第205話 危険な魔導具
店内に入ると暗幕のせいで薄暗い室内が見える。
錬金術もそうなのだが、素材の中には日光に弱い物があるらしく、保管のために薄暗くしているのだという。
言うだけあってか、棚には様々な魔導具が所狭しと並べられている。
この量はもしかするとエドワードさんの店にも引けを取らないのではないだろうか?
「凄い数の魔導具ですね」
俺がポツリと感想を口にすると、
「ありがとう。半分くらいは私が作った魔導具なんだよ」
俺が魔導具に感心していると、彼女は嬉しそうに返事をした。
「これを……テリーヌさんが作ったんですか?」
現在、世に出回っている魔導具のほとんどがダンジョンや移籍で発掘されたものだ。実際に魔導具を製作できる人間は少ない。
「彼女はふざけた性格をしていますが、ステシア始まって以来の天才魔技師なのです」
「王女様。ふざけた性格は余計じゃない?」
彼女はムッとした表情を浮かべるとオリビア王女に言い返す。
「貴女が爆発騒ぎを起こすたび、誰がフォローしてきたと思っているのですか? 近隣の店からも苦情が来ているのですよ?」
迷惑をかけられているからか、オリビア王女はテリーヌさんを睨みつけた。
「魔導具をいじる実験には失敗がつきものとも言いますし……」
「それだ!」
俺がフォローを入れると彼女は食いついた。
「にしても限度があると思いますが?」
実際に被害を被っている彼女の視線は冷たかった。
「そうだ、ルミナス男爵。この魔導具とかどう?」
テリーヌさんは誤魔化すように俺にとある魔導具を見せてきた。
「これは?」
「これはね、中に入れたものを温める魔導具なんだ」
箱型の魔導具で中に魔石と魔法陣が刻まれている。
「普通に便利そうじゃないですか?」
持ち運びに難があるものの、家で冷めた料理を温めなおしたい時などに使えそうだ。
「問題は、時々爆発することかな?」
「いりません!」
俺がそう返事をすると、彼女は元の棚に魔導具を戻す。そして別の魔導具を持ってきた。
「こっちはどう?」
「これは?」
今度はコップのような魔導具だ。底に魔石と魔法陣が刻まれている。
「これは冷やす魔導具だね。中に入れた液体を冷たくしてくれるの」
「これなら野外で活動する時にも重宝しますね」
ちゃんとした魔導具もあるではないかと感心していると……。
「時間が経つと爆発します」
「どうして⁉︎」
彼女の説明に驚愕してしまう。
「新しく魔導具を作るには魔法陣を解析して描き直す必要があるんだけどさ……」
彼女は唐突に説明を始めた。
「解析して作り直した魔法陣だととりあえず爆発機能がついちゃってるんだよね」
「ということは……?」
「うん、この場の半分は衝撃で爆発するから気を付けてね」
「オリビア様、俺の傍から離れないでください」
「ええ、お願いしますね」
危険地帯に足を踏み入れてしまったことを認識すると、俺たちは警戒心を呼び起こした。
「だ、大丈夫だよ! 魔力を補充してないから爆発するにしても本当に小規模だし!」
テリーヌさんはそう言い訳するが、彼女がいう小規模という言葉にまったく説得力がない。
「それに、爆発しない魔導具だって最近開発したし!」
進歩しているのだと言いたげに彼女は俺の前に一つの物を持ってきた。
彼女が差し出してきたのは目がチカチカする程の輝きを放つ首飾りだった。
色とりどりの様々な宝石が散りばめられており、俺がダンジョンで入手した宝石にも見劣りしない。
「これが……ですか?」
これまでと毛色が違う魔導具に興味が出る。
オリビア王女も俺を盾にしながら肩越しにそれを覗き込んでいた。
「触ってみてよ」
テリーヌさんがそう促す。先程までの話を聞いてしまうと尻込みするのだが、流石に危険はないだろう。
俺が装飾に触れると……。
「これは⁉︎」
「どうしたのですか、クラウス?」
「ただの……石になった?」
先程までの豪華な首飾りではなく、なんの変哲もない石になってしまっていた。
「これはね、ダンジョントラップのミミックの魔法陣を解析して作った魔導具なの」
俺たちが驚いているとテリーヌさんは自慢したくてしょうがないという様子でネタバラシをしてくれた。
「触媒に魔法陣を刻んで魔力を流すと、様々な形態に姿を変えて相手を騙すの。んで実際に触れたら効果が解除されてただの石みたいに見えるの」
これ自体が触媒となっているらしい。
「これなら、従魔へのおもちゃにいいんじゃないかな?」
好感触だと思ったのか、テリーヌさんはこれを売り込み始めた。
「確かに、面白い」
慣れてしまえば子供騙しなのだが、宝石に興味津々なロックは夢中になりそうだ。
「でもねぇ〜」
俺が興味を持つとテリーヌさんはキラリと目を輝かせた。
「これ一個作るのに二週間かかったんだよね〜」
彼女はこちらをチラリと見ると言葉を続ける。
「しかも、かなりの魔力が必要だったし大変だったんだよ」
「……つまり、何が言いたいんですか?」
俺は続を促す。
「結構な金額になるってこと」
「一点物の魔導具が高いのは当たり前なので問題ないですよ」
ユグドラ帝国からオリハルコン王札で支払ってもらっているし、他の宝飾類も四国で買い取ってもらっている。懐事情にはかなり余裕があるのだ。
「うん、貴族様ははぶりがいいね。それじゃあ金貨二十枚でどう?」
「わかりました」
「えっ? 本当に?」
俺が即決すると目を丸くして驚くテリーヌさん。
「しまった……もう少し吹っ掛けてもよかったんだ……。今から二十二枚とか言ったら駄目かな?」
ボソリと内心の声を漏らす。
「駄目に決まっているでしょう」
オリビア王女がツッコミを入れる。
「じょ、冗談だよ〜」
冷や汗を垂らし言い訳をするテリーヌさん。
「そんなに生活が厳しいのなら、今からでも宮廷魔導師に戻ったらどうですか?」
「ええ〜。いまから末席から始めるのとか無理。後輩や先輩にいじめられる」
おそらく、やりたい放題だったのだろう。テリーヌさんはとても嫌そうな顔で断った。
「それじゃあ、こちらが料金です」
早速魔導具の代金を支払うことにする。
「ありがとう、ルミナス男爵。これで新しい魔導具の研究ができるよ」
俺から大金をせしめたテリーヌさんは目に金貨を浮かべながら礼を言ってきた。
「そろそろ本題に入らせていただいてよろしいでしょうか?」
買い物が終わると、不機嫌な様子でオリビア王女が話し掛けてきた。
「私がルミナス男爵を連れてきたのは、貴女の店の売り上げに貢献させるためではありません」
流れで面白い魔導具を見つけたのでつい購入してしまったが、そもそもここには相談にきたのだということを思い出す。
「うん、買い物をしてくれたしルミナス男爵のお願いなら何でも聞いちゃうよ」
買い物は無駄ではなかったらしく、テリーヌさんは上機嫌で答えた。




