第225話 キャロルの窮地
クラウスたちがトリリアン地域の調査に赴いているころ、サイリーンの屋敷ではキャロルが窮地に立たされていた。
彼女がいるのはタタミ部屋で、目の前には猫人族の長老サーニャが座っている。
サーニャは厳しい眼光をキャロルに向けると言った。
「長老の座を継ぐのが嫌で国を出たかと思えば冒険者になっているとは、報告を聞いて信じられなかったですよ」
キャロルは震えている。血が繋がった祖母から厳しい目で見られていることもそうなのだが、何より足が痺れていたからだ。
「御祖母様、足を崩してもいい?」
説教が始まってからかれこれ数時間が経過した。着物の帯が身体を圧迫しており呼吸が苦しいし、何より正座を強要されたので足の感覚がもはやなくなっていた。
「駄目です。小言を聞くときは姿勢を正しなさい」
だが、サーニャはキャロルを許すことなく説教を続ける。
「故郷が衰退していたというのに、一人外国で自由気ままな生活を満喫していたと聞きました。それがどれ程うらやま……罪深いことなのか貴女にわかりますか?」
猫人族は気ままな性格の者が多く、サーニャも若いころは今のキャロルと大差がなかった。
部族の期待を背負い自分を押し込めて長老になったサーニャにしてみれば、逃げ出した次期長老候補のキャロルは許しがたい存在だ。
「サーニャ様、ようやくキャロルが戻ってきたのです。その辺にしておいては?」
傍で黙って話を聞いていた人物が声を掛ける。
「ベック兄ぃ」
助け舟を出したのは狼人族の青年だった。キャロルは期待に満ちた瞳でベックを応援する。
「これから時間はたっぷりあるわけですし、ゆっくり話していけば良いかと」
ここぞとばかりに、キャロルは首を縦に振る。この窮地を乗り切るためならどんなことでもするつもりだ。
「はぁ、まったく。相変わらず貴方はキャロルに甘いのですね、ベック」
額に手を当て溜息を吐くサーニャ。
「大事な妹分ですから」
この時ばかりは真剣な表情でサーニャを見るベック。
「私も怒りすぎて疲れました。続きは後日にしましょう」
今日の説教はおしまいとなり、サーニャは立ち上がると部屋から出ていった。
ベックは入り口まで行き、サーニャが出ていくのを見送る。
「た、助かった……」
ようやく足を崩すことができたキャロルだが、真の地獄はこれからだった。
「あうっ……足……感覚が……」
徐々に足に感覚が戻ってきたのだが、痺れが残っており苦しみ床を転がりベックの方に近付いていく。
「そうだ、せっかくだからキャロル。久しぶりに一緒に食事でも……」
そのタイミングで振り返ったベックは、ちょうどそこにあったキャロルの足を思いっきり踏んでしまった。
「あっ、すまない」
謝るベックとプルプルと震えるキャロル。
「ぎにゃああああああああああああああ」
次の瞬間、全身に痺れが広がったキャロルは悲鳴を上げていた。
ひたすら痺れに耐えるキャロルだが、
「クラウス、助けて」
思い浮かべた人物に助けを求めるのだった。




