第247話 エレメントヒュドラ
「兎人族の処分については後程話し合いましょう。今はエレメントヒュドラについて教えてちょうだい」
コニーさんを拘束して別室に送ったあと、俺たちは改めて復活してしまったエレメントヒュドラへの対策について話し合う。
「エレメントヒュドラはドラゴンとも精霊とも呼ばれる存在です」
エルフの少女は過去に文献を読みあげる。
「森羅万象を操り、この地に大災害を引き起こしたと記録にあります」
「たしか、当時現れた英雄により精霊石に封印されたのだったわよね?」
エレオノーラさんの言葉に、彼女は頷いた。
「元々は気性が穏やかでただ棲んでいただけの霊獣だったそうですが、ある日を境に狂ってしまったのだと文献にはあります」
当時を生きる者たちの中には精霊との親和性が高い者が存在していたのだろう。
霊獣であるエレメントヒュドラを見ることができる者が複数おり、その者たちが「これは里を護る良い存在」と信じ崇めた。
だからこそエルフからは精霊と認識を受け、他の獣人は本来の姿であるドラゴンと認識した形だ。
「エレメントヒュドラは五つの首を持っており、それぞれが意思を持ち、違う属性の自然現象を操ったと書かれています」
霊獣はそこらに漂う精霊を使役できるのだとダキーニは言った。
ダキーニが操ることができるのは聖属性らしいが、エレメントヒュドラは地水火風がそれに加わる。
「話を聞けば聞く程まともに相手するのは無理じゃない」
そのような存在をまともに相手できるわけもなく、エレオノーラさんは早々に白旗を挙げる。
「一度封印できたのなら、再度封印することもできるのでないでしょうか?」
俺がそう質問をすると、エルフの少女は文献を捲り読み上げる。
「無理よ、精霊石なんて伝説のアイテムこの国にはないもの」
「だが、それを手に入れなければこの地は災害で滅ぶことになる」
マゴットさんが苦い表情でそう言った。
「あの……」
「とにかく、国中をひっくり返してでもその精霊石とやらを手に入れるしかねえな」
虎人族のハジンさんが乱暴なことを言い出した。
「そうね、すぐに国中にお触れを出すわよ。国の存亡がかかっているのだから、寝ている人間を全員叩き起こしなさい!」
噂に聞く長老会とは印象が違う。
自分たちの部族に有利な政策ばかり行っているという印象だったのだが、こうして国難に直面して決断するあたりは見習わなければならない。
「ちょっとっ!」
俺が口を挟もうにも、皆それぞれの部下に命令を飛ばしているので聞いてくれない。このままでは時間の無駄になるのだが……。
『聞け、愚か者ども!』
次の瞬間、全員の動きがピタリと止まった。
皆俺の後ろを見ると目を大きく見開き、恐怖を感じている。
「お前、ダキーニなのか?」
後ろを振り返ると数メートル程の高さの巨大な白虎が立っている。
「ルミナス男爵。今このお方のことを何と呼んだ⁉︎」
ハジンさんが必死の形相で聞いてきた。
「ですから、ダキーニと……」
その反応にこっちが驚いていると、
「霊獣ダキーニといえば、我が虎人族が崇めている神だぞ!」
『うむ、一時はよく供物をもらいに行ったものだ』
どうやら、ダキーニは思いのほか有名なようだ。
「というか、皆に見えてるみたいだが?」
『あの五首の霊獣も人間に見えているのだろう? このくらい力を蓄えれば見えるものなのだ』
ダキーニは精霊力を蓄えており、エレメントヒュドラは瘴気を蓄えている。
それぞれ別の力を保有しているのだが、存在感が増して人が視認できるようになったらしい。
『クラウスよ、皆に話があるのだろう?』
ハジンさんが黙り込んだところでダキーニが俺に話を振ってきた。




