第223話 兎人族のシアン
翌日になると俺たちはエレオノーラさんが指定した待ち合わせ場所へと向かう。
外国の要人を護衛もなしに歩き回らせるわけにもいかないらしく護衛をつけてくれるとのこと。
「久しぶりですね、クラウス殿」
「お久し振りです、ノックスさん」
その内の一人はノックスさんだった。話しやすい相手ということもあってかホッとする。
彼は国際会議の時にエレオノーラさんの護衛でステシアを訪れており、よく話をした間柄だからだ。
「クラウス殿がきていると聞いて、急いで駆けつけた次第です」
ただ問題は、彼は俺のことを崇拝している様子なので、こういう視線を向けられるのが気まずい。
「それで、ネージュ様はどちらに?」
彼はキョロキョロとネージュを探しながら俺に質問をする。
「ネージュは今回はお留守番です」
「そ……そうですか。あの神々しく眠る姿を拝むことができないのは残念です……」
屋敷でいつも俺の膝の上で寝ているのでありがたみがないが、ノックスさんにはネージュが寝ている姿がとても凄いことのようだ。
「ノックス、そこまでにしておきなさい」
息を吐く暇もないノックスさんの勢いに引いていると、エレオノーラさんがそれを止めてくれる。
次に自己紹介をするように促されると、
「俺はガリウス。狼人族の戦士だ。現地までの護衛を担当させてもらう」
先程から黙り込んでいた男性が挨拶をする。
彼は狼人族の戦士のガリウスさん。大型のサーベルを背中に身につけている。
キャロルとは違うやや硬そうな毛並みのケモミミを持ち、鋭い目をしている。犬歯がのぞいており、あまり喋らないことから寡黙な男という印象を受けた。
「よろしくお願いします。こちらで雇っていた護衛が使えなくなって困っていたので……」
キャロルがいなくなってしまったので、万が一を考えると戦える人間が多いに越したことはない。
「俺たち狼人族はこの森を誰よりも熟知している。安全は保障してやるから安心しろ」
獣人は身体能力が高いので頼もしい。
『ふん、我には勝てぬがな』
ダキーニが対抗意識を燃やしていた。
「メリッサ・デ・シルバーフォード。ステシア王国伯爵家の娘で魔導師よ」
「セリアです。クラウスの妹で魔導師です」
二人が挨拶すると全員の自己紹介が終わる。
「調査メンバーはこれだけですか?」
随分少数だと思うが、ノックスさんが先導してくれるのかと考えエレオノーラさんに聞くのだが……。
「あと一人いるんだけど、まだ来てないのよ」
そんなことを言っていると、遠くから大勢の人間が現れた。
「きた……」
エレオノーラさんが不機嫌な顔をしている。
「皆さーん。私これから仕事なので失礼しますね〜」
後ろの大勢に対し愛想を振り撒き手を振る兎人族の少女がいる。
彼女は獣人たちに別れを告げるとこちらへと合流してきた。
「遅いわよ、シアン!」
「ごめんなさい、急なドタバタがあって出るのが遅れてしまったのでぇ〜」
彼女は軽い口調でエレオノーラさんに謝った。
即座に切り替えた彼女は俺たちの前に立つと自己紹介をする。
「私は兎人族のシアンです。今回、現地までの案内役を申しつかってます。よろしくお願いしますね」
そう言ってウインクをしてみせる。自分の魅力を自覚しているようで、とても可愛らしい仕草だった。
「俺はクラウスだ。よろしくな」
返事をすると、シアンは手を差し出し握手をし顔を近付けてくる。
「クラウスさんって、サイラスにとって重要な人物なんですよね?」
どうやら俺のプロフィールを知っているらしく、瞳を輝かせて聞いてくる。あまりの距離の近さに彼女の体温が感じられるのだが、ここで引くと嫌がっていると思われないか心配になり止まった。
「まあ、一応貴族位を賜ってはいる」
結局、無難な返事をするのだがシアンは下がるつもりはなさそうだ。
セリア以外の女性とここまで密着する機会がないので気まずさを覚えていると……。
「機嫌を損ねたら責任が取れないくらいに大事な相手だから、あんたも注意しなさい」
エレオノーラさんが険しい顔でシアンを睨む。
「えー、クラウスさんは私のことお嫌いですかぁ?」
「いや、そんなことはないぞ」
俺が咄嗟に返事をすると「ほらぁ〜」とエレオノーラさんに答えるシアン。
これまで見たことがない独特な女性の振る舞いに俺は戸惑いを覚える。
「これ以上は怒られちゃいそうなので離れますね」
シアンは俺の耳元で囁くと距離を取ってくれた。彼女の熱が離れ、自分のパーソナルスペースを確保した俺は息を吐く。
「兄さん、早く行くべきではないですか?」
「そうね、さっさと向かいましょう!」
セリアとメリッサがそう声を掛けてきた。
セリアは頬をふっくらと膨らませている。
『まったく、どの種族も女は強いものだな』
ダキーニがボソリと呟く。
「それじゃ、このメンバーで行ってきてちょうだい」
エレオノーラさんは溜息を吐くと投げやりな言葉で俺たちを調査へと送り出すのだった。




