第218話 サイリーンに到着
「仕立てが終わるのが楽しみです」
街で一泊してから翌日に出発した。
セリアは楽しそうに先日選んだ布から着物が出来上がるのを楽しみにしていた。
「結局、俺に支払わせてくれなかったし……」
今回、ギリギリ手持ちで足りたらしく、セリアは着物代を自分で支払ってしまった。それが俺にはどうにも不満だった。
「一体、どんな柄を選んだんだ?」
「えへへへ、出来上がるまで内緒です」
セリアはそう言って笑顔を返す。
「着物は完成次第サイリーンの私たちの宿泊先に届けてもらうことになっているわ」
仕立てるまで数日掛かるらしく、完成したら俺たちが滞在する宿まで持ってきてくれるように手配していた。
「そっか、セリアの着物姿楽しみだな」
赤い布だろうか? それとも桃の布だろうか? どのような柄を使っているのだろうか?
色々想像が膨らむが、どんな着物を着たとしても似合うに違いない。
『ふむ、服など暖を取るためだけのものだと思うのだが、人間とは不思議なものだな?』
ダキーニは不思議そうに首を傾げる。
先程から俺の膝の上でゴロゴロと転がっているので非常に気が散る。
『うにゃにゃ、もっと撫でるのだ』
仰向けになったダキーニの腹を撫でると手のひらに暖かさが伝わってきた。
(この毛皮があれば確かに服はいらないのかもな)
話題を変えた二人が楽しそうに話すのを見ながら、俺はダキーニの毛皮を堪能するのだった。
ダキーニが同行するようになってから数日が経過し、俺たちはようやくサイラスの第一都市サイリーンへと到着した。
「ようやく……サイリーンに着いたな」
これまでの日程で結構疲れた。それというのも、メリッサやセリアやキャロルと会話している間もダキーニが気を散らしてくるからだ。
「何であんたはそんなに疲れてるのよ?」
そのお蔭で意識が分散してしまい、話し掛けられ続けた結果精神的疲労が溜まったのだ。
「馬車酔いしましたか? もしよければ肩をお貸ししますけど?」
俺が黙り込んでいると、酔って気分が優れないのだと判断したセリアが優しい提案をしてくる。
「いや、大丈夫。ちょっと憑かれてるだけだから」
他人には見えないという点ではあっている。俺がそう返事をすると大通りに視線を向けた。
「それにしても、本当に多種多様な種族が住んでいるんですね」
目につくのはエルフやドワーフや獣人たち。キャロルと同じ猫人族や犬人族。他には兎人族など珍しい種族の者まで存在している。
「人族が少ないな」
サイラスは人族と亜人族の混成国家だと聞いていたので、比率的には半々かと思っていたのだが行き交う人の九割が亜人だ。
「サイリーンは亜人のために作られた街だからね。大半の人族は第二都市のサイリムに住んでいるのよ」
俺の言葉が聞こえていたのか、メリッサがそう告げる。
「一体どうしてこことサイリムでは人口比率が違うんだ?」
なぜ第一都市と第二都市で棲み分けているのかが気になり聞いてみる。
「どうしてかというと、文化の違いというやつね」
彼女は馬車から街並みを見ると告げる。
「亜人は女神信仰ではなく、精霊だったりドラゴンを信仰しているから、女神を信仰する人族と生活模様が全然違うのよ」
「確かに、ここにくるまでの間、私たちの街や辺境の村みたいな不便な場所が多かったですよね」
精霊信仰の場合、自然を大切にしなければならず、木々の伐採にも厳しいルールが存在している。
ドラゴン信仰の場合、狩りにも厳しいルールが存在している。
それぞれの生活様式が違っているので、都市を分けて棲み分けしているということらしい。
「その分、人族には扱えない技術の宝庫よ。エルフは魔導具の扱いに長けているし、ドワーフは鍛冶・工芸に優れているし、獣人は狩りや素材集めが得意だし」
獣人の中には素材集めが得意な者もいるらしく、ダンジョンや森で素材を集めてくるらしい。
各部族の特徴を生かした国家経営こそがサイラスの強みなのだ。
『ふむ、昔はやつらは争っていたのだが、しばらく見ない間に随分と仲良くなったのだな?』
俺の頭によじ登り、サイリーンの光景を見たダキーニはポツリと感想を口にする。
「そうなのか?」
俺がそんなダキーニに小声で聞き返すと、
『我が昔にここを訪れた時は小さな集落が点在するだけだったのだ。獣人の部族同士の仲も悪く、排他的だったのを覚えている』
ダキーニの言う昔がどれくらい前の話なのかが気になったが、相当古いのは確かだろう。
「兄さん?」
黙り込んでしまった俺にセリアが首を傾げる。
「いや、これだけ多種族がいるのに平和そうだなと思って……」
ダキーニの呟きが頭に残っていたせいで咄嗟にそう言ってしまった。
「今でこそ部族同士手を取り合ってますが、二百年前は各部族が争っていたんですよ」
セリアはサイラスの歴史について語り始めた。
「そうなのか?」
ダキーニの言葉とも一致している。
「うん、セリアの言う通り。昔は各部族がそれぞれ好きな場所で生活していた」
キャロルが頷く。どうやら人族との争いについては知っているらしい。
「だとすると、どうして様々な種族が存在する混成国家が出来上がったんだ?」
それだけ仲が悪ければ拗れそうなものだが、敵対する相手と手を取り合うに至った経緯が気になった。
「今はそうでもないらしいのですが、サイラスは全体的に地形が安定しておらず、自然災害が多い国だったんです。そのせいでよく村や集落などに被害が出て、部族が滅亡しかけたこともあるとか」
食糧や獲物が不足することもあり、それらを巡って争いが起きていたのだという。
「当時はそれらが精霊やドラゴンの怒りに触れたからという噂もあったわね。その名残で亜人には精霊信仰やドラゴン信仰が残っているのよ」
メリッサが宗教の歴史について触れている。
『うむ、敬うのは良きことである。供物を捧げるとなおよし』
俺の肩によじ登った状態でダキーニが頷く。最近は俺の食事を勝手に食っているのだが偉そうだ。
「へぇ、よくそこから立ち直ったものだな」
そのような災害があると復旧には時間がかかる。特に少人数での復興となると厳しいのではなかろうか?
「当時、サイラスを治めていた国王が各部族に提案したんだそうです『諍いを止めて協力しないか?』と」
セリアはどのような提案があったのかについて教えてくれた。
「最初はどの部族も反発した。だけど、このままでは遠からず滅びると考え承諾した」
キャロルが当時の状況を語る。
「当時のサイラス国王は人族が権利を握る王政を廃し、いち早く協力を申し出た六種族の代表を集めて長老会を結成したんです。それ以来、サイラスでは各部族の代表が話し合いをすることで様々なことが決定されています」
それが行われているのがこの第一都市サイリーンで、各部族の中心地にあり、当時ここに首都を移したのだという。
「その日から災害が治まりサイラスは繁栄するようになった」
話を聞き終えた俺は、サイラスもこれまで大変な歴史を乗り越えてきたのだなと感心する。
それと同時に、ステシアの状況を思い浮かべると明るい未来を想像してしまった。
「兄さん、どうしたのですか?」
そんな俺を見て、セリアが首を傾げる。
「いや、サイラスの国民と部族の人間が二百年前は争っていたと言っただろ?」
「はい」
「それが今ではこうして仲良くなり国を運営している。それを知ることができて嬉しいんだ」
「どうしてよ?」
メリッサが質問をする。
「ステシア王国がテイマーの存在を認めてから百年。最初は忌避される存在だったモンスターが次第に認められてきた」
「ええそうね。クラウスの存在も相まって、反対派の貴族も黙るしかなくなってきてるわよね」
「今はまだ反対派も存在しているし、従魔という存在が国民や他の国に浸透していない」
「兄さんは何が言いたいのですか?」
「俺たちの頑張り次第で百年後は人とモンスターが当たり前のように一緒に暮らしている世界があるんじゃないかと思ってな」
人族と亜人族が分かり合えたように、人とモンスターが共存する世界が広がっているのではないか?
「それは素敵な未来ね」
「ええ、是非見てみたい光景です」
「クラウスなら実現できると信じてる」
三人は俺の言葉に同意してくれた。




