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蒼穹(そら)に紅~天翔る無敵皇女の冒険~ 七の巻 ビザンツの王冠  作者: 初音幾生


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12/22

11 王冠奪還作戦 発動

      三月二十日 午前六時

      空母〈翔鸞〉


 予定より早く搭乗員起こしがかかる。眠い目をこすって洋一達は待機所に集合した。

「おはよう諸君、よく眠れたかな」

 溌剌とした声で彼らの指揮官である紅宮綺羅が黒板の前に立った。

「すまないが本日イオアニア方面への出撃は中止、別の方面に向かって貰うこととなった」

 有無を云わさず綺羅は黒板に貼ってあった地図を指し示した。


挿絵(By みてみん)


「目標はテッサロニキの南方、三つの半島が並んでいるな。その左端、カサンドラ半島だ」

 地図の上でテッサロニキからエーゲ海に伸びる三つの半島が示される。

「昨日、我々が救助したのとは別にもう一機のビザンツ王国機がエーゲ海で墜落した。最後の通信からするとこのカサンドラ半島沿岸らしい」

 綺羅は半島の海岸に線を引いた。

「この機体にはビザンツ王国にとって重要なものが搭載されているらしい。その回収を、我々が支援する」

 急な変更と、奇妙な作戦のために首をかしげるのもいる。

「作戦はすでに動いている。先行した艦爆一小隊が夜明けと同時にカサンドラ半島の根元を爆撃している」

 カサンドラ半島は運河によって切断されており、一本の橋が本国と繋いでいる。

 そこを断ち切って、まずテッサロニキ方面から来るであろう敵を防ぐ。

「艦爆隊はそのあとカサンドラ半島の沿岸を偵察し、墜落機を発見する。そこにノルマンの飛行艇が重要物の回収に向かう。そんな手筈だ」

 飛行艇もすでに発進している。

 速度が遅いので夜の開けぬうちにビザンツ本土を横断してしまおうという腹づもりだった。

「そしてその飛行艇を護衛するのが我々戦闘機隊の任務と云うわけだ。地上支援で艦爆一小隊も同行する。責任重大だぞ」

 意図はわからないが、やらねばならないらしい。搭乗員たちは皆大きく頷いた。

 実際重要な作戦だった。

 回収するのはビザンツ王国の王冠。

 そしてそれを回収しに行く飛行艇にはビザンツ王国の王女、それにノルマン共和国大統領の息子が乗っているのだ。

 これが墜ちたら大変なことになる。

「さあ、では行こうか」

 甲板に上がるとイオリア海の朝が待っていた。

 並べられた十式艦戦が翼を広げている。

 見回すと艦首方向にわずかにかすんだ陸地が見える。ビザンツ本土だろう。

 陸側に大分近づいているらしい。

「やあ紅宮」

 もう一つの戦闘機中隊を率いる朝倉大尉が、綺羅の近くへと寄ってきた。

「我々の中隊はテッサロニキ側で警戒する。飛行艇の直援は任せたぞ」

「頼りにしてるよ。王女と王子のためだ」

 綺羅の言葉を聞いて朝倉は大きく頷いた。

「ああ、彼らの純情は大切なものだからな」

 使命感に満ちた足取りで朝倉は自分の機へと向かった。

「いやあ、面白かったよ、艦長に作戦を説明するとき」

 綺羅は洋一にささやきかけた。

「昨日まであんなにぞんざいだったのに、夜中に艦長を叩き起こしたかと思ったらびっくりするほど熱心に作戦を提案するんだよ。一体何があったのか判らないって顔をしていてね」

 艦長からすれば変なものでも食べたように見えただろう。まさか少年少女の純情に(ほだ)されたとは思うまい。あれで実は純粋な人なのだ。

「しかしノルマン大統領の息子と、ビザンツ王女の要請とあれば、応じるのもまた地中海艦隊としての道理だからね。そんなわけで、今日一日は少年少女に振り回されるとするか」

 そう仕向けたくせに、綺羅は楽しそうに被害者ぶって見せた。


 発艦した戦闘機隊は、紅い尾翼を先頭にして朝日輝くビザンツ上空を飛ぶ。

『エーゲ海に達する前に飛行艇に追いつかないとね』

 東に向かって飛ぶと、朝焼けの向こうに影が浮かび上がってきた。

 艦攻並みに大きな羽が上下に二枚。太めの艇体に跳ね上がった尾翼。エンジンは主翼の間に後ろ向き。

 お世辞にも美しいとは云えない。それがソッピース・シャグバットの姿だった。


挿絵(By みてみん)


『こちらクレナイ一番。シーライオン。そちらの後方についた』

 綺羅がノルマン語で先行する飛行艇に呼びかける。

『あ、見えました。こちらシーライオン。戦闘機隊を視認しました』

 聞き慣れた声がシャグバットから、いや無線から聞こえてきた。こちらは秋津語だった。

「あれ、朱音? どうしたんだ?」

『なんかスカウトされちゃってね。秋津語で無線できる人が欲しいって』

『すみませんねぇ。機械に詳しくて通訳できる人が欲しかったんで、ちょっとお借りしました』

 まあ指揮官は皆ノルマン語はできるが、主要参加機が秋津海軍である以上、秋津語の方が意思疎通はしやすかった。

『あと子供の相手は歳が近い方が良いかと思いましてね』

 ついでに子守もさせるつもりのようだった。

『そんなわけで綺羅様、よろしくお願いします』

 朱音だけでなく、後ろの銃座からビザンティア王女とエリオット少年が手を振っていた。

 彼らからすれば素敵な冒険がこれから待っているのだ。

 エーゲ海に出る辺りで先行の艦爆隊から待望の通信が入る。

 ツイラクキ ハッケン N40度E23度21分

 その後に誘導用の電波が発せられる。去年の暮れ辺りから無線機に搭載された新機能だった。

 二年前の帝都防空戦で洋一が無線で迎撃機を誘導したのがきっかけだった。

 あのときは電信を出しっぱなしにして無線帰投方位測定機で追ってもらった。

 これは便利だと正式に無線機の機能に組み込まれることになった。

 通信とは別の周波数が割り当てられて、「T波」と呼ばれる電波を出し続けて場所を知らせることができる。

 この「T波」、「敵」もしくは「ターゲット」のTだと云われている。

 洋一には信じがたいのだが、発案のきっかけとなった「丹羽」のTだと云う説もあるらしい。

 発見した彗星艦爆は上空で旋回しながらT波を出して誘導してくれるのだろう。

 綺羅の十式艦戦が先頭に立って一行はそちらへと向かう。

 八機の十式艦戦が前に出て、その後ろにシャグバット飛行艇、しんがりは三機の彗星艦爆がつく。朝日を浴びてエーゲ海の上を進んでいた。

 とんだ大名行列だ。中のお殿様たちはどう思っているのかな。

 洋一はビザンティア王女とエリオット少年の乗っている飛行艇を振り返った。


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