第251話 セリアの機転
「ルミナス男爵、助けにきたわよっ!」
エレオノーラさんが獣人を引き連れてきた。
「エレメンタルヒュドラを倒したのですか?」
その言葉に俺は頷く。
「だけど、この有様じゃあ……」
壊滅したエルフの里を見る。
「妙よね?」
絶望する俺に、エレオノーラさんはそんなことを言う。
「避難したにしても、死人が一人も見当たらないなんて不自然よ?」
こういう場合、時間稼ぎに何人か戦闘員を残すことになっている。その痕跡がないというのがおかしいとエレオノーラさんは首を傾げた。
「だとしたら、逃げ出せたということでしょうか?」
「移動速度からしてもそれはないかと」
エルフの少女が答える。
「だったら、どうして?」
俺が首を傾げると、一つ思いついたことがあった。
「エレオノーラさん」
「ん、何かしら?」
「魔導具への付与はどうなってますかね?」
「こんな時に自分の魔導具がそんなに大事なの?」
彼女は怒りを滲ませると俺を睨みつけてきた。
「いいから早く教えてくださいっ!」
「あの娘の実力なら、もう終わっているはずよ」
付与した魔導師の実力を思い浮かべたのだろう。彼女はおよその時間をいった。
「それなら、何とかなるかもしれない」
これは賭けだ。俺は目を瞑ると考えを纏めた。そしてセリアの笑顔を思い浮かべると、
「来いっ!」
魔導具を引き寄せた。
「それが、SSランクの魔導具なのですか?」
シアンが覗き込んできた。
「だけど、どうして今そんな魔導具なんて……」
里の皆が見当たらないのにと皆非難の目を向けてくるのだが……。
「えっ?」
次の瞬間、箱庭の中からゾロゾロと人が出てきた。
「セリアッ!」
「兄さんっ!」
俺は彼女と抱き合った。
「無事で良かった!」
「もう駄目かと思いましたよ!」
ところどころが汚れている。本当にギリギリだったのだろう。
「よく皆を助けてくれたな」
周囲を見ると、他のエルフの姿もある。
「兄さんならこれに気付いてくれると信じてたんです」
「ちょっと待ってちょうだい!」
俺たちが話をしていると、エレオノーラさんが話し掛けてきた。
「ルミナス男爵。貴方今何をやったの?」
俺たちが感動の再会をしていると皆が疑問の表情を浮かべている。
「付与してもらった魔導具を引き寄せただけですけど」
俺は自分が行ったことについて告げる。
「あれは魔導具にしか効かないの! 生きてる人間を転移させるなんてそんなの……」
「それができるのがこの箱庭です」
俺は彼女の言葉を遮り答える。
「この魔導具は中に入ることができるんですよ」
呆気にとらわれる彼女たちに魔導具の性能について説明する。
「そして、中に入った状態なら魔導具を引き寄せることも可能です」
「だけど、この通り里は半壊しているのよ! 一体、どうやって安全を確保したのよ⁉︎」
「それはこの『転移の腕輪』を使いました」
残りの説明についてはセリアが引き継ぐ。
「この『転移の腕輪』は宮廷魔導師百人分の魔力を補充しなければ起動できません。これまでは私がコツコツ補充していたのですが、モンスターが迫ってきた時点でエルフの皆さんに協力してもらいました」
彼女は自分の苦労話を続ける。
「箱庭を持って移動するには時間が足りない。だけど、転移なら何とかできる」
皆がセリアの説明を聞き入る。
「最後の方の魔力を補充した私は、皆が箱庭に入ったのを確認してどこでもいいから転移したのです」
「その後は、俺が気付いて取り寄せるのを待つために自分も箱庭に入ったと」
俺の言葉に彼女は頷いた。
「だからルミナス男爵はその魔導具に付与を頼んだのね……」
ここにきて、エレオノーラさんはようやく俺の意図に気付く。
「あれだけのモンスターが暴れたのに人的被害がゼロってありえないわよ」
エレオノーラさんが驚きの表情で俺を見る。
「今度こそ、守り切ることができたんだな」
「何か言いましたか?」
「いや、何でもない」
俺はシアンの言葉に曖昧な笑みを浮かべるのだった。




