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異世界で、君を守る召喚獣になる  作者: 田中ゆうひ


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召喚魔法の真実

 背中が熱い。

 それに、ゾッとするような痛みがある。

 体が一瞬痺れたように硬直した。


 そして、ズルリと背中から何かが抜ける感覚があった。

 背中に組み付いたゴブリンがナイフを引き抜いたのだ。


 そして、再び腕を振り上げている。

 もう一度刺すつもりだ!


 僕は残った力を振り絞って——


「うおおおっ!」


 背中から後ろに倒れ込む。

 ゴブリンの身体が僕と地面に押し潰される。


 そこから体を捻って反転し、盾で奴を押さえ込む。


 暴れるゴブリン。

 手元のショートソードはこの体制では振れない。


 腰のナイフ——!


 ショートソードを手放し、剥ぎ取り用のナイフを抜く。

 渾身の力を込めて、ゴブリンの胴体に突き立てる!


 引き抜き、もう一度。さらに、もう一度。


 ぐったりとゴブリンが動かなくなる。


「……はあ、はあっ……」


 肩で荒く息をしながら、ようやく立ち上がろうとしたそのとき、レインが駆け寄ってきた。


「ハルト、大丈夫!? すぐに回復しなきゃ!」


「だい……じょうぶ……耳を、剥ぎ取るから、周囲を……」


「そんな場合じゃないでしょ! 背中、血が……!」


 触れてみると、手が真っ赤になった。


「あ……」


「急いで救護テントに行くわよ!」


 僕たちはダンジョンの道を引き返した。


 最初は普通にあるけたはずなのに歩くたびに、背中に熱を感じる。

 全身が重い。

 なんだか足が鉛みたいだ。


 レインが近づいて、支えてくれた。


「大丈夫、大丈夫だから……ハルトは死なない……絶対、死なせない……」

 レインは泣き出しそうな声で何度もそう言った。


 ようやく、光が見えた。


 ダンジョンの出口だ——!


 陽の光が目に染みる。


「けが人だ!」

 ギルド職員がすぐに駆け寄ってきた。

 肩を貸してくれて、救護テントへと向かう。


「どこをやられた!?」


「背中に、刺し傷と、肩に矢が……」


「よし、座れ!」

 椅子に腰を下ろされ、回復魔法の使い手が手をかざす。


 その前に——


「矢を抜くぞ、いいな!」


「ぐっ……!」


 痛みに思わず声が漏れる。


「満ちろ、癒しの光!——ヒール!」


 神聖な光が傷口を包み込んでいくのがわかる。


 まるで温かい水に浸かっているみたいだった。


 ——ああ、助かったんだ。


 そう、実感した瞬間、全身の力が抜けていくようだった。



「ハルト!」


 レインが声をあげて抱きついてきた。


「良かった……本当に良かった……!」


 震える声でそう繰り返すレインの背中に、僕もそっと腕を回す。

 心の底から良かったと思えた。

 僕は生きている。

 そしてレインを守れた、そのことが誇らしかった。


 横からひとつの咳払いが響いた。


「……感動的なところ、悪いが」


 ギルド職員が苦笑しながら言った。


「100ルアだ、ルーキー。払えるか?」


「は、はい!」


 レインが慌てて腰につけていた皮袋から銀貨を一枚取り出し、差し出す。


「おっ、ちゃんと用意してるとは感心だな。新人にしては見込みがある」


 銀貨を受け取った職員がニヤリと笑う。


「もし持ってなかったら、どうなるんですか……?」

 僕は遠慮がちに尋ねた。


「ああ、100ルアくらいならギルドが立て替える。

 ……が、その分は換金のときに差っ引いていく。

 稼げば返せる、って仕組みだ」


「じゃあ、ずっと返せなかったら……?」


「その時は武器でも防具でも押さえさせてもらうさ。

 ま、100ルアも返せない奴は冒険者なんてやめて、地道な仕事に就いた方が身のためだな」


「……ありがとうございます」


 僕は深く頭を下げた。


「礼はいい。こっちは仕事だからな」

 ギルド職員はそう言い残して、テントの外へと戻っていった。


 回復魔法の使い手の女性も

「良かったわね」

 とやさしく微笑んで言った。


 改めてお礼をいって、テントを去る。


「……レイン、そろそろ戻ろうか。ゴブリンの剥ぎ取りだけでもしておきたい」


「……え? でも、今日はもう……休んだ方がいいんじゃ……」


「100ルアを使っちゃったしさ。倒した分、耳だけでも回収しておこうよ。

 すぐに戻れば他のゴブリンもいないはずだ。」


 しぶしぶとレインも頷いた。


 **


 幸いなことに、戦闘もなく先ほど倒したゴブリンの元にたどり着くことができた。


 耳を剥ぎ取り、自分の血で汚れたナイフも回収する。

 ついでに弓も一応回収したが、粗末な作りで、売れるかどうかは怪しかった。


 無理をせずそのままダンジョンを後にする。


 **


 街への帰り道。


 レインはショックを受けたように何もしゃべらず押し黙っていた。


「大丈夫、生きてるだけで十分だよ」

 だとか

「100ルアなんてすぐ取り戻せるさ」

 とできるだけ明るく声をかける。


 けれどレインの返事は「……そうね」と短く、どこか上の空だった。


 ギルドで耳を換金し、鍛冶屋ではナイフを5リアで買い取ってもらえたが、弓はやはり無理だった。


「わざわざ持ってきてもらって悪いが、これは売り物にならねえな」


 ガストンはそう言って申し訳なさそうに笑った。


 **

 宿に戻り、いつもどおり身体を拭き、食堂で夕食を取る。


 けれど、レインはいつもに比べて明らかに元気がない。


 今日の稼ぎは45ルア。


 食事は20ルアの控えめなもので、お酒は頼まなかった。

 治療費に100ルアを使ってしまっている。

 明日の宿泊費と朝食代で40ルア

 お湯とタオル代で4ルア


 119ルアの赤字だ。


 パーティの共通貯金は昨日時点では182ルアあったが

 これで明日の朝には63ルアしか残らない。


「……お金なら、すぐまた取り戻せるよ」

 できるだけ明るく言う。

 レインの眉がピクリと動いた。


「お金のことじゃない!」

 レインが声を荒げた。


「怪我なら治ったよ。ほら、背中も——」


「そうじゃないの!」

 レインの声が震えていた。


「そうじゃないの・・・そうじゃ・・・」

 とうとうレインは泣き出してしまった。

 目を擦りながら、肩が小さく震えていた。


 どうすることもできず、ただじっとレインが泣き止むのを待った。

 しばらくするとレインは顔を上げ、観念したように、ぽつりぽつりと話し始める。


「……ハルト、元の世界にいたときから、あんなふうに戦えたの?」


「え?」

 意外な質問だった。


「え、いや……全然。

 僕は普通のサラリーマンだったから…。

 剣なんて握ったこともなかったし、喧嘩なんかもしたことなかったよ」

 質問の意図がよく分からなかった。


「でも、ハルトは……私を守るために、矢を受けて、ナイフまで刺されて、それでも……」


「それは、レインがいたから勇気が出たんだよ。

 君を守りたいって、そう思ったから——」


「違うの!」

 レインは叫ぶように言って、その後うつむいてしまった。


「そうじゃないの…。

 違うのよ、ハルト。

 私、ハルトを変えちゃった。

 変えちゃったんだわ……。」

 レインが言っている意味が分からなかった。


 変えた?

 僕の一体何が変わったというのだろう。


「召喚魔法のせいだわ…」

 レインの一言に僕はゾッとした。

 ”犬のリード”。

 忘れようと、意識しないでおこうと思っていた言葉が再び頭の中を支配した。


「意思疎通だけじゃないの。

 あれは、主人を守るために、召喚獣を“従順”にして“勇敢”にする魔法なの。

 ずっと、ハルトが普通だったから…。

 ハルトは人間だから魔法の影響を受けてないんだって。

 …そう思い込もうとしてた。」

 レインは絞り出すようにいった。


「でも、やっぱり影響を受けていたんだわ。

 ……ハルトは人間なのに、私の魔法で無理をして……死なせるところだったの」

 ぽろぽろと再び涙をこぼすレイン。


「そんなこと……」

 ”ないよ”と言いたかったが言葉がうまくでてこなかった。


 ふとダンジョンに最初に入ったときのことを思い出す。

 怖かったがレインの顔を見たら勇気が出た。

 あれは僕の勇気じゃなかったのか……。


 確かにゴブリンとの殺し合いなんて、日本にいたときは考えられなかった。

 その割にはうまくできたと思っていた。

 違ったのかだろうか。


 全部…全部、全部、魔法のおかげだったのか。

 違うと思いたかった。

 だが、それを証明する方法は何もない。


 沈黙がテーブルを支配する。

 何か言わなければいけない。

 しかし、その言葉が出てこない。


 レインはじっと下を向いて何も言わない。


「……今日はもう、寝よう」

 僕は立ち上がり、レインに言った。


「話の続きは、明日しよう」


 混乱していた。

 レインに何かいいたかったが、今話し合いを続けたら、何か致命的なことになるような気がした。

 とにかく寝て、頭をスッキリすればきっともっと良い考えが浮かぶ。

 そう信じたかった。


 **


 床に横になっても、なかなか眠れなかった。


 あの戦いの時、確かに死の恐怖を感じるより先にレインを守らなければと思った。

 あれは魔法のせいだったのだろうか?


 ”召喚獣を“従順”にして“勇敢”にする魔法なの”

 レインの言葉が頭のなかで響く。


 “従順”、そういえば、同じ部屋で眠る彼女を、今まで一度も“そういう目”で見たことがなかった。

 レインを可愛いと思ったことは何度かあった。

 ドキドキさせられたこともあった。

 でも、一度もレインに欲情したことはなかった気がする。

 それも魔法?


 この街に来て、新しい“居場所”ができたと感じた。

 ルミナフラウを見ながら笑い合った——あれも?


 疑念が胸を締めつける。


 考えが上手くまとまらない。

 しかし、徐々に眠気がきて、意識が遠ざかっていくのを感じる。

 今日は血をたくさん流した、体が睡眠を必要としているようだ。

 これで何も考えなくて済む、そう思って意識を手放した。

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