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ドレスの下には短剣を  作者: こじまき
隻眼の大尉

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6/62

通り魔事件のあと、部隊配属直後の平和な日々が嘘のように事件が多発する。強盗、傷害、殺人、放火、シュミール様が情報を掴んできた違法な武器や薬物の取引などなど。休日返上で働いているので、レオ様…レオにもずっと会えていない。毎週会うという約束をしているわけではないし、仕事が入って行けないこともあると伝えているので怒ってはいないと思うが、気になる。それに、私も彼に会えないのが寂しい。


「新人、もう袋はいらないのか?」

「はい」

「早かったな」


初めて人間の遺体を見たときは、その場で吐いてしまった。あらかじめ袋を渡されていたので現場は汚さずに済んだが、間に合わないかと思うくらいすぐにこみあげてきた。それからいくつかの遺体を見て、今はもう相当腐っていなければ袋なしで過ごせる。


「それにしても、なぜこんな格好に」


今回の殺人事件の被害者は、首を折られた上、なぜか服を全て脱がされ裸で家の前に放置されていた。隣人が発見して通報してきたのだ。


発見者の隣人から、被害者は陸軍所属のライル軍曹だと聞いて、チラリとレオ様…じゃなくレオのことが頭に浮かぶ。もしかしたら知り合いかも。仲間が殺されたと知ったら悲しむだろう。


「陸軍の軍曹か。確かに鍛えられた体をしているな」とロナルド様。裸だからよくわかる。身体中に傷があるし、前線で戦ってきた勇士だろう。「こんな軍人の首を折るなんて、相手も相当鍛えていないと」とリロイ。調べ終わった班長が「被害者は油断しているところを後ろから襲われ、素手で首を折られたんだな」と推測する。


「そんなことができるのは同僚じゃないですか。知り合いだからって油断しているところを襲ったのかも」

「かもな。敵の首を折る訓練も受けるし」


「ひとまず同僚を調べるところからですね」と、ロナルド様とリロイが同僚たちに話を聞き始めたが、まったくもって犯人の目星がつかない。同僚の誰もが「被害者は勇敢で人柄も良かった。心から残念だ」と答え、目立ったトラブルの記録もなく、仲間に殺される理由が見当たらないのだ。


同僚調べでは埒があかず、班長と私は被害者の家で手がかりを探す。


「班長、机に隠し引き出しがあります」

「鍵は?これか」


引き出しを開けてみると、小さな箱が見つかった。箱の鍵は見当たらない。こんなところに隠しておくほど大事なものなら、鍵は軍曹が肌身離さず持っていたのかも。軍曹の服や身につけていたものは見つかっていないから、鍵も行方不明だ。「開けられないですね」と振ってみると、カサカサと音がする。入っているのは紙類のようだ。


「持って帰って、シュミールにピッキングさせよう」

「シュミール様って何でもできますね」


箱を詰所に持ち帰ってシュミール様にピッキングしてもらう。通りがかった郵便係のパーネルおじいちゃんもシュミール様の手際を覗き込んで「大したもんだ」と感心した声を出す。確かにすごい。ほんの数秒でカチャリと音がして箱が空き、中からは手紙が出てきた。厳重に隠されていた、恋人からの手紙。それを読んで「憎悪犯罪かもしれない」と気づく。


被害者の恋人は男性だった。被害者は同性愛者だったのだ。世間一般でもまだ偏見は残っているが、軍の中ではさらに偏見が根強い。同性愛者だとわかれば身体的、精神的な嫌がらせを受け、除隊に追い込まれることすらあると聞く。班長も「同性愛者に対する憎悪犯罪の線が濃厚だな」と、被害者が同性愛者であることを知っていた人物を探し出すことにした。班長と私は手紙を出した恋人に話を聞きに行く。ロナルド様、シュミール様、リロイは同じ小隊の同僚が彼の秘密を知っていたか探っている。


「時間をとってくれてありがとう」

「いいえ、ライルのことでしたら」

「かなり親しくしていたそうだね」

「はい」

「友人以上に」


ライル軍曹の恋人だったエズワルドさんは、班長の質問に答えない。「ライル軍曹のご自宅で、あなたからの手紙を見つけたのです」と私が付け加えると、ようやく「ええ、恋人でした」と答えた。


「君たちの関係を知っていたものはいるかな」

「それが事件と関係が?」

「同性愛者への憎悪犯罪ではないかと見ている。遺体は裸にされて、人目につきやすいところに置かれていたんだ。見せしめのように」


エズワルドさんは唇を噛みしめ、「同じ小隊の男に知られたと言っていました。軍を辞めろと脅されたけれど、辞めるつもりはないとも言っていました」と絞り出す。


「名前はわかるか」

「マックと呼んでいました」


「こんなことになるなら、話を聞いたときに辞めさせれば良かった。あんな素晴らしい人が」とエズワルドさんの目から涙が溢れる。


「エズワルドさん、本当に残念です。犯人を捕まえてみせます」

「お願いします」


「マック」と呼ばれているマッケナ一等兵に話を聞くが、彼は口を割らない。けれど一回目にライル軍曹について話を聞いたときとは明らかに態度が違う。


「黒だ」

「でも何も証拠がありません」

「シュミール!何かないのか」

「僕は万能な魔法使いじゃないんですよ。何も情報はあがってきてないです」

「とにかく奴から目を離すな」


捜査が膠着状態のまま休日の火曜日がやってきた。いつもなら休日返上になりそうなところだけど、今回は休みをもらえた。事件が手詰まりなので、リフレッシュして視点を変えるためでもあるらしい。


リリナに「久しぶりに可愛い髪型にできるのが嬉しい」と言われながら支度をしてもらう。レオに会うから、可愛くしてもらえるのは素直に嬉しい。今日は髪に編み込みを入れて低い位置でアップに、服はレースをふんだんにあしらったドレスだ。


カフェに行くと、レオはもう来ていた。開口一番「ライルの件、担当しているのか」と聞く。見た目のことには何も触れてもらえないことに少し、ほんの少しだけがっかりする。


私が「うん、ネイト班が担当だよ」と頷くと、レオは悲しそうな目をして、「いい奴だった。普段は気さくで、戦闘になると勇敢で。彼に命を救われたこともある」という。


「誰に聞いても、彼はいい人だったって言う」

「本当に気持ちの良いやつだった。戦場から生きて帰ってきて、王都で殺されるなんてやり切れない」

「そうだね」

「容疑者はいるのか」

「容疑濃厚な人物がいるけど、誰かは話せない。何の証拠もないし。今は容疑者の監視を続けているところ。何か出てくるといいんだけどね」


翌日出勤すると、班長がいない。


「班長は?」

「第二王子直々の呼び出しで王宮へ」

「何でですか?」

「ライル軍曹と戦友だったんだってさ。捜査状況が気になるんじゃないか」

「へえ…」


マッケナ一等兵を監視していると、彼も王宮に呼ばれた。さすがに王宮の中まではついていけない。出てくるのを待っていると、青い顔をした彼がよろよろしながら出てきた。そのまま詰所へ向かい、中に入っていく。どうしたことかと後を追うと、なんと自首したらしい。王宮で何かあって、態度をコロリと変えたのだ。何があったのか聞いても、彼は頑なに答えなかった。


「ライルの事件、解決したんだな」

「うん。睨んでた容疑者が犯人だった」

「メグが見つけた手紙が突破口だったそうだな。治安部隊の知り合いに聞いた。お手柄じゃないか」

「そうなんだけど、なんでいきなり自首したのかいまだに腑に落ちない」


証拠は何もなくて、前日まで断固犯行を否定していたのに、どうして。王宮で何があったのだろう。そう呟くとレオは「まあいいじゃないか。とにかく葬儀までに解決して良かった」と微笑んだ。


「俺も葬儀には出るから、メグたちの頑張りについて伝えておこう」

「そんなの不要。それよりご遺族に心からのお悔やみを伝えてほしいわ」

「わかった。ところで、ライルが同性愛者だったことは公表されるのか」

「ううん」


生前彼は隠していたのだし、エズワルドさんも家族も公表は望まなかった。事件の動機はぼかして公表される。


「個人的には釈然としないけど。ライル軍曹は何も悪いことはしていないのに公表できないなんて。立派に戦って国を守り、ひたむきにエズワルドさんを愛していた人だよ。どこに隠すべきところがあるっていうの?」

「同意する。けれど本人たちの意思が何より大事だ。遺族の意向と平穏な生活もな」

「うん…そうだよね」

「いつか、隠さなくていい社会に変わるといいな」

「そうだね」

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