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蒼穹(そら)に紅~天翔る無敵皇女の冒険~ 七の巻 ビザンツの王冠  作者: 初音幾生


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5 相手は複葉機

『せっかくだから少し南側を偵察してみても、おや?』

 綺羅機が少し揺らぐ。

『クレナイ一番よりアカツキ、イナズマ達に着いていって。クレナイ小隊はちょっと寄り道するよ』

 そう云うと綺羅機は翼を大きく傾けて南へと針路を取った。クレナイ小隊はその後に続く。

 洋一は綺羅様が見つけたであろう方角を注視する。

 山がちな地形に、春先にしては明るい空。

 そんな中に煌めく何かを見つけた。それも一つではない。

『逃げている一機と、それを追う十機前後。おっと、逃げているのは大型機だね。あの速度では追いつかれるな』

 近づくにつれて詳細が見えてくる。

 山肌を沿うように大型機が飛ぶ後ろに、九機の小型機が襲いかかろうとしていた。

 逃げる大型機は双発かな。

 そう思っていたが洋一は機首にもう一つプロペラが回っていることに気づいた。

 三発、そして翼が高い位置にある高翼。

「フォッカーのトライヘッドか」

 1920年代から30年代にかけての欧州を代表する旅客機である。

 古い機体だが未だにあちこちで使われている。

 では追いかけている方はと見ると、こちらはなんと複葉機であった。

『BR.42だね。オスマンの主力戦闘機だ』

挿絵(By みてみん)


 戦闘機と云えば単葉になって車輪も引き込むのが当たり前になったこのご時世に、オスマンは未だに複葉で固定脚の戦闘機を使用していた。

『オスマンは頭が古くてねぇ、わが海軍よりももっと格闘戦にしがみついているんだよ』

 速度第一主義の綺羅様が呆れた口調で説明してくれる。

「まさか複葉機とやり合うことになるとは思いませんでしたよ」

 さっきまでフォッカーの新型が出てくるのではと警戒していたのに。

『というわけで諸君、敵味方もはっきりしたのでこれよりBR.42を攻撃する。こちらの方が優速なので一撃離脱だ。いつもと違って格闘戦には付き合わないように』

 いつものFo109が相手だと、いかに格闘戦に持ち込むかが鍵になるのだが、今回は逆になる。

『クレナイ三番より四番。大丈夫か』

 三番機の小暮一飛曹が声をかける。

『は、はい! 大丈夫です!』

 うわずった声の村瀬三飛曹の声が聞こえてくる。そういえば、彼にとって、これが初の実戦なのだ。

『戦闘に入る準備、云ってみろ』

『えっと、えっと、燃料を主翼タンクに切り替え、プロペラピッチを……』

 無線の向こうから紙をめくる音まで聞こえてくる。ノートにメモでも取ってあるのだろう。

『肩の力を抜け。速度を殺さず、俺についてこい』

 100㎞/h以上は優速なので、下手に旋回しない限り追いつかれることはない。それが判っていれば安全なはず、である。

『さあ行くよ、まずはトライヘッドから敵を引き離す』

 戦闘準備を整えたクレナイ一番、綺羅機の腹から白い線を引きながら増槽が投下された。

 それを合図に彼女は敵編隊に躍りかかった。

 BR.42からすれば楽な狩りのはずだった。

 9対1で、しかも相手は十年以上前の旧式旅客機。獲物の取り合いの方が忙しいくらいだった。

 照準に捉えた旅客機は、もうあちこちから煙を吐き出している。

 これでとどめだ。そう確信した横合いから、銃弾の雨がBR.42を襲った。

 木と布で造られた機体はたやすく引き裂かれ、破片をまき散らしながら上翼がへし折れた。そのまま駒のようにくるくると回りながら墜ちていく。

 BR.42達のすぐ上を、紅い尾翼の十式艦戦が横切る。

 墜とされた機の二番機が慌ててそれを追おうとする。複葉機だけあってひらりと小さく回った。

 それもこちらの注文通りなんだよな。

 洋一はちょうど目の前に飛び出してきたBR.42の無防備な背中に照準を合わせる。

 自分も機械の一部になったように、スロットルに付いている機関銃の発射レバーを握りこんだ。

 火線がBR.42に次から次へと突き刺さる。

 大量の木っ端と、そして白い霧のようなものを周囲にばらまき始めた。白い霧はまもなく紅い炎に変わる。吹き出した燃料に、引火したのだ。

 追い抜く形となった洋一は自分の戦果を振り返った。

 紅蓮の炎と、黒煙で青空に大胆な筆跡を残しながら、BR.42は地上へ向けて降下していく。

 BR.42の操縦席でうごめくものが見えた。振り返ってそれを見た洋一はつぶやく。

 早くしろ、何してんだ。もう持たないぞ。

 機体が完全に炎に包まれる辺りで、ようやくそれは飛び降りた。

 白い落下傘が開くのを見て、洋一は安堵のため息をついた。

 身勝手だとは思うが、自分が墜とした機体のパラシュートは開いてほしかった。

 綺羅機が一機、自分が一機。そして小暮機も今一機に銃撃を浴びせていた。

 エンジンから盛大に灰色の煙を吐き出しながら降下していく。

 やがてそれは山肌に達し、小さい炎に変わる。

 四番機の村瀬機は三番機のすぐそばで必死に追従している。

 そうだ、それでいい。

 速度を落とさなければ追いつかれることはない。十式艦戦の速さを信じるんだ。

 視線を前方に戻すと、すでに一番機、綺羅機は上昇して速度を高度に変えていた。

 そしてくるりと翼を翻して反転、もう一度攻撃に向かう。洋一は後を追って同じように反転した。

 もう一度綺羅機がBR.42の群れを攻撃する。

 今度は相手も気づいている。挑みかかろうとしているのもいる。

 だが一瞬でも軌道が交差してしまっては、綺羅機の餌食になるしかない。

 たったの一連射で上翼が吹き飛び、機体と別々になって、くるくると舞っていた。

 これで四機目。

 流石に残りは逃げに転じた。BR.42はバラバラに翼を翻し、東へと向かう。

 相手が遅い複葉機なので、追いかけて殲滅するチャンスではある。

 しかし今は他にも大事なことがあった。


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