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忘れた君に、もう一度恋をする。――世界でいちばん完璧な彼女――  作者: mochiko


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6/8

完璧じゃない君

美鈴はその日から時々、うちに来るようになった。

アイドルが高校生の家に通う。

字面だけ見れば大事件である。

幸い母は事情を知っていた。

加奈は最初こそ大興奮だったが、三日で慣れた。


「美鈴ちゃん、ポテチ食べる?」

「食べる」

「コンソメしかない」

「許す」


完璧な美鈴は、普通に床に寝転んだ。

普通にお菓子を食べた。

普通に笑った。


そして驚くほどズボラだった。


「お前、服そこ置くなよ」

「あとで着る」

「昨日からあるぞ」

「今日着るかもしれない」

「着ないだろ」

「可能性はある」


テレビの中の美鈴なら絶対言わない。


料理も下手だった。

卵焼きを炭にした。


「どうやったらこうなるんだよ」

「火が強かった」

「強いとかいうレベルじゃない」

「悠真、細かい」


そして寝起きが悪い。

スマホを五回鳴らしても起きない。


「アイドルって朝早いんじゃないの」

「だから嫌い」

「仕事だろ」

「悠真が起こして」

「毎日は無理」

「ケチ」




幻滅するはずだった。



僕は完璧な美鈴が好きだったのだから。



でも。

不思議だった。

好きが減らない。

むしろ増えていく。


ステージで絶対見せない顔。


眠そうな顔。

怒った顔。

拗ねた顔。

大笑いした顔。

僕だけが知っている。

そう思うだけで、胸の奥が暖かくなる。


ある日。

美鈴が僕のベッドに座りながら聞いた。



「ねえ」

「何」

「幻滅した?」

「何が」

「私」


少し驚いた。


「テレビと全然違うでしょ」

「まあ」

「まあって」

「部屋汚すし」

「それは」

「料理下手だし」

「ちょっと」

「寝起き最悪だし」



美鈴が枕を投げてきた。

受け止める。

僕は笑った。


「でも、こっちのほうが好きかも」


美鈴が止まった。


「……え?」

「テレビのお前、完璧すぎるから」


僕は枕を返した。


「こっちのほうがちゃんと人間っぽい」


美鈴は俯いた。


「人間じゃないけどね」

「あ」

しまった。

「ごめん」

「ううん」

美鈴は笑った。

でも。


泣きそうだった。

「なりたいな」

「何に?」

「人間」

初めて聞いた。

美鈴の願いだった。

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