第232話 コニーの企み
「以上が、水害の調査報告になります」
長老会議堂の一室にて、シアンはコニーに報告を行っていた。
「なるほど、スイレーンの減少によりグリーンムカデが湧いて出たか……」
「おそらくは、あの場所で発生したのが流れてきたのではないかと」
シアンは苦い表情を浮かべるとそう言った。
「幸いなことに、クラウスさんがスイレーンの種を発芽させてくださったので、兎人族総出で例の場所に浮かべれば今回の件はバレないかと思います」
ことの原因は、兎人族がスイレーンを採りすぎたせいだ。
そのせいで河川の水が溢れ被害をもたらしたのだとシアンは思っている。
今ならまだ現場を見られたわけではないので誤魔化すことも可能。そう進言をするのだが……。
「いや、もっといい方法があるではないか」
「えっ?」
コニーは笑みを浮かべると、
「そのクラウスなる青年はステシアのみならず世界中から注目を浴びている傑物だと聞く」
企みについて話す。
「彼と親密な関係になれば、サイラスにおける兎人族の地位は安泰ではないか?」
「そっ……それはそうですが……」
「のう、シアンよ」
コニーは悲しそうな表情を浮かべると彼女の頭を撫でた。
「私たち兎人族は他の獣人に比べて力もなければ数も少ない。そのことで他の獣人から馬鹿にされることもある」
絶世の美少女であるシアンはそうでもないが、兎人族の中には虐げられている者も存在している。
「私たちが今の地位を守るには力がいるのだよ」
クラウスを籠絡することでそれが叶うのなら……。
そう考えてしまうシアンだが、彼の親しげな顔が思い浮かぶ。
「……しばらく、考えさせてください」
シアンは拳を握りしめると、俯くのだった。
★
「それにしても、あんな便利な能力があるのに隠してたなんて……」
発芽作業を終え、宿に戻るとメリッサが恨めしそうな目で俺を見てきた。
「自分の能力を意味もなく晒さないのが冒険者だからな」
俺は軽口で彼女の非難をかわした。
「あんた今は貴族でしょ?」
「貴族なら尚更だろ?」
何ができるか周囲に示すのも貴族の在り方だが、奥の手を隠し持っているのも貴族の在り方だ。
手札が多ければ多い程有利になり、すべての手札を曝け出すのは愚か者のすること。
「まあいいわ。今日はちょっと驚かされたけど、あんたがやるなら今更だもんね」
他の三人より立ち直りが早かったのは、俺がやることに慣れているかららしい。
「でもこれで、ようやく本来の旅行に戻ることができますね」
エレオノーラさんからは魔導具に『アポーツ』の魔法を付与することを確約してもらっている。
今はまだ、トリリアン地域の水害を取り除くために尽力しなければならないから手をつけることができないのだが、その間は観光をして待つ予定なのでちょうどいい。
「それにしても、今頃キャロルさんはどうしているんでしょうかね?」
事態が解決に向かい始めたからか、セリアは今この場にいないキャロルの状況が気になり始めたようだ。
「さあ? キャロルのことだから家族に怒られてるんじゃないか?」
サイリーンに着くなり連れて行かれたらしいので、こってり絞られているのではないか?
「それより、セリアはもう少し虫に対する耐性をつけた方がいいぞ?」
事態が落ち着いたので、俺は改めてセリアに説教をすることにした。
「無理です! 生理的に受け付けないんです!」
彼女はクッションを抱きしめると目に涙を溜めてそう主張する。
「あの時だって、セリアが抱きついてきたからモンスターの討伐に制限がついたんだぞ?」
あれだけがっちり抱きつかれてしまうと剣を振るうのが危険すぎる。メリッサがいたから何とかなったが、本当はセリアにも戦線に加わって欲しかった。
「宮廷魔導師になったら、ああいうモンスターと戦うこともあるかもしれないだろ?」
俺がそう言うと、セリアはとても嫌そうな表情を浮かべる。
「今日の兄さんは意地悪です」
反論の言葉もなくセリアは頬を膨らませた。
「何がおかしいんですかっ!」
俺が笑っているとセリアは俺を睨み付けてきた。
「いや、まだまだ子どもなんだなと思ってな」
貴族の子女のお茶会に招かれたり、ドレスを身につけ大人らしく振る舞う彼女を最近見てきたが、こうして不貞腐れる姿を見るとホッとする。
「私から言わせると、兄さんだってまだまだ子どもです!」
まるで実家ですごしているかのような感覚を覚えるのだが……。
「私に言わせるとあんたたち両方子どもだけどね」
完全に存在を忘れていたメリッサがツッコミを入れた。
「まあいいわ。それより明日からは私たちの予定に付き合ってもらうんだから覚悟しなさいよ」
最後にメリッサは不適な笑みを浮かべるのだった。




