはどこ行ったの?」

「とっ、ととトイレだそうです……」

「ふーん……そうだ、メモ帳か何か持ってない?」

「えっ、あっ、持ってません……」

「テグス! スケッチブック持ってただろ! ソレ貸してやれ!」

「うっ、うん!」

「茶雀君、そっち手伝ってもいいかな?」

 鳩羽が茶雀を見張っている合間に、田中とトリボロス、山鳩の3人は調査を進める。

「……オシロさんの事、見ていなくていいんですかね……」

「心配だよね。ろくな事しそうにない人だったけど、やっぱり生きるか死ぬかの瀬戸際に立つと、生きてて欲しくなるっていうか……ごめん、はなしすぎたね」

「いいえ……あの、様子を見に行ってもいいですか」

「私も行くよ」

「大丈夫です。ハトさんは、ここをお願いします」

 茶雀が部屋を出て行く。鳩羽は田中に耳打ちし部屋を出て行った。田中は驚きに目を見張ったが、扉を見つめる。

「……全く、勝手な事をしてくれるものだ」


 医務室の中で茶雀はオシロサマの前に立ち、オシロサマを見下ろしている。

「――そのメスで、何をどうするつもりかな?」

 茶雀が振り向くと、医務室の扉前に鳩羽が腕を組んで扉と壁の間に凭れ掛かっていた。

「なんでもありませんよ」

 茶雀は逆手持ちにしていたメスを鳩羽に向けながら、何でもないように言う。鳩羽も佇まいを変え、茶雀と向き合う。

「キミは証拠隠滅でもするつもりかい?」

「いいえ。おれは誰も殺しませんし、殺すつもりはありません」

「ならどうして? メスを持って立っているんだ?」

「お答えする気もない」

 冷気が医務室内を支配する中、茶雀はぞっとするほど色味の無い無表情でメスを構えている。対する鳩羽は素手、扉を背に立っているが、自然と口腔が乾いた。

【ガチャ】

「ふにゃあぁっ!?」

「っ!?」

 突如鳩羽は後ろに引っ張られ、どんっがんっと後頭部と背中にドアが打ち付けられる。

 衝撃から顔を上げると、目の前には端正な顔立ち、濡れ烏羽色の髪、鋭利な印象を与える銀のフレームが視界一杯に広がった。

「…………?」

「……なに、を……」

 2人は互いに見つめ合い、身体を強張らせる。鳩羽の右手はドアノブを掴んでいた為に彼が扉を開けた事で、予想だにしない方向からの衝撃にたたらを踏んだのだ。

 黒曜石の眸は大きく見開いて、彼女の顔を見つめている。徐々にその頬は桜色からさくらんぼ色に染まっていき、それから鳩羽の身体はどんっと空を舞う。

「おわっ――いたっ!!」

 現状の把握も侭ならず、鳩羽は床に臀部を打ち付ける。尻もちをついた彼女を見下ろして、ハッとしたように彼は急ぎ手を掴んで強引に立ち上がらせた。その顔は既に青白い。

「うわっとと!?」

「怪我は無いか」

「え? う、うん……って茶雀君!」

「なんですかあ?」

 茶雀は元の棚にメスを仕舞いに行っている。振り返った鳩羽はオシロサマに駆け寄り、脈拍を確認した。

「だ、大丈夫。何ともないよ」

「そうか……茶雀、君には任意同行してもらおう」

「任意なら行きたくないです」

「なら強制だ。袋叩きされたくなければ、共に来てもらおうか」

「彼女を人質にとってもいいんですよ」

「彼女は渡さない。僕が守る」

 田中は彼女の前に立ち、彼女を後ろに下げて交渉を始める。約5分後、茶雀は彼の粘り強さに折れた。


「彼は不審な行動を取っていた。犯人の恐れがあるので、拘留しなくてはならない。君の手足を拘束させてもらう」

「個室に閉じ込めたらいいんじゃないかな。疑いの余地があるだけなのに、縄で縛ってしまうのは可哀想だよ」

「アレックスさん……お人好しですね」

 茶雀は失笑し、懐から鍵を取り出してアレックスに差し出す。それを横から田中が奪い取り、中に入れと顎で示唆する。

「疑われたくないなら、おれに優しくするのは止したほうがいいですよ」

 茶雀は口許に笑みを残したまま、躊躇いなく私室に戻る。田中が外から鍵を掛け、アレックスに確認させた。

「……田中達は、彼を犯人だと思ってるんだね?」

 田中も鳩羽も答えない。アレックスは皮肉気に笑いながら「気持ちは分かったよ。だけど、ボクは違うと思うな」とだけ言い残した。

「私情に溺れるな。君は知らないだろうが、彼は人を殺そうとしたんだ。物事は客観的に見るべきだな」

 アレックスは驚くが、寂しげな眸で田中を見るばかりで何も答えない。田中は「仕返しと言う訳か」と苛立ち交じりに独語を呟き、部屋の中に戻って行った。

「ごめんね、アレックス。田中君、気が立ってるみたいで」

「ううん、気にしないでくれ。それより、茶雀は何をしたんだい?」

「それはまだ言えません。彼が犯人だったらいいけど、そうじゃなかったら失礼にあたるから」

 鳩羽は慎重な態度だ。アレックスは肯き、屋敷の中を歩きながら自分なりに犯人を考えてみると言って何処かへ行ってしまった。


 鳩羽は扉が開け放たれたカルマの部屋へ入る。室内には田中しか居なかった。鳩羽が「他の人は?」と尋ねれば「トイレか外だ」と端的に切り返す。

 部屋の外に居たのはトリボロス、菜種の2人だ。鳩羽が足を踏み入れると、カルマの遺体が視界に入ってくる。

 苦悶に満ちた禍々しい形相は苦しみもがいて死んだものだろう、顔の鬱血は嘗ての彼の面影を陰りなく消している。

 両腕と両脚は落ちた人形のように大の字に分かれ、両目は見開かれて顔の皮膚には点状出血が出ていた。

 どくどくどくと心臓の鼓動が激しく鳴り出し、爪先から熱が消え失せ、末端は冷たいのに心臓はひどく熱く、そのアンバランスさが気持ち悪くて吐き気が込み上げてくる。

 鳩羽が口許に手を遣ると、田中は「吐くならトイレに行ってくれ」と言い返すが声に力が無い。

 彼はカメラを手にしており、カルマの首元を写真に撮っている。目を凝らせば、首元には2本の爪が半円形に食い込んだ痕が見られ、痣がくっきりと残っている。

「……死因は絞殺?」

「爪痕や絞められた痕跡を信用するなら扼殺だろう。だが、防御創が無いのは何故だ?」

「ヤクサツ?」

「手で首を絞め殺したんだ」

「なるほど。ボウギョソウ? はカルマ君が子供だから、じゃなくて? 力が弱くて目に見える形で残らなかった、あるいは抵抗するまでに体力が保たなかった、抵抗する間でもなく一気に絞殺されたんだ」

「絞め殺すには首に力を入れ続ける必要がある。持久力が必要だ。防御創が無いのは……処理するには情報データが足りない」

「痣って手で力を込めた部分だよね? だったら、そこから犯人を割り出せないかな。手の大小って結構違い出てくるし、首を絞めた角度とか」

「……テグスは無さそうだな、という程度なら。テグスの指は細く短い子供の手だ。それにテグス自身はこの中でカルマの次に力が無いだろう。角度に関してはカルマが子供なだけに全体の身長差が大き過ぎて判断しかねる」

 田中は自分の両手をカルマの首元に添え、首を絞める動作を作っている。鳩羽がヒヤヒヤして見ていると、手を戻して今度はカルマの瞼を抉じ開け、ペンライトで照らしている。

「……皮膚に食い込んだ爪の位置からして親指か。……ふむ。これは急性窒息死と見ていいだろう」

 何を調べているのかよく解らなかったので、鳩羽は田中の隣にしゃがみ込み、田中の手付きや視線を観察しながら手許のメモ帳に要点を走り書きで纏める。

 カルマの遺体は部屋の中央近くに置かれており、室内の物は手を付けられた跡はなく綺麗に片付けられていた。部屋の内装は初期の物と同じで、酷く殺風景な印象を与える。

「こんなところか」

「部屋の中調べないの?」

「君はまだこの部屋に居られるのか?」

「2度も出入りしたくないだけ」

 鳩羽は冷静クールに切り返し、ベッドへ近寄る。煎餅布団はふんわりとかけられているが、枕の位置が中央から多少ズレており、シーツの端は雑に入れているようだ。

 もう1度、部屋の中を見渡してみるが、部屋の配置はやはり鳩羽の部屋の物と変わらない。何もかも綺麗過ぎて、カルマが部屋の家具に触れたような痕跡そのものが見られないほどだった。

 鳩羽は片っ端から開けられる物を開けていく。ひとつ気になったのは、L字型テーブルの引き出しに日記帳が仕舞われていた事だ。

(この生活は2日目だ、大した情報も得られないだろうが……すまない、カルマ)

 彼女が失敬して日記帳を読む。だが、最初から頁は白紙。何枚か捲ってみるも白紙。何だと肩透かしを食うも、鳩羽は生真面目に全頁をぱらぱらとめくる。

 すると、半分近くきたところで黒鉛が瞳に過ぎった。慌てて頁を戻して1枚1枚確認していくと、そこには目を剥くような1文が書かれてあった。

 文体は幼児が書いたように拙く1文字1文字が乱れている。まるで利き手ではない方の手で書いたかのようだ。

【死ぬと解っていながら、それでも足掻こうとする己の浅ましさに、それが人であったことを歯痒く思う】

(死ぬと解っていた……? どういう事だ? 少年に何が遭った? 字が震えているのは死ぬ前の遺言だからか?

いや、遺体には抵抗した痕が無かったんだ、この文章が事件に関わっているとは考え難いだろう……)

 その下に消しゴムで消された痕があったので、彼女は紙面の凹凸を利用し手近にあった鉛筆で文字を浮かび上がらせる。

【波風立たない生き方が、ほしかった。それさえあれば、俺はそれを望むのに? だとしたら、それこそ手島さんに願えばいい】

「ッ、手島てじまっ……!?」

『――手島てじまさん、手島てじまさん、おいでください。どうか、わたしたちのおねがいをきいてください――』

「どうした? 何があった?」

「……この事件とは関係が無い。此処から帰る事が出来たなら、その時に話すよ」

 次の次の頁には襲撃先予想と結果が同時に載せられている。2日目の襲撃予想は茶雀璃寛、結果は鶸柚菜種、3日目の予想は共有と書かれてあるだけだ。

 字体を見るに第三者の手が加えられた形跡は見られないが、カルマが残した筆跡自体が少ないだけに断定は厳しいだろう。字そのものは癖がなく端正なものだ。

(3日目の襲撃予想が書けたと言う事は、夜時間中は生きていた? 3日目と共有の数文字だけとは言え、襲撃先を予想するには時間がかかる。

この場合は狩人のどちらかを噛むか、残った暫定村役を噛むかの2択。残った白を噛むのなら、占い師、霊能、共有の3択になる訳だけど、狩人生存が確定している以上、占い鉄板護衛以外は考えられない。

だから、チャレンジャーな狼でもない限り、占い師は先ず選択肢から外す。残るは霊能か共有かになる。

霊能はまだSG位置に入れられるんだけど、2人も居る共有はSG位置に出来ない。それなら共有のどちらかを噛む……そう考えて、共有と書き込んだのかな? それならやっぱり、狩人のどちらかに狼が居る……! ……って、事件に関係の無い事を考えている場合じゃなかった)

「田中君。カルマ君の狼の噛み先予想って物を見付けたよ」

「……それは被害者が書いた物か?」

「うん。文章に手を加えられたような跡も見当たらないし、消しゴムで消したような跡もないよ。

犯行時間の短さを考えるに、この日記に何らかの細工が施された可能性は低い。キミはどう思う?」

おおむね同意見だが、両手を挙げて喜ぶ事は出来ないな。筆跡鑑定を行うのに必要な物が無い」

「ガイシャが文字に残したのは、この部屋にはこの日記帳しかないよ」

「ああ。僕にも覚えがない。ゲームの昼時間中にメモ書きをしていた人間は、鶸柚、テグス、海松、アレックスの4人だ。

 鳩羽は去り際にカルマの遺体へ黙祷を捧げ、隣で見ていた田中もそれに倣う。

「遺体は意識していたのに、こんな基本も忘れるなんて……いざとなると人間、思い遣る心も無くなる訳だ」

「人を人と見るのは難しい。インターネットの匿名性を利用して厚顔無恥に振る舞う者と言い、何もこのような状況でなくたって出来ない人間は出来ないだろう」

「……なぐさめてくれてる?」

「……耳鼻科にでも行ったらどうだ」

 どちらにもとれる返答を残して田中は部屋を出る。後に続くと、部屋の前で待っていたアレックスが一目散に駆け寄って来た。

「散歩は終わった?」

 鳩羽の問いかけにアレックスは首を横に振る。彼が言うには2人が心配で戻って来てしまったそうだ。

「ふたりとも、顔色が悪いよ。大丈夫かい? 一旦、外の空気を吸いに行ったら良いんじゃないかな」

 アレックスは田中と鳩羽の顔を見比べて気遣わしげに声をかける。2人はバルコニーに向かった。


「……一面、コンクリートだよね、やっぱ」

「変わっているほうが恐ろしい」

「わかってるけど、でも……息が詰まりそう。あんまりにも、無機質だよ」

 田中は四方がコンクリートに囲まれた壁を眺める。クレヨンの落書き風景は相変わらず、素材の奏でる無機質な音色と噛み合わず、不協和音を鳴り乱している。

 だが、田中はどうとも思わなかった。隣の彼女を見遣ると、彼女はひどく疲れているようで、均整のとれた横顔も見るからに曇っている。

 憂いを帯びた横顔も、悲しげに紡がれる繊細な声も、蠱惑的に動く薄い唇も、形の良い耳も、ひとつひとつに動きが顕れる度、彼は彼女が生きていた事を思い出すのだ。それほど、彼女の美しさは静的で。


「あのさ、彼の発言……信じてみないか?」

 その一言で、田中ははっとして視線を上げる。彼女の旋毛が見えた。違和を持たれぬよう、さりげなさを伴わせて、彼は悠々と唇を動かす。

「誰の発言だ?」

「茶雀君。私には彼が嘘を吐いたようには思えなかったんだ」

「……理由は?」

「疑う理由が無いからかな。何となくだけど、私は彼を信じてる」

「君は馬鹿か?」

「うーん、やっぱり?」

「理解出来ないな。彼奴は君を殺そうとしたんだぞ!」

「それはあれだよ、喉元過ぎれば何とやらってやつ?」

「阿呆か! そんな性格をしていたら、何れ本当に死ぬぞ? 君は死が惜しくない馬鹿者か? 自殺志願者なら茶雀と一緒の部屋に入れてやろうか!」

「……田中くんがたすけてくれたからだよ」

 胸元に手を当てた鳩羽はにこやかに微笑んだ。彼は息が詰まったような顔をして、彼女を睨むように言い返す。

「っ……あんなの、偶然だ」

「偶然で、現場を調べていた田中くんが医務室まで来ることってある?」

「馬鹿を言うな。僕は……君が無理をしたって、必ず助けられるとは限らない」

「うん、私だって毎度助けてもらうつもりはないよ。でも、あなたのことは信じてみようと思ったんだ」

「……何故だ?」

「優しい心配性だって分かるから」

「別に普通だ」

「特異な状況下では、“普通”が出来る事も変わってるよ。さ、話を戻そうか、田中君」

 鳩羽はバルコニーを出て行く。田中もバルコニーを出ようとするが、脚は鉛のように言う事を聞かず、逃げるように1階へ降りて行った。


 エントランスホールに出る。煌びやかな広い空間を眺めていると、先程までの現実が急に希薄に感じられて、あれは夢か幻かと思ってしまいそうだ。

(だからと言って、この世界にだって現実感は無い。あるのは、言い知れぬ虚無感と、浮遊感と、そして)

 1日に2人もの死を目にしてしまったからだろうか――彼の心臓は興奮し、脈動し、強くなにかを恐れていた。まるで嵐の静けさの前のように。しかし、嵐は巻き起こった筈だ、と彼は先程の光景を自分に言い聞かせる。

 咽狩る血の臭いが未だ鼻腔にこびりついていた。色濃く残る血臭に紛れて微かに、けれども強烈に放つ何とも言えない、肉と脂、腸から零れる生々しいあの生きた臭い――……。

(――気持ちが悪い)

「田中クン、キミもお人が悪いよねえ。くくく、まァ、オレはキライじゃないよ?」

 だからだろう、オシロサマはニタニタ笑いながら、手摺の上に腰掛けて足を揺らしている。右手には林檎を握り、軽やかに投げては受け止め、一口齧る。

(好きでもない、か? 何の話だか知らないが、貴様とは話もしたくない)

「……ネェ、“一瞬”ってドレグライのコトを言うのカナ?」

 気紛れなようでいて規則的に不規則に林檎を齧り、齧らず、投げる。旨そうにじゅるりと蜜を啜り、それから彼はまた、不意に真顔でこちらを見つめる。だが、すぐに口許を緩めて口端が裂けたように笑んだ。

 美しい薔薇と棘が刻まれた頬は白く、蕾の雫は青々しく、嵌められた眼帯に閉じ込められた赤い蝶は今にも飛び出して来そうで、あの赤が彼の流した血で塗り潰されていく。

 そして、彼は何も言わず、頭から落ちていった。石膏の様に固まった田中の脚は縫い付けられたかのように動かない。

「……は、は、は……はは。そうだ、死ぬ。まだ生きてるだけ。なのに。幻覚とは、僕の頭も参ったな」

 田中はエントランスホールの天井を見上げた。天上から吊るされた鈍く光る香炉が風も無いのにゆらゆらと揺れている。

「幽霊の正体見たり枯れ尾花」

 田中はひとしきり笑うと、彼の落ちた先を確認する事もなくクルリと踵を返して現場へ戻って行った。


(ねえねえ、さっきの本でピンときたんだけどさ――もしかして、見立て殺人かも!)

「……この本に乗っ取って起こった殺人? 有り得ないな。私達は11人。キミを含めたら調和を示す12人だ。事件とは無関係だろう」

(ぶー。ロマンがないなぁ~)

「ミステリで10人の中じゃなくて島内にいる11人目の謎のアンノウンさんが犯人だったら、大ブーイングだよ、アンチの嵐だよ」

(11人いるって分かってるからセーフだよ!)

「それはつまり、人数の時点で此の本とは関係性が見られないって事を意味するな」

(むっきー!!)


「菜種ちゃん、話を聴かせてもらえないかな」

「うん。採取できた髪の毛は、カルマと海松とテグスぐらいだったよ。髪の毛が落ちてたのはこれを見て」

「……やっぱりか」

「なにか分かったことがあるの?」

「ええ。茶雀君は罪を着せられようとしている。彼が犯人かそうでないかは別にしても――それだけは、間違いない」

「えっ? ……ええっ!? ちょっと待ってよ、茶雀が無実なら罪を着せられるのは分かるよ、だけど茶雀が有罪で罪を着せるって、それは日本語おかしいんじゃないかなぁ」

「まあね。しかし、矛盾のない説明は語れるよ。例えば、私がキミを犯人だと言ったとする。周りの人は信用するかな?」

「証拠や状況、アリバイなんかの材料が揃ってたらするとおもいまーす……」

「うん。だけど、そういうのがなくて、本人自身も周りから不審に思われてたらどうなるだろう?」

「……それってオシロサマみたいな人のこと? だったら信じられないね、いつもの狂言かと思うよ」

「そういうこと。取り敢えず、皆に話さない事があるから、集めないといけない」

「ぼくも手伝うよ!」

「ありがとう」


「茶雀を出してくれたのは嬉しいけど、どういうコトだい?」

「そうだ。彼は疑わしい最重要参考人だろう。何故、勝手な行動を取った?」

「先ず、茶雀君が何故疑われたのか、それを本人に話さないといけません。茶雀君、よく聴いて。キミはオシロサマの部屋に入った事がある?」

「……ありませんけどぉ」

「露骨に目が泳いだよ。ハト、ホントに彼が何もしてないって言うつもり?」

「菜種は気が早いよ。あのね、オシロサマの部屋でキミの毛髪が発見されたんだ。それも、血だまりの中からだよ」

 茶雀は無表情だが、事情を知らない者達は大いに驚いている。

「だけど、ここで予想外の出来事が起こってる。それは、私がその毛髪の出所を知っていると言う事だ」

「もったいぶらないで、教えてくれませんかぁ……」

「じゃ、サックリ言おうか。茶雀君の毛髪は廊下に落ちていた物なんだ。私は人狼をやっている時の移動中に彼やカルマ君、目立つ人の毛髪を見付けていた。

菜種に探してもらったんだけど、廊下から採取された毛髪の中には茶雀君の物だけが無かった」

「それは弱いな。君の証言だけが頼りだ。他に彼女と同じ事を発言出来る者は居るか?」

「んー、言われてみたらそうだったかも……」

「お、俺も見たぜ! 茶雀はなかった!」

「誓えるか? 嘘吐きは偽証罪だぞ?」

「う~ん、そこまで言えるほどじゃあないなぁ。ハトごめん」

「あっ、あったりめーだろ!」

「あまり怖がらなくていい。今のは試しただけだ」

「うぇっ……しゅみわる~い」

「ともかく、これでオシロサマの部屋に落ちていた茶雀君の髪の毛は部屋の廊下から拾われた物だと証明出来たって事で良いよね?」

「いいだろう。そこから思い付く疑問は、どうして犯人がそのような事をしたか、だろう」

「普通に考えて犯人が罪を被せに来てるんだろうよ」

「それより、気になることがあるんだけど、ちょっといい? ていうか言っちゃうよー? 

あのね、オシロサマは刺された、部屋に刃物を持ち込む理由は初めっから人を殺すためだったってこと以外に考えられないよね!

でもさ、そしたらおかしいんだよ。1回目に殺害を起こすなら解るんだ。だけど、2回目の殺人は不自然なんだよ」

「その1回目、2回目ははゲームの事を指してるんだよね? うん、私も引っかかってたトコロだった」

「そ、そっか、最初からこのゲーム中に殺すつもりだったなら、オシロサマと共犯関係になくちゃいけない……!」

「えっ? そ、そっち? 2回目の配役は犯人が作為的に選ぶことは出来ないってことじゃなくて?」

「ちっちっち、カルマ坊ちゃまと手を組んでりゃあワケないんだぜ、お嬢ちゃん」

「テグス君の意見だけど、それは他の人たちがオシロサマに勧誘された時の状況次第だと思うけどな。

ねえ、オシロサマに誘われてそのまま娯楽室に遣って来て待機してた人は?」

 それまで静かに瞼を閉じていたトリボロスが目を開け、腕組みした体勢で鳩羽を見詰めてくる。無愛想な顔立ちに加えて仏頂面とくれば、鳩羽は少し萎縮した。

 挙手、あるいは肯定を出したのは山鳩、田中、テグス、茶雀、トリボロス、菜種、海松、アレックスと被害者を除いた全員だ。

「ハトはどうなの?」

「あ、ごめん。私もそう。私は山鳩や田中君と一緒に掃除してて、そこから直行したんだよ。

そうなると、オシロサマの発案は突発的なものだったんだから、誰も凶器の支度は出来なかった筈。

それなのに凶器は見つからないし、凶器を用意する時間と凶器を処分する時間、どちらもあったとは思えない」

「娯楽室のドアは閉じてあったし、ゲームの話し合いに夢中だったし、途中で抜け出したし、移動は出来ると思うけど……どうかな?」

「だけど、海松さんや菜種が犯人の姿を見掛ける可能性は高かったハズだよ。犯人も心理的に人の居る部屋の前を通るのは避けたかったんじゃないかな」

「サイコパスが居たら話はべつだけど」

「な~た~ね~?」

「ごめんなさーい」

「うむ。それに階段を降りるとなったらエントランスホールを経由する事になる。それは時間がかかるでしょう?

時間を惜しむ犯人からしたらそれは出来ない選択だったんじゃないかな。……やっぱり犯人は最初から刃物を持っていたんだと思う」

「だが、最初に言ったオシロサマが犯人だったと言う説であれば、問題は解消される。被害者が凶器を調達し、わざわざ持って来たのだからな。

しかし、鶸柚や海松の移動により、犯人は自由に階段を行き来する事は出来なかった筈だ」

「犯人は廊下の端にあるエレベーターを使った? オッサンと鉢合わせするかしないかは運次第じゃねえかい」

「……あああああのっ、どどどどうしてっあのひとが先に刺されたって前提になってるんですか?」

「オシロサマの部屋に血濡れたシーツがあったからだ。普通、カルマを先に殺したなら、オシロサマを刺す際、返り血防止に布を持って行く筈だ」

「それは犯人と被害者が共犯関係にあるから許されるのであって、犯人は警戒されたくないから下手に物を持ち込まなかったのかも、です」

「凶器の問題はどうする。被害者の部屋に凶器があり、犯人がそれを使ったとでも? それは被害者の防犯意識の低さが異常だ。とてもじゃないが、考えられない」

「待ちな。おまえさんらは被害者が犯人の部屋を訪ねたのか、犯人が被害者の部屋を訪ねたのか、ごちゃまぜになってるんじゃねーのかい」

「ぼくは被害者のオシロサマが犯人の部屋を訪ねたんじゃないかと思う。あの人を部屋に入れる尤もらしい口実が浮かばないのが難点なんだけど……カルマが殺されたって嘘吐いたら、かえって外に追い出しちゃうことになるし……いっそ本当の犯行現場は廊下だったとか! それで髪の毛拾う発想が思い付いたんだよ! 犯行現場を誤認させようって!」

「①オシロサマが犯人の部屋を訪ねる。②犯人はオシロサマを部屋に入れる。③不意をとって殺そうとしたオシロサマは返り討ちに遭う。……やっぱり、服の返り血はどうしようもないよ」

「たまたま上手く跳ばなかったとか、何かで咄嗟にガードしたとか」

「①犯人がオシロサマの部屋を訪ねる。②オシロサマが犯人を部屋に入れる。③犯人がオシロサマを背後から刺す。……どちらにせよ、オシロサマの背中を刺すのは難しく思えるな」

「共犯だったのを犯人が裏切った、ですか?」

「刺された箇所が謎だ。ボクは共犯関係でも彼が背中を見せるとは思えない。だから、オシロサマと犯人は本当に親しい友人関係にあったんじゃないかな」

「オシロサマがマヌケだったとか……うーん、想像できないような? 意外とそういう性格だった?」

「分からないコトは後回しでもどうにかなるよ。犯行の順列は後でも推理出来るだろう」

「海松がホントに食堂へ行ってたなら、海松にはアリバイが出来るよね。ぼくもトイレ行く時間じゃムリだし、ぼくがムリなら田中もムリになる」

「海松さんが菜種と手を組んで、だと犯人の数が凄くなるから、そこは考えにくいか」

「オジサンはマジメにプリン持ってきたから! お使い出来ずして勇者にはなれんよ!」

「せっかくの勇気も覗きや盗撮に費やしそうな勇者だなあ……」

「とっ、とりあえず凶器を探しませんか……!?」

「わ、私の個室は菜種が調べて。他はお断りするよ!」

「はあっ!? 何で俺らの部屋まで調べなきゃいけねーんだよ!」

「ったりめぇだろうが。ケッ、ンなコトも言われなきゃ解らねぇか」

「うっ、っるせー!! 俺は反対だ! 反対する!」

「ボディチェックもやらないといけないんじゃないですかぁ?」

「ぼ、ぼくは反対だから! ぼくやハトが犯人と決まるまでボディチェックはナシナーシ!!」

「それじゃあ、彼女たち以外の人達は調べよう。それでいいかな?」

 山鳩以外の全員が個室の捜査に賛成し、ボディチェックは一部の強硬派(海松・テグス・田中)により強制的に行われた。

 とは言え、専門的な職業に勤めている訳でもない彼らのボディチェックは徹底的にとまではいかず、人によって容赦の度合いは大分変わっていたし、全体的に遠慮のある調べ方になった。


「手っ取り早いのは脱いでお互いの衣服を調べる事なんだけどね」

「オメー女だからって何言ってんだタコ!! オメーだってボディチェックぐらいしろよ!」

「言っただけだよ。男同士なら別によくないとか思ってるだけで。あと、私は別に……」

 男性陣は少なからず不快感を顕している。鳩羽は菜種を横目で見やるが、菜種はブンブンと首を左右に振った。

「……それで、個室を探して見付かったのはなに?」

「ボクは山鳩の部屋を探したけど、何も見付からなかったよ」

「ッ……俺は茶雀の部屋を探したけどよ、なんもなかったぜ」

「オジサンはアレックスの部屋を探したけど、骨折り損のくたびれ儲けよ」

「俺はトリボロスさんの部屋を調べたんですけど、ダメでした……」

「海松の部屋を調べた。無かった」

「ぼくたちはふたりで田中の部屋を調べてみたけど、村人のカードとヘンな機械があったくらいだなぁ」

「私はあれを調べたいんだけど……」

「だーめ! へんなのにさわってヘンなのが起きたら困るでしょ!」

「僕はテグスの部屋を調べたが、トイレが詰まっていた程度だな」

「トイレまで調べたの!?」

「何だ。調べなかったのか? 感心しないな。凶器に関する物を流す事は考えられる」

「私もトイレが詰まってるから、廊下に出たんだけど……言っておくけど、音楽プレーヤー落としただけだから」

「個室しか調べてなかったよ。調べ直そうか?」

「どうせだから別の人で調べ直そうよ。この調子じゃミスもありそうだし、いっそ田中が全室調べたらいいかも」

「冗談じゃねーよ。何度も他人に家探しされんのはゴメンだ」

「それでは、僕が山鳩の部屋を調べよう。彼の挙動不審振りは皆も気になっていた筈だ」

「わかったよ。田中はみんなを疑うんだな」

「アレックスまで疑うこたぁないとオジチャン思いますけどねぇ。でもってミスならありそうだ」

「海松はボクにどういう想像を抱いてるんだい?」

「アレックス、ソレ言うなら印象な、印象。イメージはイメージでもソッチのイメージじゃない」

「そうなのかい。ありがとう、海松。勉強になったよ」

 悲しそうに田中を見ていたアレックスが、にっこり笑顔になる。海松は気にさんねとアレックスを困惑させる返事をした。

「今のはどっちの意味なんだい?」

「フィーリングで分かれ」

「わかったよ!」

「マジメに受け取っちゃダメだよアレックス! しょせん海松なんだから!」

「やっぱりお嬢ちゃんの愛の鞭が痛い! コレがアイアンメイデンなのね!」

「セクハラやろーどもは死ねばいいと思うんだ、いい加減」

 菜種はにっこにっこ笑っているが、どう見ても怒っている。キレると笑うタイプなんだろうかとほぼ全員が内心で恐怖した。

(本当、懲りない人だな……)

(好感度マイナス120?)

 鳩羽の醒めた表情を見下ろし、少年がこてりと首を傾ぐ。それから、よーしっと勢い込んだ少年がぽかぽかと海松の頭を殴っては通り抜ける光景を眺め、鳩羽の溜飲が下がった。

(だめだぞー! せくはらはよくないんだぞー! けんぽーなんたらいはんなんだぞー!)

(こらこら。って、この状況じゃ止められないんだった)

 2度目は田中の指揮で田中が山鳩の部屋、山鳩が海松の部屋、海松がテグスの部屋、テグスが茶雀の部屋、2人がテグスの部屋、アレックスがトリボロスの部屋、トリボロスがアレックスの部屋となった。


「さ、さけぐせー……海松のおっさん! 換気ぐらいしとけ! じゃねぇ、しといてくれよ!」

「ドアを開けっ放しにしないといけないから、仕様がないよ。でも、私室で飲むのは危険だとボクも言った筈だよ、海松? ボクだって海松があそこに居たら、止められないんだから」

「だってよ~、ここは酒飲むしかやるコトないのよぉ~。なによりなによりキンキンに冷えたビールはウマい!」

「冷えたビール? 食堂や娯楽室でなら分かるけど……個室で何杯も飲めるの?」

「ちゃうちゃう。物置にはミニ冷蔵庫があるんだよ。ホテルに置いてあるようなやっこさん。オッチャン、酒と冷蔵庫だけは手放せないわ~っつって持ってきたワケ」

「……ちょっと待って!」

 鳩羽が思い付いたように顔を上げ、ダダッとダッシュで走り去る。周囲が困惑していると、間もなく彼女は戻ってきた。

「誰か娯楽室の水道使ったひといる!?」

「あ?」

 トリボロスが反応を示すが、他は全員反応が無い。どうやら、水道を使ったのはトリボロス1人らしい。

「そ、そっかぁ……あの、何に使いました?」

「使った分のコップを洗っただけだ」

「およ? 待ちなさんな。オッサンが酒呑もうとしたときは、シンクは濡れてなかったぜ。ありゃ確か、2回目のゲームの……何時だったかぁ、あぁっ~なんかの夜時間だった」

「酒漬けの脳細胞を洗って出直せ」

「す、すまねえすまねえ……」

「そうか、娯楽室にも刃物はある。となると、娯楽室のカウンターに出入り出来れば凶器の調達は可能だった。飲み物や食べ物を用意したのは誰だ?」

「私と茶雀君、アレックス、山鳩ぐらいだったかな。他にカウンターに出入りしたのは今言った海松さんにトリボロスさんになる?」

「おいおいおい、選択肢多すぎてオッサンの頭ワケワカメよ。なに? 凶器の特定は出来ないし、ホント行き詰って――」

「ああああのっ!! これっ、見てくださいっ!!」


『……狂信者……?』

 テグスが差し出したのは、狂信者と書かれたカードだった。番号が書かれた側のイラストは村人のカードに酷似しているが、紛れもなく番号も表記も村人とは違う物である。

 裏側には、タロットカードの愚者の絵が描かれている。何故、村人でなく狂信者が愚者に当て嵌まるのか――鳩羽は其のイラストに違和感を覚えてならなかった。

「茶雀さんの部屋に置いてあったものですっ……」

 彼らは一様にどよめき、サッと茶雀に視線を走らせる。茶雀は気まずそうに顔を俯かせていた。

「どういうことか教えてくれる? 説明書はどうしたの?」

「……説明書は処分済みですけど、それ以外にお話する事はありません……」

「それじゃ、やっぱり茶雀が犯人!?」

「待てよ! そうと決まったワケじゃねーだろ!」

「山鳩は1回目に茶雀の部屋へ入ったのに見付からないって言ってる! さっきの話と言い、怪しいよこの人! 山鳩と茶雀は共犯なんだよ! 2人共ゲームの最後まで残ってたし!」

「茶雀は何か知っている。とならば、身体に聞いてみる他ないな」

「たっ、田中君!?」

 彼は怯える茶雀の腕を掴み取り、膝を鳩尾に突き当てて蹴り込む。茶雀が唾を吐き、げほげほと咽込んで膝をつこうとするが、田中が胸倉を掴み上げて冷酷に命ずる。

「言え」

「いっ、いやだ、いやっ――ゲフウッ!! カホッ、ゲホッ……!」

 彼はもう一度同じところを狙い、蹴り飛ばす。全員が突然の出来事に固まっていたが、逸早く硬直を解いたアレックスが田中の腕を掴んだ。

「止めるんだ。田中、そんな暴力的な手段に訴えかけても――」

「大事なのは犯人探しだろう。敵ならば知っている事を全て吐かせるべきだ。甘っちょろい言動は慎んでもらおうか」

「で、でも、それってちょっといきすぎ……なっ、なななんでもないよ!」

 菜種は田中に一瞥され、慌ててアレックスの身体で見えなくなるように自分の立ち位置を移動する。

(ヤ、ヤバイヤバイヤバイヤバイッ!! 茶雀君が! 田中君を止めないと! でも田中君相手にしたら感情論じゃ煽るだけだ、合理的な説得でないと――急げ急げ急げ! さっさと考えろ鳩羽菖蒲ッ!!)

「い、いたい……いたい、あれっくすさっ……」

 茶雀はアレックスに手を伸ばそうとするが、田中がその手を踏み付け茶雀を見下ろす。茶雀の悲鳴が上がったが、鳩羽たちは動けずに居た。

「おいっ! 茶雀ぶん殴ったって何かが変わるワケじゃねーだろっ!! 今すぐ止めろよ、弱い者虐めじゃねーかッ!」

「君達に繋がりがあると言うのなら、今すぐ吐いてもらって構わないぞ。そうすれば手間が省ける」

「ッ、俺はカンケーねーしっ!! でも放せつってんだろ!」

 山鳩は田中の手を掴むが、彼は躊躇いなく山鳩の鳩尾に膝蹴りを喰らわす。山鳩の膝が崩れ落ち、咳き込んだ。

「そんな……田中、止めるんだ、彼は何も悪くない、何もやってない……」

「それは自白とみてよろしいか?」

 田中は山鳩から距離を取るように下がり、茶雀の髪の毛を引っ掴んで、引き摺り出す。彼は茶雀を盾に交渉を始めるようだ。

「痛い痛い痛いッ……!!」

「違うよ。ボクじゃない。は、犯人は――茶雀じゃないよ」

「では、誰だ?」

「いづっ、や、やだっ……おねえちゃ――グビベェ゛っ!」

 茶雀は両手で田中の手首を剥がそうとするが、田中に顔を蹴られてその手は緩んだ。鼻からは血が流れている。

「君達は何も理解していない。この場に居るのは、人殺しだぞ? 人を殺した者が混じっているんだ。今に暴走して僕達に襲い掛かってもおかしくない、その現状を理解すべきなんだ!」

「けほっ、けほっ。だっ、だからってそこまでやる意味はあるのかよッ!!」

「相手は子どもを殺すような残虐者だぞ? 君達のような腑抜けには任せていたら、死ぬのは犯人達を除く全員だ」

「茶雀は犯人じゃねーんだぞ!? テメーのやってる事はただの暴力だろ!!」

「事ある毎に物へ当たり散らし、人の胸倉を掴むような人間が言う事か?」

「俺は一方的にボコってなんかいねえ!! テメーのはケンカじゃねえだろ!!」

「当然だ。僕は犯人を捜している。名探偵ごっこなどと言うお遊びに興じるつもりはない」

「胸糞ワリィから止めろって言ってんだよ!」

「僕だってこのような真似はしたくない。アレックスが答えてくれれば止められるのだが」

「アレックス止めろ! 答えるんじゃねえ! 田中がおかしいんだよ!!」

「は、犯人……犯人は……犯人は――――」

「いっ、言うなアレックスッ!!」



「――……ボク、だよ」


 山鳩の叫びは届かず、アレックスは白状した。自分がゲームの夜時間中、オシロサマの部屋を訪ねて隙を見て殺害、次にカルマを殺害、その後は娯楽室に凶器を仕舞い、何事もなかったかのように振る舞った、と犯行の経緯をかたる。

「殺人者のカードは初日に処分してある。だから、殺人者としての証拠は出せない」

「まだ仲間を庇っていないだろうな?」

「やめてよ!! もうやだ、なんでそんな酷いことできるの? 茶雀は犯人じゃなくて、アレックスが犯人だって決まったんだしいいじゃんか!」

「僕は犯人側の人間を信用などしない。これから彼の証言を精査する必要がある」

「だ、だからって、可哀想だし、俺だってもうこんなの見たくない……! 田中さん、おねがいします……!!」

 菜種とテグスの懇願により、これまで静観していた海松も賛同する。だが、アレックスと親しかった海松の表情は半信半疑のようだ。

「アレックスが……オジサンには…………」

「ボクが話すから、茶雀を止めてやってくれ。彼がそうまでされる謂われはない」

「ある。殺人犯に手を貸したんだ。それで何も悪くないだと? はっ、笑わせるな」

「悪いのは、こういう事を仕立てたゲームマスターだよ。誰かが悪い訳じゃない」

「ハト。君の考えは綺麗事めいていて吐き気がする。僕には理解出来そうにないな」

「理解を求めたのは貴方なのに、他人の理解は拒む。それは、道理が合わないと思わないのか?」

 鳩羽の追及に田中は答えず、茶雀を放した。アレックスが駆け寄り、茶雀の身体を支えている。


【アレックス犯人説に矛盾はある】

【アレックスが犯人に間違いない】




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