エピローグ
「事件解決の温情を考慮して、兎人族のシアンを国外追放する」
長老会議にてシアンの身の振り方が決定する。
他の兎人族も集落こそ追われたが、サイリーンで暮らすことは許可された。
代表の座から降ろされたコニーはすっかり惚けてしまっているが、命が助かっただけマシというものだろう。
肝心の沙汰を言い渡されたシアンはスッキリした顔をしている。
「これからどうするつもりなんだ?」
俺が質問をすると、
「実は他国で成功したエルフの方が優秀な錬金術師を募集しているらしくて、エレオノーラ様が口を利いてくれたんです」
彼女は単独でテンプシーハートを作り上げているので、その腕が見込まれたらしい。
セリアから聞いていたのだが、件の媚薬はロレインでも作成できないものだとか……。
「そうか……新しい場所でも頑張ってな」
「はい、ありがとうございます」
完全に罪をなかったことにはできなかったが、今回は誰も死んでいない。すっきりと別れることができそうだ。
「この前の夜、クラウスさんに媚薬を盛ったじゃないですか?」
「おい、その話は……」
貴族に一服持ったという罪状が追加されれば今の処遇で済まない。なぜか当人より俺の方が焦りを浮かべる。
「本当は、こんな薬に頼らずに自分の魅力で好きになって欲しいと思ってたんですよ」
シアンは耳元で囁いた。
「それって……どういう?」
意味なのだろうかと俺が首を傾げていると。
「クラウスさんの朴念仁」
彼女は「べっ」と舌を出すと馬車に乗り込んだ。これから身請け人の元に移送されることになっている。
「一体何だったんだ?」
なぜシアンに罵倒されたのか分からず首を傾げていると……。
「シアンさんとの別れの挨拶は済ませたんですか?」
「セリア……その格好!」
そちらを見ると、セリアとメリッサとキャロルが着物に着替えていた。
「ようやく完成したので届けてもらったんです」
「皆、凄くよく似合ってるよ」
この素晴らしさを伝え切る言葉を持ち合わせていなくて歯がゆいくらいだ。
「実は、兄さんの分もあるんですよ」
そういうと、セリアは着物とミスリルの帯留を差し出してきた。
「着物はセリアから、帯留は私からの贈り物よ」
「この柄は……不死鳥とドラゴン。高かっただろ?」
「私も兄さんに何か贈り物をしたかったんで……」
「ありがとう、凄く嬉しいよ」
「わっ、兄さん。恥ずかしいです」
俺は贈り物ごと彼女を抱きしめた。
少しだけ席を外し着替えてくる。セリアとメリッサからの贈り物の着物は身体に馴染んだ。
「何だか……恥ずかしいですね」
普段着慣れていないだけに、どうしても恥ずかしさが優ってしまう。
それでも、セリアもメリッサもキャロルも着物姿が抜群に似合っているので、俺は三人を見続けた。
『ふむ、こうしてみるとなかなか似合っているではないか?』
気が付けばダキーニが近くに来ていた。
「お前、随分と小さくなったなぁ……」
『うむ、あの時精霊石を食べなければ完全に消滅していたな』
エレメンタルヒュドラとの戦いにすべてを注ぎ込んだダキーニは、存在すら消滅しかけた。だが、一つだけ手元にあった精霊石を食わせたところ復活したのだ。
『流石にやつを封じ込めるのに力のほとんどを使ってしまったからな。今では非力な霊獣よ』
ダキーニの尽力がなければ戦いはエレメントヒュドラの勝利で終わっていた可能性もある。
ダキーニは文字通り、身を削って敵の戦力を削いでくれたのだ。
「それじゃあ、ダキーニ。楽しかったよ」
休暇もそろそろ終わるのでステシアに戻らなければならない。
俺はダキーニに最後の挨拶をするのだが……。
『何を言っている? 我は当然ついていくぞ?』
「いや、何でだよ?」
こいつは長年森林に住んでいたのではなかったのか?
『お主の傍にいれば力も回復するし、美味しい物も食べられるからな』
「だけど、瘴気の浄化はどうするんだ?」
これまでダキーニが災害を事前に防いでいたのではなかったか?
『瘴気が発生する場所を教えスイレーンを植えるように虎人族に命令をしてきた。たまに見にくれば大丈夫だろう』
崇拝している霊獣ということもあってか、ハジンさんはダキーニに逆らえないようだ。
「兄さん、ステシアに戻りますよ」
セリアたちが呼んでいる。
「わかった、今行くよ!」
俺はダキーニを肩に乗せると、帰路につくのだった。




