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琥珀色の秘密〜ウィスキーとお惣菜の癒し時間〜  作者: 山いい奈
2章 それは、あなたなんです
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第13話 思いやり合うからこそ

 出口(でぐち)さんが願っていたのは、お兄ちゃんの幸せだった。深川(ふかがわ)さんだって、(たもつ)さんに対してそんな思いもあったのだろうが、どうしても自分の気持ちが先行していた。


 だから、お兄ちゃんとのことを受け入れられなかった。


 好きな人には、自分のそばで幸せになってほしい。それは当然の感情で、多くの人たちが抱くものだと思う。だが結局、深川さんの思いは一方通行になってしまった。


 接し方が違えば、また異なる今、もしくは未来があったのだろうか。


 今さら、たらればを言っても仕方がない。保さんはすでにお兄ちゃんを選んでいるのだから。


(もと)ちゃんと(ひめ)ちゃんは、やっぱり松比良(まつひら)くんのことは、推しの域を超えてへんかったんやて。でも(ふか)ちゃんの思いを汲んで、協力したって。あたしも一緒やろうって思ってたから、あたしが別の人好きやったことには驚かれたけど、でも裏切られたって思いはせんかったって。推し心と恋心は別もんやもんね。でも深ちゃんはちゃうかったから、本気で松比良くんが好きやったから」


「うん」


 保さんが相槌を打ち、出口さんは小さく息を吐いた。


「あたしも友永(ともなが)くんが好きやったから、深ちゃんの気持ちも分かるんよ。でもこればっかりね、お相手あってのもんやから」


「せやな」


「あ、元ちゃんと姫ちゃんには彼氏さんがおって、姫ちゃんは結婚決まってるんやって。でもなかなか言えんくて、特に深ちゃんに。せやから今回、こうなってむしろよかったんやないかなって言ってた」


「めでたいやん」


 お兄ちゃんが言うと、出口さんは「うん」と嬉しそうに頷く。


「ふたりには、もちろん深ちゃんにも、幸せになって欲しいんよ。ひとりでも、誰かと一緒でも、周りも自分も満足できるように」


「出口って、ほんまええ女よな」


 お兄ちゃんが不意にそんなことを言うものだから、出口さんはふっくらとした顔を赤らめて大慌てである。


「え、ええっ!?」


 そんな様子がおもしろいのか、お兄ちゃんは「くく」と笑みをこぼす。


「いや、そうやって相手を慮れるってさ、すごいことよなって思うわ。自分の思いを押し付けるんやなくて、相手を大事にするってな、なかなかできることやないって思うわ」


「そんなん、当たり前のことやん。友永くんかてできてるやん。那津(なつ)さんとのこと、聞いたよ」


「ああ、それはまぁなぁ、それはな。元は他人や。他人同士が一緒に暮らすんやから、それぐらいはするやろ。でもそれって、誰とでも一緒やないか? それができて、初めて人とまともに付き合えるんや。できひんやつが人を傷つける。それは肝に銘じとかんとな。おれも気をつけんと」


 那津からしてみたら、お兄ちゃんは充分那津に気遣ってくれていると思う。思いやってもくれる。だって、今もそばににてくれる。保さんと一緒に暮らすことだってできるはずなのに。


 那津にはスイがいるから、ひとりになることはない。それでもお兄ちゃんがいるのといないのとでは、心強さが違うのだ。


 勝手だと思う。お兄ちゃんはきっとそんな那津の気持ちを見透かしていて、家から出ないのだろう。もういい歳なのだから、那津こそが結婚とかしていてもおかしくないのに。


 那津とて、恋愛経験がないわけではない。だがお付き合いをしたとしても、どうしてもその人を優先にできないのだ。自分よりは大事にしていたと思うが、どうしても那津のなかでは家族がいちばんだった。


 今はもういないお父さんとお母さん、そしてお兄ちゃんとスイ。特別で大切なのは、この4人だった。


 那津は家族依存が強いのだと思う。だから離れられないし、離してあげられない。鬱陶しい人間だなと思うが、今は現状に甘えてしまっている。


 でも、もう少しだけ待ってほしい。必ず独り立ちできる心を身につけるから。


「あたし、そんなこと考えたことないけど、でもこれから大切にしたいって思える人と出会えたら、そうやって思いやり合えたらええなって思う」


「おう、出口やったら会えるわ」


「ぼくも、そう思う」


「わたしも。応援してます」


「ありがとう」


 出口さんはとても可愛らしく微笑んだ。




 出口さんは21時ごろに帰っていき、オーダーストップの22時半も越し、ほかのお客さまも退店して、閉店を迎えた23時。後片付けを終わらせたのが23時半。


 いつもならここで帰宅をするところなのだが。


「保、なっちゃん、ちょっと付きおうてくれへん? 奢るから」


 お兄ちゃんに問われ、保さんと那津は思わず顔を見合わせる。那津に断る理由はない。お家は同じ長居(ながい)だし、終電を気にすることもない。なにより帰る場所はお兄ちゃんとスイと同じなのだから。


「ぼくはええよ」


「うん、わたしも」


「ありがとうな」


 お兄ちゃんはショットの「知多(ちた)」を出す。「知多」はサントリーが醸造するジャパニーズウィスキーである。甘みがあり、だがスモーキーさはあまり感じられない。そういう部分で評価が割れるとも聞いたが、さっぱりと飲みやすい一品である。


「保はいつもの水割りでええか? なっちゃんはどうする?」


「うん、ぼくは水割りで。「知多」久々やわ」


「わたし、ハイボールにしてもろてええ?」


「はいよ。なっちゃん、客席におりぃ、すぐに作るから」


「ありがとう」


 那津はエプロンを外して客席に回る。保さんの横はお兄ちゃんが座るだろうから、ひとつ離れて腰を掛けた。

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