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忘れた君に、もう一度恋をする。――世界でいちばん完璧な彼女――  作者: mochiko


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存在しないアイドル

「どこで拾ったんだよ、その写真」


僕が聞くと、加奈は妙にもったいぶるようにスマホを胸元へ引いた。


「ネット」

「雑すぎるだろ」

「昔の掲示板のまとめみたいなやつ。学校で友達が見つけて」

「友達がなんで美鈴の昔の写真なんか探してんだよ」

「都市伝説が流行ってるから」



都市伝説。


その言葉だけで一気に胡散臭くなる。


「解散」

「ちょっと!」


僕はテレビへ向き直った。


「ネットにはな、幽霊も宇宙人も未来人も毎日大量発生してるんだよ。

二十年前の写真に似た女がいたくらいで――」


「同じなの、顔も」

「は?」


加奈が別の画像を開いた。

さっきより鮮明だった。

古びた雑誌をスマホで撮影した写真らしい。

ページの右下。

地方の夏祭りの記事の背景に、少女が立っている。

真正面を向いていた。

僕は声を失った。

美鈴だった。

今とまったく変わらない。

同じ顔。

同じ髪。

同じ笑顔。

記事の日付は二〇〇四年。



「加工だろ」

「元の雑誌、図書館にあるって」

「合成」

「二十年以上前の地方誌だよ?」

「……似てる人」

「じゃあこれ」


三枚目。

今度はもっと古い。

一九九八年。

一九九一年。

八七年。

時代ごとに服装は違う。

けれど、顔だけはまったく同じだった。

すべて十代後半くらい。


美鈴。


画質が悪くても分かる。

僕は三年間、毎日のように彼女を見てきたのだ。

間違えるはずがない。



「これ、都市伝説だとね」

加奈が声を低くする。

「同じ女の子が昔から何度も目撃されてるんだって」

「……」

「名前は毎回違う。でも決まって歌ってる」

「歌ってる?」

「うん」

僕は思わずテレビを見る。

美鈴はもう消え、通販番組になっていた。



「昭和の終わりには『ミナ』。九十年代は『リン』。

二〇〇〇年代は『スズ』。で、今は美鈴」



馬鹿馬鹿しい。

そう言いたかった。

けれど、口からは出なかった。


「あとね」


加奈は続ける。


「この女の子を好きになった人の中に、たまに変な体験をする人がいるんだって」

「どういう?」

「テレビから名前を呼ばれる」



背中が、わずかに冷えた。


「は?」

「歌番組を録画すると、本来ない映像が入ってることがあるんだって」

「作り話だろ」

「たぶんね」


加奈は笑った。

その顔を見て少し安心した。

そうだ。

都市伝説。

作り話。


僕はそういうオカルトを信じるタイプじゃない。

「だから、お兄ちゃんで実験しようと思って」

「なんでだよ」

「だって美鈴ちゃん大好きじゃん」

「嫌だわ」

「録画するだけ!」

「勝手にしろ」


その日の夜。


僕は結局、さっきの歌番組を録画した。

馬鹿馬鹿しいと思いながら。

いや。


正確に言えば、すでに毎週録画している。

美鈴が出る番組は全部。

録画一覧から再生する。

ステージ。

歌。

笑顔。

何度見ても完璧だ。

曲が終わる。

司会者が映る。

何も起こらない。


「ほらな」


隣で見ていた加奈に得意げに言った。


「はいはい、残念でした」

僕はリモコンを取って停止しようとした。

その瞬間。

画面が暗転した。


「え?」


黒い画面。

ノイズ。

録画時間はまだ進んでいる。


三秒。

五秒。

十秒。

そして。



暗闇の中から、美鈴が現れた。


衣装はさっきと同じ。

ただしステージではない。

真っ暗な場所に、一人で立っている。

笑っていなかった。

僕は息を呑んだ。

美鈴がゆっくり顔を上げる。

カメラを見る。

いや。



僕を見る。



『――悠真』






心臓が止まったと思った。

僕の名前だった。

加奈が息を呑む音が聞こえる。

画面の美鈴は、ほんの少し笑った。



『やっと見つけた』


そこで映像が終わった。

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