42. 再び帝都へ
翌日の夕方、エルザ陛下からの返答が届いた。
──遮断箱、ダークス家に手配済み。十日で現地着の見込み。搬出先は、帝都皇宮地下の封印庫とする。搬出まで、現地監視を継続せよ。持ち込みの件、帰還後に直接報告を待つ。
俺はその通信文を読み、少し息を吐いた。
陛下の判断は、相変わらず速かった。遮断箱の手配を、ダークス家に直接依頼している。カウラの家系だ。家の道具を、皇帝の名で動かした。
「カウラ」俺は、隣の天幕で休んでいたカウラに声をかけた。
「なに」
「エルザ陛下が、ダークス家に遮断箱の手配を依頼した」
カウラは少し、目を見開いた。
「陛下が、うちの家に直接。それは、光栄だわ」
「十日で届く。届いたら、お前が搬出を指揮することになる」
「わかっている。遮断箱の扱いは、ダークス家の人間にしかできないもの」
「体は、持つか」
「十日あれば、完全に回復するわ」カウラは少し笑った。「大魔法使いの家系を、なめないでね」
俺は少し、笑った。
この女のうぬぼれは、いつも裏付けがある。
それから十日間、俺は陣地に留まった。
幕僚としての仕事が、続いていた。サーキニア軍との連携の維持、監視班の交代の調整、避難民の帰還の管理、ダンジョン周辺の残敵処理の監督。ソートスが兵站を回し、サーディアスが前線を巡回し、俺が全体の調整を担った。
十日目の朝、遮断箱が届いた。
帝都から、ダークス家の使いが運んできた。木箱ほどの大きさの、金属と魔石で造られた容器だった。表面に、緻密な魔法陣が刻まれている。
カウラが、箱を受け取った。自分の家の道具を、慣れた手つきで確認した。
「問題ないわ。これなら、増幅器の魔力を完全に遮断できる」
その日の午後、搬出班が編成された。カウラを筆頭に、青の団の精鋭十名、サーキニア軍の斥候隊五名。護衛を厚くし、魔物の襲撃に備えた。
「俺も、搬出班に入ります」俺はルシウスに言った。
「お前が」
「搬出先は帝都の皇宮です。エルザ陛下に、持ち込みの件を直接報告する必要があります。通信では伝えられない内容です。それと、リードスゴートのガレダ町に立ち寄り、ジェフールに確認を取りたいことがあります」
「ジェフールというのは、球体を持ち込ませた者だな」
「はい。あの男が、増幅器の効果を知った上で据えたのか、あるいは知らずに据えたのか。それを確かめなければ、この件の全体像が見えません」
ルシウスは少し考えた。
「幕僚が抜けることになるが」
「サーキニア軍との連携は軌道に乗っています。後方の実務は、ソートスが回せます。前線の指揮は、サーディアスが戦団長を補佐できます」
「サーディアス」ルシウスが呼んだ。
「はい」サーディアスが天幕に入ってきた。
「アモスが搬出班に入る。俺の補佐を、お前がやれ」
「了解です」サーディアスは明るく頷いた。「アモス殿、行ってらっしゃい。留守は任せてください」
俺は軽く頭を下げた。
搬出班がダンジョンに入った。
二日後、班は地上に戻った。遮断箱の中に、黒い球体が収められていた。箱の表面の魔法陣が、淡く光っていた。魔力の遮断が、機能している証だった。
カウラが、箱の状態を最終確認した。
「完全に遮断されている。このまま運べるわ」
「ご苦労だった」俺は言った。
「苦労は、これからよ」カウラは言った。「帝都まで、この箱を運ぶのだから」
「俺が護衛する」
「あら」カウラは少し笑った。「副官殿ではなく、幕僚殿が直接。贅沢な護衛ね」
「帝都に用がある。ついでだ」
「ついで、ね」
カウラは俺を見て、少し首を傾げた。
「ついでで護衛を引き受ける人は、いないわよ。ただ、あなたがそう言うなら、そういうことにしておくわ」
遮断箱は、翌日、帝都に向けて出発した。俺とカウラ、それに精鋭五名が護衛として同行した。
俺は陣地を出る前に、イリアに言った。
「お前は、ここに残ってくれ。ソートスの補佐を続けてほしい」
「承知しました」イリアは頷いた。「ただし、今回は条件は出しません」
「なぜだ」
「伯父上は、前回、伯父として約束してくださいました。それで、十分です」
俺は少し、笑った。
「信じてくれているのか」
「当然です」




