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ドレスの下には短剣を  作者: こじまき
騎士から妃へ

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立場

シェルターが再スタートし、ポピーがリロイの店で働き始めてから数カ月。リロイから手紙が届いた。


「え、これ夢…?」


手紙を読んで、パンパンパンパン!と両頬を叩く私にリリナが目を丸くする。


「妃殿下、急にどうなさったのですか?」

「リリナ、リロイが結婚するって!」

「まあ、リロイ坊っちゃまが。おめでたいことですわね。お相手はどなたですの?」

「ポピーよ!シェルターにいたポピー!ねえ、リリナも読んでみて!そして、"夢じゃない"って言って!」


リリナの両手をとり、くるくる回りながら跳びはねる。「あらあら、妃殿下ったら」とリリナは呆れながらも嬉しそうだ。子どもっぽいことをしているとはわかってはいるけれど、嬉しくて動かずにはいられない。


「殿下、リロイの結婚式には出席しても構いませんわよね?」


ニコニコ顔でレオに聞いたが、苦い顔をされる。そばに控えている班長…ネイト近衛隊長もアサファも苦い顔だ。


「レイダー邸での開催?ちゃんと警備ができるか確認してからでないと許可は出せない」

「リロイは大切な友人です。警備がどうあれ、出席しないなんてあり得ませんわ」

「立場を考えろ」

「むう…でも班長…ネイトも出席いたしますわよね?ロナルドもシュミールもギルバートも招待されているでしょう。元ネイト班の中で私だけ出られないなんて、悲しすぎます」


リロイの家であるレイダー邸には何度も行ったことがあるけど、警備はそんなに難しくないはず。結局私は出席を許可され、しかもレオまで一緒に来ることになった。


「リロイ!ポピー!本当におめでとう!ああポピー、なんて綺麗なのかしら」


私はポピーを抱きしめる。


「ウェディングドレス、とっても素敵」

「シェルターのみんなの手作りなんです。エレクタさんの指導の元、みんなで縫ってくれて」

「まあ!まあまあまあ!ますます素敵ね。よく見せて」


そしてリロイのことも抱きしめる。


「リロイも似合ってるわ」

「ありがとうございます。マーガレット妃殿下、ポピーと出逢わせてくださったことに心より感謝申し上げます」

「そんな…こんなに幸せな気持ちにさせていただいて、私の方がお礼を言いたいくらいですわ」


「あなたが幸せになってくれて嬉しい。大好きよ、リロイ。私の永遠の親友」と耳元で小さく囁いたら、リロイは微笑んで頷いた。


ああ、なんて幸せそうな二人。まだ小さいポピーの息子カエラスも、普段とは違う雰囲気にキョロキョロしつつもなんだか楽しそうだ。


披露宴ではリロイがポピーとの馴れ初めを披露してくれる。店で働く彼女の健気さや頑張りを好ましく思い、彼女に読み書き計算を教えたり、一緒に新メニューやイベントを考えたりしながら仲が深まっていったそうだ。プロポーズしたとき、ポピーはサルムの血を引くカエラスのこともあって躊躇ったそうだが、「二人とも愛してる」と言われて受け入れた。


そんな話を聞きながら、シュミール様と一緒に「いい話」「泣ける」「さすがリロイ」「いい男だ」とボロボロ泣いてしまい、班長、ロナルド様、ギル様に「一緒にいる俺たちが恥ずかしい」と迷惑そうにされる。ハンカチの容量が足りなくて、苦笑するレオからハンカチを借りる始末だ。


カエラスがトコトコとこちらに歩いてきた。まだ一歳半、おぼつかない足取りなのが可愛い。私の足元で立ち止まってこっちを見上げる。髪や目の色は実の父親であるクソ伯爵譲りだが、顔立ちはポピーによく似ている。リロイなら、あの二人なら、大丈夫。この子のこと、立派に育てていける。


「カエラス、お父様とお母様の結婚を一緒にお祝いしましょう」と彼を抱き上げ、膝の上に座らせる。抱いてもらうのが嬉しいのか、「あっあっ」と嬉しそうに声を上げ、私の隣に座っているレオの髪に、よだれまみれの手を伸ばす。レオはカエラスに頭を近づけて、「いたたた」とおどけながら髪の毛を引っ張らせてあげる。髪がベトベトになるのも嫌がらずに。そして私の膝の上からカエラスを抱き上げて、揺すったり、手でいろんな形を作って見せてあげたり、話しかけたり、カエラスが指差すものの名前を「あれは蝋燭」「これはスプーン」と教えてあげたりする。レオは子どもと遊ぶのが上手なようだ。意外…


こちらを眺めながら、「楽しみですね、妃殿下」と笑みがのった小さな声でシュミール様が言う。


「え?」

「お二人のお子様」


でも、楽しそうなシュミール様の言葉は私の耳を通り抜けていった。窓の外に見える隣の屋敷から火が出ているのに気付いてしまったから。隣の屋敷…つまり私の実家であるフリン邸。


私は弾かれるように立ち上がって会場を出る。「お気を悪くされたのなら…」というシュミール様の声。確かに子どもがいない夫婦に子どもの話題を振るのは無神経だが、今はそんなことには構っていられない。直後にレオや班長も火事に気づき、みんなで飛び出してくる。


何人かの使用人が庭に逃げてきていた。執事のニコラスもいる。


「ニコラス!お父様とお母様はっ!?お兄様は?アーサーはっ!?」

「旦那様とラッセル坊っちゃまはそちらに」

「お父様、お兄様!」


二人は、火傷を負っているが助かりそうだ。


「奥様とアーサー坊っちゃまは、おそらくまだ中に…厨房から火が出たようで…申し訳ございません…」

「いいの…いいのよ。自分の身を守ることが最優先だから。ニコラスはここでお父様、お兄様、それに使用人のみんなをお願いね。治安部隊や近衛隊のみんながいるから、指示に従って処置を」


それだけニコラスに指示して、私は駆け出して屋敷の中に入る。後ろから「メグ、戻れ!」というレオの声が聞こえるが、一人で戻る気なんてない。お母様、アーサー、どこ?


一階の廊下にリリナの姉のマルタが倒れているのを見つけた。生きているか確認する。だめだ…リリナの顔が浮かぶ。けれど彼女を運び出している余裕はない。ごめんね、ごめんねマルタ。今は急いでお母様とアーサーを探さないと。


廊下の奥に倒れそうになりながら咳き込んでいるお母様がいた。良かった、生きてる。


「お母様!」

「メグ!?」

「早く外へ」

「アーサーが奥にいるのよ」

「二人とも運んでいる余裕はありません」

「じゃあ私を置いてアーサーを助けに行って!あなたたち二人で奥の出口から出てちょうだい」


けれど奥の部屋に行ける状態ではない。


「お母様、だめです。私たち二人で表から出ましょう」

「だめよメグ!弟を見捨てるの?」


私だってアーサーを諦めたくはない。けれど、前にレオに言われたこと。「どちらかを選ばないといけないときが来る」と。まさか母と弟のどちらかを選択しないといけなくなるなんて。


「私たち二人で逃げるか、三人とも死ぬかです。話し合っている時間はありません。早く!」


そう叫んだとき、天井が崩れてきた。お母様の頭を守って姿勢を低く。狭くなってしまった廊下。出来るだけ低くなって外へ…早く…ああ、まずい。息が…熱い…


「メグ!」


そう声がして、誰かに支えられる。班長だ。ロナルド様がお母様を抱えてくれる。お母様はロナルド様にも「アーサーが奥に」と訴えるが、「ここからいけません」と首を振られた。


外に出るとお父様、お兄様が駆け寄ってくる。お母様は「メグ…なんてことなの…アーサーを…」と、それっきり言葉が続かない。


「お母様、申し訳ありません。こうするしかありませんでした」


炎に包まれる我が家を見つめる。まだ家にアーサーがいるけれど、もう中には入れない。アーサー、ごめんなさい。お姉様を許して。私と同じピンクの髪に緑の目。くりくりした瞳で「お姉様、お姉様」と私の後をついてきていた可愛い弟の姿が思い出される。ごめん、アーサー、本当にごめん…愛してる…


「妃殿下、お怪我は?」

「…火傷だけよ」


アサファが手当てをしてくれるのをぼんやりと眺める。頭の中にはアーサーのことばかり浮かんでくる。ごめん、ごめんね…


「メグ!」と声がしてレオが駆け寄ってくる。


「裏からシュミールが入ってアーサーを助け出した。今病院に向かってる」

「よかった…」

「ああ」


「メグも無事でよかった」と抱きしめてくれるのかと思ったが、違った。紫の瞳に怒りが宿っている。私の肩を強くつかんで「立場を考えろ」と強い口調で言う。辛うじて怒鳴ってはいないが、もうその一歩手前だ。怒鳴りたいのを必死で抑えているのがわかる。


「メグ…王太子妃が中に入るから、ネイトもロナルドもシュミールも中に入らざるを得なかった。無鉄砲な行動が大切な臣下を危険に晒す。もう一騎士じゃないんだ。理解しろ」


私の立場…私、わかってたつもりでまだわかってなかった。こんな危険な場所でも私の後ろをついてくる人たちがいるってこと。自分の命を捨ててでも、私を守ろうする臣下たちがいるってことを。


いつも自制して、節度を保って、そんなレオのそばにいるのに。誰よりそばで見てたのに。


「申し訳…ありませんでした…殿下」


「わかればいい。ネイトたちにも謝れ」とだけ言ってレオは私から手を離し、そのまま私の家族たちの様子を見に行った。きっと…きっと彼は私に失望してる。


「妃殿下、大丈夫ですか?」とシュミール様が手をとってくれる。「ええ、アーサーのことありがとう。危険なことをさせてごめんなさい」と答えたときに涙が溢れてきた。

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