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蒼穹(そら)に紅~天翔る無敵皇女の冒険~ 七の巻 ビザンツの王冠  作者: 初音幾生


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13 エーゲ海の砂浜

 白い砂浜に、引きずったような跡がつき、その終点には銀に鈍く光る機影が横たわっていた。

 引きちぎられた翼にはエンジンとプロペラらしきものも見える。

 洋一は天蓋(キャノピー)から首を出して下を眺めた。昨日見たから間違いない。

 あれはフォッカー・トライヘッドだ。

『クレナイ一番より各機。戦闘機隊は高度三千で警戒につくよ。イカヅチ小隊はもう少し下でシーライオンの援護よろしく』

 戦闘機隊は少し高度を取って墜落現場を中心に大きく旋回する。

 艦爆隊は少し高度を下げた。後部銃座から身を乗り出して下の様子をうかがっているのが見えた。

『第二中隊はもう戦闘が始まっているみたいだ。こちらも注意してね』

 ここから北方、カサンドラ半島の根元辺りで警戒している朝倉大尉の第二中隊から、敵と接触したとの電文が入ってきている。

 すり抜けてこないとも限らないので周囲に忙しく視線を向けた。

 眼下に広がるカサンドラ半島。昨日の時点でテッサロニキが包囲されているので、この辺もオスマン軍の支配領域の可能性はある。下は果たしてどうなっているのだろうか。

 海上ではシャグバット飛行艇が滑るように降下していた。

 機影が小さくなり、水面に一筋の線を引き始める。着水したようだった。

 目指すはもちろんフォッカー・トライヘッドの残骸である。


 海面を走ると、水しぶきが飛行艇全体にかかる。機首の銃座は特にひどい。

 頭を出していた王女と少年は随分とぬれていた。

「ぷはぁ、すごいな! しょっぱいぞ! エリ君」

 そして随分と楽しそうだった。王宮にいては中々味わえない体験であったのは確かである。

 砂浜を前に飛行艇の向きが変わり、行き足が止まった。

「嬢ちゃん頼むわ!」

 キャンベル中尉が振り返って叫ぶ。

「お二人ともどいてください。上陸の準備をしますから」

 無線席から立って朱音も前に移動する。少年少女は飛行艇の上に出た。

「まずは錨だ!」

 云われるがままに朱音は錨を海に放り込む。

 ワイヤを引いた錨はすぐに海底に到着した。相当に浅い。

 次いで銃座の下に入れておいた物体を投げ出した。ロープで艇に繋がれているので広がりながら先端が海面に達する。

 朱音は付属の小型エンジンの紐を引いた。

 始動した50ccのエンジンが脈動するにつれて、投げ込んだ物体が膨らんでいった。

「何じゃこれは……膨らんで、船になっていく」

「ゴムボートですよ王女様」

 全長2mほどの小さな船ができていく。これでも大人が三人くらいは乗れる。

 小型のエンジンは推進用であるが、その排気ガスでゴムを膨らませていた。

「良い感じじゃねえか嬢ちゃん。頼んだ甲斐があった」

 見ていたキャンベルは感心した。

 排気ガスでゴムボートを膨らませるための管は、昨日の夜に朱音が突貫で作ったものだった。

「けっこう上手くいきますね。そろそろお二人とも乗れますよ」

 海面に降ろしたゴムボートに乗り込んで、朱音は少年少女に手を伸ばした。

 おぼつかない足取りながら、二人は船に乗り移る。

「よし、発進じゃ。キャプテンアカネ」

 楽しくなってきたのか、王女は実に上機嫌だった。

 朱音は舫い綱を飛行艇に投げるとエンジンを傾けて後部のスクリューを海面に入れた。

 ビザンティア王女とエリオット少年、そして朱音の三人を乗せたゴムボートはスルスルと進み始めた。

「これを立てないと」

 エリオット少年は一mほどの棒に手のひらサイズの旗をはためかせる。

 ビザンツ王国の国旗であった。

 こんなに小さくても、立派な一隻の船なのだ。そんな気概の表れでもあった。

 飛行艇から砂浜まで五十mほど。

 エンジンのけたたましい音ほどには速くないが、航海はあっという間に終わってしまう。

 砂浜にボートが乗り上げると、王女は勢いよく飛び降りる。

「ほらエリ君早く早く」

 砂を蹴立てて王女は走り出す。目指すはフォッカー・トライヘッドの残骸であった。

「待ってください、危ないですよぉ」

 王女をエリオット少年は懸命に追いかける。

 手にはキャンベル中尉から借りた回転式拳銃が握られているが、全く役に立つようには見えない。

 更に後ろを朱音は小走りについて行った。

「若いって良いわねぇ」

 誰に言うともなしに朱音は息を切らせた。

 三人は残骸にたどり着いた。周りを一周してみるが人の気配はしない。

「皆、死んでしまったのだろうか」

 王女の顔が曇る。

「この落ち方ならそれなりに大丈夫だと思いますが」

 砂浜に滑り込んではいるので、希望は持てる落ち方ではある。

「中を見てみましょう」

 エリオット少年が前に出るので、朱音はそれを制する。

「いえ、ここは私にお任せください。機械は得意なので」

 よく判らない言い訳だが、あまり子供には見せたくないものがあるかもしれない。

 朱音だって見たくはないが、何しろこの中で自分が一番年上なのだ。

 意を決して朱音は旅客機の残骸を覗き込む。

 その手には洋一から借りた南部拳銃が握られていた。


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