第212話 寄り道の提案
しばらく馬車を走らせていると、メリッサが御者台に顔を出しキャロルに指示を出した。
「次の分岐だけどこっちの道を進んでちょうだい」
彼女はそう告げると、サイラスの首都までの最短ルートではなく違う道を通ると言い出したのだ。
「別に構わないけど、こっちは遠回りだぞ?」
地図で見るとどちらもサイラスの第一都市サイリーンに行き着くのだが、メリッサが指示したルートは半日余計に時間が掛かる旧道だ。
「こっちの道の途中にある街で売っている反物をロレインが欲しがっているのよ」
メリッサは迂回する理由を告げる。
「反物……ですか?」
セリアが首を傾げる。わざわざ布地を買うために遠回りをすることにピンとこなかったからだ。
「何でも、特殊な糸を紡いで特殊な技法で編まれてる布地らしくてね、ここでしか取り扱ってないのよ」
「へぇ、そんなのがあるんですか?」
「サイラスは様々な種族が住んでいる国だからね。それぞれの種族の特産品が沢山存在しているのよ」
流石はロレインだ。他国の希少な品についても詳しいらしい。
「だったら、俺もオリビア様への土産に買っておこうかな」
出発前、わざわざ見送りにきてくれた彼女の姿を思い出す。
今回のサイラス旅行の間、俺の仕事を見てくれているのも彼女だし、何かしら御礼は必要だろう。
「あんた、王女様に市販品を贈るつもりなの?」
ところが、俺の呟きにメリッサは反応すると呆れた目で見てきた。王族相手に安物で済ませるのかと物語っている。
「あの人、わりと可愛い物が好きなんだよ」
お忍びで一緒に行動した際も可愛い物に心を奪われている姿を見ている。普段は綺麗なドレスや宝石で着飾っているだけに、たまにはこういう贈り物も悪くないのではないかと思う。
「セリアも買ってもらうといいわよ」
俺がそんなことを考えていると、メリッサはセリアに話題を振る。
「自分のお金がありますから」
セリアはそう言って遠慮する。以前バイトをしていたのでそのお金があるのは知っているが、それだけでは足りないだろう。
「クラウスは世界有数の金持ちなんだから、遠慮しないの」
そこで気付く。メリッサは俺のフォローをしているのだと。
「メリッサの言う通りだ。せっかくの旅行なんだから兄にいい格好をさせてくれ」
セリアは遠慮がちな性格なので、たとえ俺が大金を持っていると知っていても素直に買って欲しいとは言えないのだ。こちらから強引にでも提案する必要があった。
「……わかりました、それじゃあ気に入ったのがあったらお願いする……かも?」
セリアは不承不承そう返事をした。
「ちなみに、私にも奢ってくれていいからね?」
「……まあいいけど」
ちゃっかり乗っかろうとするメリッサを俺はじっとりした目で見るのだった。




