第226話 泳げないダキーニ
「ん?」
『どうかしたのか?』
「いや、気のせいかな?」
一瞬名前を呼ばれた気がしたのだが、皆は前にいるので勘違いだろう。
『それより、転んで水に我を落とすでないぞ? 我は泳げぬのだ』
堂々とした態度で情けない事情を口にするダキーニ。俺の身体にしがみつき震えている。
「……お前、本当に霊獣なんだよな?」
道中本人から聞いた話を信じるなら、霊獣とは長年生きた獣に精霊の力が宿ったものがなるとされており、その力も尋常ではないとのこと。
獣人の中には崇めている者もいるらしく、たかが水ごときをおそれるはずがないのだが……。
水に怯えて目を瞑る姿からはそのような想像がまったくできなかった。
「段々、お前のその尊大な態度が可愛く見えてきたよ」
おそれよりもむしろ可愛さが先立ってしまう。俺がダキーニを撫で回していると……。
『何か言ったか?』
ダキーニが聞いてくるのだが……。
「いや、別に……」
聞こえていなかったならそれでいい。多分文句が返ってくるだろうし。
「ここからは水量も多くなっているので注意してくださいね」
声を掛けられシアンを見ると、彼女の胸くらいまで水位が上がってきていた。彼女の身長はセリアやメリッサと変わらないので、二人も移動が困難そうだ。
「これ以上先に進むの無理じゃない?」
メリッサはそういうと杖を支えに状況を告げた。
「しかし、まだ何も発見していないではないか?」
ガリウスさんがそう告げる。確かに調査するにしてもまだ何も発見していないので、引き返すわけにもいかない。
「提案なんだけど」
シアンたちに話をする。
「ここに道を作ってもいいかな?」
「道……ですか?」
シアンは困惑した表情を浮かべると首を傾げた。
「それはどういった意味ですか、クラウスさん?」
ノックスさんが俺の意図を聞いてくる。
「土魔法で地面を隆起させて水深より上まで押し上げます。そうすればもっと前に進めるかと」
「そんなことが可能なのか?」
ガリウスさんが懐疑的な視線を向けてきた。
「そこでこいつが活躍するんだ」
『…………(困惑)』
俺はロックを持ち上げると皆の前に出す。予定外についてきてしまったのだが、今となってはちょうど良かった。
「俺とロックなら細かく魔法を制御をして道を作るくらいはできる」
成長したロックは土魔法も結構扱えるし、俺もその補助ができる。ロックに道を作らせて俺がそれを制御すれば先まで伸ばせるという判断だ。
「本来、森に手を入れるのはあまり良くないことだが、水害にあっている現状でそれを言っても無意味だろうな」
ガリウスさんは肯定的な意見を述べてくれた。
「そうですね、最終的に除去できるのなら問題ないと思いますよ」
ノックスさんは眉根を寄せて悩む素振りを見せるが、一部肯定してくれる。
「そこは大丈夫です。今回の調査ができればいいだけなので、そこまで頑丈に作るつもりはありませんから」
トンネルを作った時のように頑丈に作るにはコク&リコの能力が必要だし、調査で使うだけなら半日持てば十分だ。
後はシアンの返答待ちだが、一刻も早く集落を復旧させたい彼女ならこの提案を受け入れると思ったのだが……。
「シアン?」
「あっ、いえ……」
何とも歯切れの悪い返事をしてきた。
「何か問題があるのなら言ってくれ」
彼女が難しい表情を浮かべているので、この方法に致命的な問題があるなら指摘して欲しかった。
「いえ、問題なんてありません。流石はクラウスさん。想像以上の力をお持ちなんだなと思って驚いていただけです」
俺がじっと見ると、彼女は両手をパタパタ振りながら笑って見せた。
「ただ、ルートにかんしては細かく指示させてください。兎人族の畑や色々とあるもので……」
どうやら畑を潰すことを懸念して考え込んでいたらしい。
「そのくらいなら問題ない。むしろ建物を破壊したりしないように誘導してくれると助かる」
「それじゃあ、お願いしますね」
彼女の了承も得られたので、俺とロックは土魔法で道を作り始めるのだった。




