第228話 巨大グリーンムカデ
次の瞬間、水中から大量のモンスターが出現した。
「いやあああああああああああああああああああああああっ‼︎‼︎‼︎」
セリアの叫び声を間近で聞いてしまい、俺は耳鳴りがした。
「うわっ、気持ち悪っ!」
メリッサが嫌悪感をあらわにして身体を引いている。
上がってきたのはEランクモンスターのグリーンムカデ。脚に毒があるモンスターで本来なら木の枝サイズくらいなのだが……。
「これだけ集まると流石に……」
一匹一匹が大人の胴体くらいの太さとなっており、その上互いに絡まりあってこちらに向かってきているのでとても気持ち悪かった。
これはセリアでなくても悲鳴を上げてしまうだろう。
「に、兄さん! 早く何とかしてください!」
セリアは俺に抱きつくと目を瞑る。元々、虫系が苦手なのでここまで大きいサイズのグリーンムカデが蠢いているのを見ては仕方ないだろう。
「落ち着けセリア、このままじゃ水に落ちる!」
足場を広く取っているが、それでも大立ち回りをするように作ってはいない。暴れる彼女を俺は強く抱きしめた。
「まさか、私たちの集落の傍でこんなモンスターが育っていたなんて⁉︎」
ルシアは全身の毛を逆立てるグリーンムカデを忌避の目で見る。
「これは相当苦労するぞ。おなごを護りながらでは厳しいかもしれない……」
ガリウスさんもサーベルを構えながら険しい表情を浮かべる。彼の本領は狩りでこそ発揮できるのだろう。ここでは分が悪い。
「メリッサ、手伝ってくれ」
俺は怯えるセリアを抱きしめながら彼女に助力を申し出た。
「まっ、こういう場面なら魔導師の出番よね」
彼女はむしろ楽しそうに杖を構え始める。
「この程度のモンスターはむしろ的みたいなものよ」
周囲を巨大グリーンムカデの集合体に囲まれているというのに、メリッサは余裕の笑みを浮かべる。
実際、彼女の魔法の実力は確かで、一年前の時点でEランクモンスターを余裕で倒していた。
「クラウス。絶対にそれ、こっちに来させないでよ?」
彼女は魔法を唱えるために意識を集中する。
「ああ、絶対に通さないから安心して魔法を完成させろ」
俺がそういうと、メリッサは魔法の詠唱を始めた。
そうこうしている間にもグリーンムカデが襲いかかってくる。
「危ないっ!」
シアンの叫び声が聞こえる。セリアに抱きつかれた今の状態では行動が制限されるからだ。
だが、動かずとも攻撃する方法はある。俺が攻撃をしようと考えていると……。
『どれ、我の出番のようだな』
ダキーニが咆哮すると、魔力の塊のようなものが飛びグリーンムカデを蹴散らした。
「やるじゃないか!」
俺は少し驚くと小声でダキーニに伝える。
「な、何だ今のは?」
そう叫んだのノックスさん。彼は矢で他のグリーンムカデを牽制していた。
「何もないところから、攻撃が飛び出したような?」
どうやら、ダキーニ自身の姿は見えなくとも、攻撃は視認することができるらしく、皆今の光景が見えていたらしい。
『ふっ、お主にひっついていたお蔭で大分力が戻ってきているようだ』
「おいっ! それはどういうことだっ?」
「に、兄さん?」
ダキーニを問いただそうかと思ったが、セリアが不審な目で見てくるので引き下がるしかなかった。
しかし、こうして目の前でグリーンムカデを退けたとなる、これまでの大口も真実味を帯びてくる。何よりここで雑魚の露払いをできる者が一人加わるのはでかい。
「気にしないでくれ、それより油断するな!」
俺はそういうと、さらに襲いかかってくるグリーンムカデを剣で牽制する。しばらくの間時間を稼ぐと……。
「クラウス、もういいわよ」
メリッサの声がした。
「皆、顔を覆って直視しないで!」
彼女の指示を聞くと同時に、俺とシアンとノックスさんとガリウスさんが指示に従いグリーンムカデに背を向ける。
「【エクスフレイム】」
杖から業火が迸りグリーンムカデを焼く。
「凄い、これが人族の魔法だというのか?」
熱気がここまで届くのを感じながら、ガリウスさんが驚きの声を上げる。
「魔法はエルフ族が一番だと聞いてましたが、エルフ族の中堅と比べても遜色ありませんね。人族もそこまで……」
シアンは口元に手を当て驚いた表情でメリッサを見る。
「ふぅ、だいたい片付いたわね」
魔法の効果が止むと、水面に焼け死んだグリーンムカデが漂うのだが……。
ーーザバッーー
「水中で難を逃れたやつがいたのか⁉︎」
ガリウスさんやシアンから遠く、メリッサめがけて一直線に進む。
メリッサは襲いかかってくるグリーンムカデがいるのに動じることなく立っている。
「【フェニックスフェザー】」
俺はそんなグリーンムカデに側面から魔法を打ち込んでやった。
「クラウス、まだまだ沢山いるみたいよ」
次の魔法の詠唱を始めるメリッサ、それと同時に多数のグリーンムカデが水上に現れる。
「いくらでも相手になってやる」
俺とメリッサは迫り来るグリーンムカデを交互に魔法で焼いていくのだった。
数分が経ち、追撃してくるグリーンムカデはとうとう姿を表さなくなった。
「セリア、もう大丈夫だから」
「ほ、本当ですか? 兄さん?」
抱きついていたセリアに声を掛けると、戦闘が終わったことを教えてやる。
「凄いです……。あれだけの数をたった二人で……」
メリッサは流石に魔力が尽きたのか、ぐったりとしている。
「おそらく、この水害とスイレーンの枯渇と異常に成長したグリーンムカデは無関係ではないだろう」
原因は発見した。後はサイリーンに戻って調査結果を報告するだけだ。
俺が視線を向けると、シアンが青ざめた表情をしている。
「シアン、大丈夫か?」
「……はい。平気です」
彼女はそう返事をするのだが、どこか虚な感じで惚けている。
「無理もない。本当に気持ち悪かったからな。水を飲むといい」
そう言って水筒を差し出すと、彼女はコクコクとそれを飲んだ。
「とりあえず、一度戻るとするか?」
派手に行動したので、他の魔物が寄ってくるかもしれない。
俺たちは一度、サイリーンに引き返すことにした。




