バックスタブ
ダンジョンの入り口。
いつも通り、レインと僕は右側の通路へ進もうとした——そのとき。
「……ねえ、聞こえる?」
レインが立ち止まって、通路の先に耳を傾ける。
耳をすませると、たしかに金属がぶつかり合う音が微かに聞こえてきた。
誰かが戦っているようだ。
「別のパーティかな……」
僕も小声で応じる。
「ダンジョンの中で他のパーティと鉢合わせすると、トラブルの元になるわ。ルールじゃないけど、避けた方がいいわよね」
「そうだね。じゃあ、今日は左に行こうか」
いつもと違う通路。初めての道に、自然と足取りも慎重になる。
しばらく進んだところで、ゴブリンの姿があった。こちらにはまだ気づいていない。
「先制するわ」
レインの小さな声とともに、集中に入る。
すこしの沈黙、そして
「燃え上がれ、灯火の子……ファイアーボール!」
火球が一直線に飛び、ゴブリンを吹き飛ばす。
「ナイス、レイン」
「ふふ、今日は調子がいいかも」
手早く耳を剥ぎ取る。
他には特に目ぼしいものはなかった。
再び歩き出す。慎重に、だが確実に。
分かれ道に差し掛かり、レインが立ち止まる。
「ちょっと地図描くわね」
リュックから紙と炭筆を取り出すと、座り込み、手早く地図に線を引き始める。歩数でおおよその距離を記録しているらしい。
「どっちにいく、ハルト」
あっという間に書き終えたレインが、立ち上がりながら聞いた。
「左に行こうか、今日はずっと左側に行ってみよう。」
左に進むと、再びゴブリンの姿。今度は素手だ。
「武器を持ってない。魔法は温存して、僕が行くよ」
レインの頷きを確認してから、僕は敵を待ち構える。
ゴブリンは武器を持っていなくても、人間を見つけると襲い掛かってくる。
勇気があるのか単に知能が低いのか。
盾でゴブリンのこぶしを防ぎつつ切り込む。あっという間にゴブリンは倒れた。
ショートソードを鞘に納め、いつものように耳を剥ぎ取ろうとする。
「二体くるわ!」
レインが小さく叫ぶ。
慌てて、ショートソードを引き抜き剣を構える。
一体はナイフを構え、もう一体は……弓!?
「弓使いだ!」
レインはすでに集中に入っていて、聞こえないかもしれないが声に出す。
ナイフ使いが突っ込んでくる。盾で受け止めるが、その衝撃で体がわずかに左へズレた。まずい——
弓使いのゴブリンが、まさにレインを狙って弦を引いている!
「レイン、避けて!」
僕は叫びながら、なんとか弓使いとレインの直線状に飛び出す。
飛んでくる!
そう思った思った瞬間に右肩に衝撃が走る。
——ッ!
矢が、確かに刺さった感触があった。
熱い痛みが広がり、腕が震えた。
「ハルト!!」
レインの悲鳴。
魔法の集中は切れてしまっただろうか。
ナイフ使いもまだ健在だ。
だがレインを守るためにも、まずは弓使いを倒さないと。
何をしていいか一瞬分からなくなる。
とにかく動かなきゃ。
「ガァアアア」
僕は大きく息を吸って、獣のように吠える。
ウォークライ、順応によって手に入れた敵を引きつける雄叫び。
ナイフ使いの敵意がこっちに向くのを感じる。
そのまま前進し、ナイフ使いの横を抜けようとする。
ズガッ!
足を斬られた。ナイフ使いが背後を狙ってきたのだ。
衝撃はあるが、大丈夫。
皮鎧が守ってくれて肉は切られてない。
構わず、そのまま弓使いに向かって走る。
ナイフ使いが追いかけてくるのをチラリと確認する。
よし、ウォークライがが効いている。
弓使いまであと少しのところで、再び矢が飛んできた。
反射的に盾を構え、ガンッという音が鳴る。
盾で防げた。
そのまま走り込み、剣を振り下ろす。
「はあっ!!」
一閃。だが、まだ生きている。
もう一撃!
首筋を狙った一撃が決まる。
ようやく弓使いが倒れる。だが——その瞬間。
グサッ!
背中に何かが食い込んだ。ナイフだ。ナイフ使いのゴブリンが、背中に組みついて、刃を突き立てていた。
「ハルトぉぉ!!」
レインの悲鳴が響く。




