第211話 音の正体は……
「まったく、紛らわしいことしないでくださいよ」
誤解が解け、溜息を吐くとセリアの説教から解放された。
「うっ……ごめん」
メリッサも自分の言葉足らずを自覚しているからか、素直にセリアに謝る。
「メリッサさんは淑女なんですから、異性を気軽に部屋に呼ぶのはまずいんですからね」
普段と立場が逆転している。
俺は二人が話をする間に、メッセージの内容を確認しようと身分証を取り出す。どうやらシャーロットからのようだ。
「でも、音がしたのって本当なの?」
「あんたまで疑うわけ? 本当にあの辺から音がしたんだって!」
シャーロットからは「一日一度、従魔の状況を報告させていただきますね」と言ってもらっており、時間からしてその報告だと思った。
「んー? 気配のようなものはない?」
「ちゃんと見て! 絶対何かいるはずだから!」
メリッサとキャロルの会話を聞きながら俺はメッセージを読み上げる。
内容は謝罪から始まっており、切羽詰まっている様子が綴られ、最後には流すことのできない内容が書かれていた。
「兄さん、どうしたんですか?」
俺の表情が変わったのを見てセリアが心配そうに話し掛けてくる。
「ロックが……食べられたって」
「えっ?」
メッセージには、ロックの姿が見当たらず敷地を探し回ったところ宝玉が転がっていたのだという。その場にはスクワールしかいなかったので、スクワールがロックを食べてしまった可能性があるとか……。
「ロックちゃんを食べるって冗談ですよね?」
にわかには信じられない内容だが、シャーロットも気が動転しているのだろう。
「少なくとも行方不明なのは間違いない」
「大変じゃないですかっ!」
せっかくの旅行だというのに、このような問題が起きては気が気ではない。
俺とセリアが引き返すべきか悩んでいると……。
「ああああああああああーーーっ!」
メリッサが叫び声を上げた。
「クラウス、来てっ!」
「何だよ?」
焦り声を上げて俺を呼ぶメリッサ。こっちはそれどころではないのだが、ひとまずセリアとともに近付く。
彼女が指差したのは木箱で、たしかシャーロットがメリッサに贈った化粧品が入っているのだとか。
そのような代物に興味はないのだが、言われるままに覗き込むと……。
『…………(楽)』
そこにはスクワールに食べられてしまったはずのロックがおり、元気に手を振っていた。
「まったく、反省しなさいよね?」
『…………(反省)』
メリッサの膝の上に立ち、右手を彼女の腕に置くとロックは反省のポーズをとった。
「まさかロックが荷物に紛れ込んでいるとはな……」
スクワールから逃げていたロックが、まさかシャーロットが贈った木箱に潜んでいるとは思わなかった。
「結局、戻るわけにもいかないから連れてくるしかなかったな」
往復二日ともなると、旅行の日程がすべて台無しになるので皆の合意を得て連れていくこととなった。
「シャーロットには悪いことをした」
彼女のメッセージからは後悔と申し訳なさが存分に伝わってきた。
散々屋敷中を探し回った末の結論だったのだろう。スクワールがロックを食べたと思い込み、罪悪感にかられながらメッセージを書いたに違いない。
そんな彼女には「ロックがこっちにきている。荷物に紛れ込んだ模様」と伝えてある。
その時の彼女の返事は、本当にホッとした様子が伝わってきた。
「お前、もっと反省しろよ?」
『…………(猛省)』
せめて彼女の心労の分怒らなければと考え、ロックを叱りつける。
「まあでも、無事でよかったじゃないですか」
そんなロックをセリアがフォローする。
「本当に食べられたのかと思って血の気が引いたんだけどな……」
ロックの身体は鉱石でできているのでかじっても硬いだけなのだが、スクワールの目の輝きをみると可能性を否定できずにいた。
「まあ、あれはあれで良い旅の思い出でしたよね」
セリアは口元に手を当てるとクスリと笑う。
急なハプニングだが、メリッサが取り乱す姿は貴重なので笑い話にすることもできるだろう。
「……言ってなさい」
恥ずかしかったからか、メリッサが俺たちを睨みつける。
俺たちはロックをいじりながら談笑するのだった。




