犬のリードが繋ぐもの
翌朝も、空は変わらず青く、穏やかな陽射しが街を照らしていた。
すっかり生活の一部になった宿の食堂で朝食をとり、支度を終えたて、ダンジョンへ向かって歩き出す。
その足取りは、かつてのような緊張に満ちたものではない。どこか慣れたようで、そして今日もまた、新しい一日が始まるという静かな期待があった。
「ねえハルト、今日はもう少し奥まで行ってみようと思うの」
「いいね、地図もできるだけ埋めたいしね。
迷ったら大変だから、道が分かるのは本当に大事だよね」
「そうね、ダンジョンで迷ったらなんて思うとぞっとするわね。
ただ、私たちははぐれる心配はないからそこだけは安心ね」
「え?、なんで僕らははぐれる心配はないの?」
レインが言っている意味が分からず首をかしげる。
「え?」
立ち止まるレイン。
僕の顔あたりをじっと見つめている。
「えっ見えてないの?
ハルトと私は、召喚魔法のパスでつながってるでしょ。
ほら、細い光の筋が――って、ああ、そっか」
レインは苦笑した。
「魔力を扱えない人には見えないんだったわ。
てっきり、召喚獣本人には見えてるのかと思っていたけど…」
納得したように頷きつつも、レインの声にはどこか複雑な響きがあった。
勘違いかもしれないが少しだけ失望したようなそんな響きがあった。
「へえ……そうだったんだ。
じゃあ、レインには僕がどっちにいるか分かるんだね。
ちょっと便利だね。」
なんとなく、犬のリードが頭に浮かんだ。
自分が一方的に繋がれてるような感覚が、胸の奥に小さく引っかかった。
「そういえば最初は言葉が通じなかったのに、パスをつないだら急に分かるようになったよね」
僕は自分が感じた違和感を無視して、会話を続けた
「それも召喚魔法の効果なの。
本来は、人間とじゃなくて、召喚獣となる動物と意思疎通するための魔法だから」
「ってことは、レインの師匠のサラマンダーも、喋るの?」
「違うわ。喋ったりはしない。でも、師匠が言ってることはちゃんと理解してるみたいだった。うまく説明できないけど、ちゃんと“通じてる”感じね」
「なるほどなぁ……それにしても不思議な力だよ、召喚魔法って」
「ふふ、ハルトが相手だからこうなったのかもね。
まさか人間が出てくるとは思ってなかったし」
レインは笑ったが、その目には一瞬の曇りがあった。
「お互いにね」
僕も笑い返したが、犬のリードのイメージが頭から消えなかった。
僕らは笑い合いながらダンジョンへの道を進んでいったが、会話の心地よさの中にも、どこか小さな波紋が広がっているようだった。
やがて、ダンジョンの入り口が視界に入った。
白いテント、岩を削ったような階段、そして今日も変わらず吹き上げてくる、冷たく湿った空気。
「よし、今日も行こうか、レイン」
「うん、気を引き締めてね」
二人は静かに頷き合い、闇の中へと足を踏み入れた――。




