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悪役令嬢ですが、泣き落としには法と魔法で対処します  作者: ちわいぬ
第8章 薔薇と王冠編(ルーカス/レナート/クラリス)

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第388話 浜辺「火」

夜はまだ終わらない。


海は黒い。

波は重く、一定の音で砂を叩いている。


ロウの体は震えていた。


歯が鳴る。

指先の感覚が鈍い。


寒い。


ただの寒さではない。

骨の奥まで冷える。


(……動け)


止まれば終わる。


叩き込まれた知識が、頭ではなく体の奥から浮かぶ。


冷えたら動け。

火を作れ。

濡れたまま眠るな。


ロウは砂を掴んで立ち上がった。


浜の縁には森がある。

黒い影の帯が続いている。


(枝)


火がいる。


ロウは森の縁まで歩いた。

歩くというより、よろめきながら進む。


月明かりを頼りに足元を探る。


落ち枝。

折れ枝。


濡れていない細いものだけを拾う。


何度も往復する。


枝を砂浜に集める。


火を起こす。


掌が擦れて痛む。

それでも止めない。


やがて小さな煙が上がる。


息を吹く。

慎重に。


赤い点。


火種。


草を寄せる。


――ぱち。


小さな音。


炎が生まれた。


ロウはすぐ枝を足した。


細い枝。

少し太い枝。


火は揺れながらも、消えない。


暖かい。


それだけで、体の震えが少し収まる。


ロウは濡れた服を脱いだ。


水を吸って重くなった布を引き剥がす。

火のそばへ掛ける。


乾かす。


それからレオンハルトのところへ戻った。


王太子はまだ動かない。


ロウは肩を掴み、砂の上を引きずる。


重い。


だが波の届かないところまで運ぶ。


火の近く。


上着と濡れた服を脱がす。

それ以上は無理に触らない。


火の側へ体を向けるだけにした。


息はある。


それだけ確認して、ロウは火へ戻った。



ロウは膝を抱えて火を見た。


炎が揺れている。


消えない。


それを確認してから、ゆっくり息を吐いた。


(……生きる)


頭を使え。


恐怖を使うな。


教え込まれた通りに考える。


まず火。


火は絶やさない。


夜はこれで越えられる。


次。


朝になったら水。


川か湧き水を探す。

海水は飲めない。


食べ物。


貝。

小魚。

果実。


森がある。

何かある。


浜の形も覚える。


ここが島か、大陸か。


高い場所を探す。


煙を上げる。


船が通れば見える。


そこまで考えたところで、ロウは火を見た。


火はまだ燃えている。


波は遠い。


空は暗い。


ロウはゆっくり背を丸めた。


「……生きる」


声は小さい。


それでも言った。


それが、今の仕事だった。

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