第224話 数百年前から存在している祠
「はぁはぁはぁ」
メリッサとセリアの呼吸が乱れているのが聞こえる。
彼女たちは杖で地面を突きながら必死な顔で前に進んでいた。
「ま……まだ、着かないんですか?」
山に登り始めてから数時間が経過した。その間景色は変わらず、穏やかな風が吹いている。
「もう少しで半分といったところです。そこまで頑張りましょう」
シアンは笑みを浮かべるとまだまだ先が長い事実を二人に突きつけた。
俺たちは現在、水害があったトリリアン地域の調査のため現地に向かっているのだが、森林を直進するわけではなくなぜか山道を歩かされている。
冒険者として活動していたころも、ハーブ目当てでよく森にはいっていたのだが、その時以上に傾斜が厳しく地面がぬかるむ。
「正規のルートで森に向かう場合、途中で水没している場所があって通れないんですよ」
俺がそんなことを考えていると、いつの間にか近くにきていたシアンがまるで思考を読んだかのように理由を告げた。
『そうなのか?』
俺の肩に乗っているダキーニが疑問を口にする。
『あの辺りはいくらでも迂回ルートがあるはず。少なくともこんな山道を歩くよりは楽なはずなのだがな?』
ダキーニがそう呟くのだが、実際にその土地に住んでいた者の言葉の方が詳しいのではないだろうか?
ダキーニがそこまでいうので気になり迂回できそうなルートがないか確認してみると……。
「あの祠は何だ?」
木々の切れ目から湖とその中心に祠が立っているのが見えた。
「あれは数百年以上前から存在しているといわれる祠ですね」
ノックスさんが説明をしてくれた。
「かつて、サイラスは自然災害が多い……人が住むには厳しい場所でした。それらはすべて精霊の怒りともドラゴンの怒りとも言われていたのです」
ただ登山をしているのに飽きたのか、こんな状況だと言うのに体力に余裕があるようだ。
「あの祠に祀られているのは、自然を司るドラゴンで、過去には生贄を捧げた史実もあるとか……」
現代とは違い、当時の文明では自然災害は神や巨大な存在によるものとされてきた。
生贄を捧げることで鎮めるという話はステシアにも残っている。
「でも、種族によって崇める対象が違うんだから面白いですよね?」
歩きなれているからか、シアンも余裕があるようで会話に混ざってくる。
ガリウスさんはというと、立ち止まり腕を組み祠をみているのだが、特に会話に加わってくる様子もない。
「その者の正体は精霊ともドラゴンとも言われていますからね。結局どっちかわからず見た人たちが主張しあって崇める対象が分かれたみたいです」
「結構いい加減なんだな……」
俺たちがそんな会話をしていると、セリアとメリッサが追いついてきた。
「二人とも、水分補給しておけよ」
俺はマジックバッグから水筒を取り出すと二人に渡す。
「ありがとう。もう喉がからからよ」
「私もです。私は冒険者になれそうにありません」
一気に水筒をからにする二人。しばらく休憩ということで、俺は祠の歴史について二人に話して聞かせる。
「へぇ、古代の何かが封印されている祠ね……興味深いわ」
メリッサは興味を持ったのか、祠をまじまじと見続けた。
「調査が終わったら、あそこを見学することってできる?」
軽い気持ちでそう質問すると、
「と、とんでもありません‼︎‼︎」
シアンが過剰な反応を示した。
「シ、シアン?」
ここまでずっと笑みを絶やさなかっただけに、彼女の態度の変化に驚く。
「あっ、すみません」
シアンは声を落とすと、大声をあげてしまった理由を教えてくれた。
「あの場所は何人たりとも立ち入り禁止になっているんです。たとえ獣人やエルフであっても」
亜人族にとって神聖視されている場所ということらしく、メリッサはそこに気軽に触れてしまったようだ。
「そうだったの、ごめんなさいね」
それに気付いたからこそ、彼女は素直に謝った。
「いえ、気を付けていただければ大丈夫です」
メリッサが謝ると、落ち着きを取り戻したのかシアンは元の状態に戻る。
だが、一度変化した空気はそう簡単に元には戻らない。俺たちは会話も少なくなり祠を見ていると……。
『むぅ? あの祠の周辺、何やら不穏な臭いがする』
ダキーニは鼻をひくつかせそう言った。
「さあ、後は下り道なので、頑張って進みましょう!」
シアンの言葉で進軍を再開した俺たちは、トリリアン地域に足を踏み入れるのだった。
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