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蒼穹(そら)に紅~天翔る無敵皇女の冒険~ 七の巻 ビザンツの王冠  作者: 初音幾生


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4 ビザンツでの初出撃

挿絵(By みてみん)


 かくして洋一たちはビザンツの空を進んだ。

 イオリア海から出撃して、戦雲たなびくバルカン半島へと針路を取る。

 見下ろせば山がちの地形に、少ない平野部が畑となっている。

 ノルマンの平野よりは秋津に近い光景であった。

 そういう意味ではこの新しい塗装も場所に合っているのかな。洋一は自分の翼を見る。

 十式艦戦五三型は、その上面が濃い緑色に塗られていた。

 最初に乗った十式艦戦が明るい灰色であったために、今の暗い塗装にはいささか抵抗があった。

 しかしこうして上から見れば地上に溶ける色合いではある。

 新しい技術で機体が進化するなら、塗装が変化したっていいのだろう。

 今日出撃した十式艦戦は八機。四機小隊が左右に大きく開いた編隊を組んでいる。

 そしてその前方には、今日の護衛対象である艦爆が九機が飛んでいた。

 今までお馴染みの九式艦爆ではなく、新型艦爆である十二式艦上爆撃機〈彗星〉であった。

 九式艦爆と違い車輪は引き込み式で、全体的にほっそりとしている。

 発動機(エンジン)はノルマンのモーガンエンジンをライセンス生産した液冷式、「イセ」であった。

 胴体下の爆弾は爆弾倉の中に収められて、実に速そうである。

 事実、最高速度はなんと292kt(540㎞/h)と戦闘機並みの速さである。九式艦爆の206kt(382㎞/h)から破格の性能向上である。

 敵の戦闘機が飛んでくる中に九式が飛び込むのはそろそろ自殺行為になってきていた。

 十月ごろの欧州大陸で、フォッカーの大群に襲われて中隊が全滅したこともあったそうだ。

 「九式棺桶」なんて呼ばれている艦爆乗りの救世主が、この新型の〈彗星〉であった。

 この艦爆なら敵の戦闘機だって振り切れる。そんな期待を一身に背負っていた。

 実際は敵の戦闘機も進化していたために「戦闘機より速い艦爆」には成れなかったが、その速度は大いなる武器であった。

 今日は洋一たちの十式艦戦五三型のみならず〈彗星〉艦爆も初陣である。是非とも成功して貰わなくては。

 洋一はサメのように引き締まった艦爆の群れを見た。

 新しい飛行機の群れは内陸部へと向かっていく。山岳地帯はかなり寒そうである。

 今日の目標はビザンツの北方、アルバニアとの国境近くであった。

 小さな湖を目印にして、編隊は旋回しながら高度を下げる。

『お、見えてきた。かつて十字軍も通った峠道だぞ』

 観光気分を隠そうともしない綺羅様の言葉が中隊内の無線で広がる。

 山間を何度も折り返す線が洋一にも判った。そしてその街道上に並んでいるものも。

 〈彗星〉艦爆は目標上空で大きく輪を描く。獲物を品定めしているようだった。

 相手は歩兵師団だろうか。長く伸びた隊列が街道に沿ってへばりついている。

 〈彗星〉が降下に入った。

 これ見よがしに爆弾倉を開いて、ダイブブレーキにもなる補助フラップを下げる。

 下は右往左往しているようだが、銃弾一発撃ち上がってこない。なすすべも無く逃げ惑っているだけなのだろうか。

 鮮やかな急降下で〈彗星〉は敵歩兵師団に厄災、二五番(250㎏)爆弾を投下した。

 隊列の前と後ろにまず一発ずつ炸裂、次いで中央部に次から次へと爆発が起こる。

 崖沿いの道では逃げ場もない。

 上空から見てもひどいことになったのは判る。何カ所も崖崩れが起きて街道を寸断し、谷底へ兵士やら車やらが転がり落ちていく。

 洋一が特に印象に残ったのは馬、いやロバかもしれない生き物が逃げ出して谷を駆け下りていった様子だった。

 土煙を上げて斜面を駆け下り、闇雲に逃げ回るその様は、まさに「生」を感じさせた。

『戦闘機隊は周囲の警戒怠らず、ね』

 見透かされたように綺羅の声が洋一の耳にも入る。

『もしかしたら新型のF型とか、来るかもしれないからねぇ』

 その言葉は、むしろ来て欲しそうだった。

『イナズマよりクレナイへ。こちら攻撃終了、これより引き上げます』

 爆弾を投下した〈彗星〉は再び上昇して編隊を組み始める。

『大分痛めつけたし、道路も壊した。しばらくは身動きは取れないでしょう』

 歩兵師団に打撃を与えて、進軍も阻止する。充分に目的は果たした。

 意気揚々と帰路につく〈彗星〉は巡航速度も速い。十式艦戦も普段より速度を上げなければいけないほどだった。

『あんまり練度の高くない師団だったね。やっぱり後詰めのアルバニア軍だったのかな』

 上から見た範囲ではわかりにくいが、無造作に行軍しているところや、対空射撃をしてこない辺り、確かに精鋭部隊というわけではなさそうだった。

『ほんとはエグナティア街道に食いついたブランドルの機甲師団を叩くべきなんだけどねぇ』

 アルバニア国境周辺は、いまのビザンツ戦線において重要な場所とは云いがたい。

『我々秋津には馴染のない場所だし、ビザンツ語できる士官もほとんどいないし、上から見たらどっちも茶色い兵隊さんだし、混ざり合った最前線にはとても首を突っ込めないんだよ』

「はあ、だからアルバニア国境近くなんですか」

 ここなら味方がいることは殆ど無い。主戦線は遙か南なのだから。

 そういうところが連合軍の難しさなのだろう。

 肩を並べて戦う仲間と意思疎通ができるとは限らない。うっかりすれば味方撃ちになってしまう。

 それを避けると今度はさして重要でないところでしか援護できなくなってしまう。

『まあ余計な敵に遭遇しないのは楽で良いんだけど、ちょっと物足りないよね。せっかく新しいところに来たのに』

 この人は敵に出逢えない方が寂しいらしい。

 護衛している方も護衛されている方も、余計な仕事は無い方がありがたいのだが。


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