15 砂浜の冒険
フォッカー・トライヘッドの中は無人だった。
王室用の機らしい豪華な内装に朱音は目を奪われがちだったが、急いで見るべきものを確認した。
客室から操縦席まで人影は無い。
「王冠は……無いみたいですね」
王女を招き入れて確認したが、それらしきものは見当たらない。
「ここにあったと思ったのだが、持ち出されたのかな」
座席が取り外された場所に鎮座していたであろうが、今はそこに影も形も無い。
「オスマンに盗られてなければ良いんですが」
「それは困る」
外に出ると空は眩しかった。
「人も王冠も、無いということはどこかに移動したんでしょうけど」
白い砂浜がフォッカー・トライヘッドの周りに広がっている。歩くと砂の中に靴が沈んだ。
「あの、いいですか」
外からトライヘッドを見ていたエリオット少年がやってきた。
「こちらに、足跡があるんですが」
案内された方を見ると、確かに複数の足跡が伸びていた。
行き先は陸地の方、乗組員がそちらに向かった証であった。
「行ってみましょう!」
元気よくエリオット少年が走り出した。とはいっても砂に足を取られてそれほど速くはない。
「待ちたまえエリ君、そんなに急いでは転んでしまうぞ」
「そんな子供じゃありませんよ」
行った途端に砂につんのめった。やっぱり子供じゃないか。
そう思った途端に、銃声が響いた。
エリオット少年のすぐ脇で砂がはじける。
「伏せてください!」
王女を突き飛ばすように地面に倒すと、朱音も覆い被さるように伏せる。
朱音は南部式拳銃を握りしめる。
撃てるのか? 当たるのか?
どちらも全く自信がないが、自分がやらねばならないんだ。
震える手で、朱音は銃口を前に向けた。
「この無礼者! わらわをビザンツ王国第一王女ビザンティアと知っての狼藉か!」
状況を判っているのかいないのか。王女は声を張り上げた。
「王女様、伏せて。あと刺激しないで」
「だってあいつら、エリ君に向かって撃ったんだぞ」
そう云うと立ち上がってエリオット少年のところに駆け寄ろうとするので、もう一度朱音は伏せさせる。
「せめて姿勢は低くしてください」
王女をなだめすかして朱音は這いつくばった姿勢で少年に向かって進む。
匍匐前進というにはバタバタとした動きであった。
「なるほど、これなら、進めるな」
見よう見まねで王女は地面の上でうねり始める。
こちらはもう、赤ん坊が這いずっている姿だった。
「うわぁ、服に砂が入ってくる。うわ、ばあやに怒られる。うわぁ、すごいジャリジャリ……」
文句を云っているのに、なんだか喜んでいるようにも聞こえる。
這っていった先ではエリオット少年が踞っていた。
「大丈夫? エリ君」
「だ、大丈夫です。銃弾をひらりと躱したところです」
撃たれる前に転んだんだけどなぁ。少年の虚勢を朱音は眺めた。
まあ転んだおかげで当たらなかったようにも見えたが。
「オスマン軍ですかね」
よくは判らないが、撃ってきたのは海岸とは反対の木立の方に思える。
銃声は一発だけだったからそんなに大勢ではないだろうが、こちらはずぶの素人三人と拳銃二丁だけである。
いざとなったら上で旋回している艦爆隊になんとかして貰わなければならない。
そういえば上はどうなっているのだろうか。
春の青空に幾筋もの白線が描かれていた。空戦の証だった。
綺羅様や洋一は無事だろうか。朱音は空を見上げた。




