第206話 SSランク魔導具『精霊王の指輪』
場所を移動して店の裏に入る。
彼女の居住区兼研究所らしく、ベッドと大鍋が同じ部屋にある。
足元には書物や書類などが散らばっており、彼女が魔導具以外に無関心だということがわかった。
「それで、相談って何かな?」
彼女はベッドに腰掛けるとそう質問をする。
俺たちは正面の椅子に座っているのだが、王族をこの部屋に通す勇気が凄いと思ってしまった。
「最近、この国の者がダンジョンを攻略したという話は聞いているでしょう?」
「うん。流石の私もそれくらいは知ってるよ」
あっけらかんと笑うテリーヌさん。
「それを攻略したのが彼です」
オリビア王女はあっさりとそう告げる。
「まじで⁉︎」
途端に態度を変えたテリーヌさんはベッドから腰を浮かせ俺に迫ってきた。
「ということは、色んな魔導具をたんまりとゲットしたってことだよね? さっき支払ってくれた金貨ももしかしてその時の収入で? ダンジョン内ってどうだった? 古代文明の即死トラップとか体験してみたかったんだよね、壁の強度は? モンスターが召喚される魔法陣の形は? それとーー」
「落ち着きなさい」
「ゲフッ!」
オリビア王女は立てかけていた杖でテリーヌさんのお腹を突くと俺から引き剥がした。
「クラウスが困っているでしょう?」
「うぐぐぐぐ、酷い。暴力王女!」
お腹を抑えてそう叫ぶテリーヌさん。
「まったく、お嫁に行けない身体になったらどう責任を取ってくれるのさ?」
「知りませんよ!」
やはりこの二人は仲が良い。オリビア王女も城にいる時よりいきいきしている。
「それで、ルミナス男爵、見せてもらうの……駄目?」
突然、テリーヌさんは俺の方を向くと上目遣いで見てきた。オリビア王女から折檻を受けたのにまったくめげていない。
「あまり持ち歩いてないので、今日はこれしか……」
『箱庭』や『転移の腕輪』を見せるわけにいかないので、違う魔導具を取り出してみせる。
「これって何ていう魔導具?」
「『精霊王の指輪』ですよ」
俺は彼女の質問に答えた。
「実は、これだけは効果がよくわかってないんですよ」
それだけに、何かヒントのようなものがもらえればと思い聞いてみた。
「ちょっと貸してみて」
テリーヌさんは俺から精霊王の指輪を受け取ると、鑑定を始めた。
「多分だけど、これって魔力を精霊力に変換しているんだと思う」
「「精霊力?」」
聞き覚えのない言葉に、俺とオリビア王女は首を傾げた。
「エルフが精霊を信仰しているのは知ってるよね?」
俺は頷く。最近エレオノーラさんやタバサさんやノックスさんなど、エルフとかかわりがあるからだ。
「素質がある人には精霊が見えるらしいんだけど、ほとんどの人は精霊の姿をみることができない。それこそ、本当に存在してるのか疑われるレベルでね」
テリーヌさんは指をピッと立てると説明を続ける。
「この指輪は魔力を精霊力に変換することで、精霊に出会える力を持っているんだと私は思うんだよ」
「でも、嵌めてみても何ともなかったですよ?」
屋敷で嵌めた時は何も起こらず魔力が吸われ疲労だけが溜まってしまった。
「精霊はどこにでもいるもんじゃないしね。多分、自然が豊かな場所じゃないと駄目だと思うよ?」
彼女は「それこそサイラスみたいなね」と告げる。指輪を返してもらい、改めて要件を切り出す。
「実はダンジョンで手に入れた魔導具の防犯を強化したいんですけど」
「ふむ、ダンジョン攻略者ともなると色々不安だよね。主に泥棒とか」
俺は彼女の言葉を肯定する。
「ただ防犯を強化すればいいわけではなくて、たとえ盗まれてもどうにかできる方法が必要なのです」
オリビア王女がここにきた目的を告げる。
「何か良い方法はないでしょうか?」
俺たちは彼女の知識を頼りに質問をするのだが……。
「うーん、あるよ!」
「あるんですか⁉︎」
あっさりと答えるテリーヌさんに俺たちは驚いた。
「付与魔法はわかるよね?」
「魔法を触媒に付与する方法ですよね?」
一般的な魔導具に使われている技術だ。
「そそ、自分が習得している魔法を触媒に付与することで魔導具化する。そうすることで、魔法が使えない人でも日常で魔法の恩恵を受けることができるの」
テリーヌさんは基本情報を俺たちに伝える。
貴族や富豪は水を作成する魔導具や火を起こす魔導具などを購入しているので身近な存在と言える。
「ルミナス男爵の相談に相応しい付与魔法があるんだよ」
「それはどのような魔法なのですか?」
もったいぶるテリーヌさんにオリビア王女が質問する。
「物体を取り寄せる魔法『アポーツ』」
テリーヌさんは説明を続ける。
「古代文明の魔法でアイテム限定の転移魔法だね」
転移魔法と聞いて驚く。現代でも伝説となっている魔法だったからだ。
「この魔法は付与したアイテムを持ち主の手元に引き寄せることができるの。これを付与すれば、たとえ盗難にあったとしても即座に取り戻すことができるんじゃないかな?」
確かに、それならば今の懸念が大体解決する。
「それ、テリーヌさんが使えるんですか?」
俺が質問をすると、彼女は人差し指を立て「チッチッチ」と言った。
自信満々な態度をとる彼女に期待が高まる。
「勿論、使えるわけがないんだよ」
俺とオリビア王女は脱力する。
「それでは意味がないではありませんか?」
ここまで話しておいてぬか喜びもいいところだ。
「でも実在はしているし、使える人がいる場所も知っているんだよ!」
「それは?」
使い手がわかるだけでもありがたい。俺たちは彼女の言葉に耳を傾ける。
「サイラス王国にいる付与魔導師だよ」
彼女は使い手の居場所を教えてくれた。
「でも、この魔法を付与してもらうためにはサイラスまで出向かないといけないし、エルフに伝手がないと付与を頼むこともできないからちょっと実現させるの難しいかも?」
俺とオリビア王女はテリーヌさんが何か言ってるのを聞き流すと……。
「それって、クラウスが今回旅行で行く場所よね?」
「ええ、エルフの伝手もあります」
非常に都合が良いことに、伝手と行く用事の両方が揃っているのだった。




